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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➌ 中東和平をめぐる情勢

1948(昭和23)年のイスラエル建国以来、イスラエルとアラブ諸国との間で四次にわたる戦争が行われた。その後、93(平成5)年にイスラエルとパレスチナの間で締結されたオスロ合意により、本格的な交渉による和平プロセスが開始された。03(平成15)年には、イスラエル・パレスチナ双方が、二国家の平和共存を柱とする和平構想実現までの道筋を示す「ロードマップ」を受け入れたが、その履行は進んでいない。パレスチナ自治区においては、ヨルダン川西岸地区を統治する穏健派のファタハと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが対立し、分裂状態となっている。ファタハとハマスは17(平成29)年10月以降、エジプトの仲介により、ファタハへのガザ地区の統治権限移譲に向けた直接協議を行っているが、交渉は停滞している。

こうした中で、トランプ米政権が17(平成29)年12月、米国はエルサレムをイスラエルの首都と認めると発表し、18(平成30)年5月には駐イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。これを受けて、ガザ地区を中心に抗議行動が繰り返し行われており、イスラエル軍との衝突による死傷者も出ている。また、ガザ地区からイスラエル領内に向けてロケットが発射され、これに対してイスラエルがガザ地区への空爆などを実施するなど、継続的に緊張が高まっている。さらに、19(平成31)年3月、トランプ米政権がゴラン高原のイスラエル主権を認定したことに対して中東各国から批判が相次いだ。20(令和2)年1月には、同政権が新たな中東和平案を発表したものの、パレスチナ側は同案に示されたエルサレムの帰属やイスラエルとパレスチナの境界線などに反対し、交渉を拒否している。こうした中、米国の関与のあり方も含めた中東和平プロセスの今後の動向や、ガザ地区の統治権限の移管に向けた交渉の行方が注目される。