女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security)、いわゆるWPSは、紛争、災害などの発生時に、より脆弱な立場に置かれる女性、女児などを、特に保護すべき対象であるとして、女性、女児などの保護・救済に取り組みつつ、女性が指導的・主体的に、紛争の予防、復興および平和構築、ならびに防災、災害対応や復興のあらゆる段階に参加することで、より持続的な平和に資することができるという考え方をいう。
1990年代、旧ユーゴスラビアやルワンダの内戦における大規模な性的暴力が世界的な注目を浴びた。また、1995年には、北京において第4回世界女性会議が開催され、北京宣言を踏まえた行動綱領の中で、紛争解決の意思決定レベルへの女性の参加を増大し、武力またはその他の紛争下に暮らす女性を保護することが戦略目標として明記された。さらに、1998年に採択された国際刑事裁判所に関するローマ規程において、紛争下の性的暴力は戦争犯罪と明記された。
こうした国際的な潮流を背景に、2000年、紛争下の女性をめぐる課題に焦点を当てた初めての安保理決議である女性・平和・安全保障(WPS)に関する決議第1325号が全会一致で採択された。同決議は、「参画」、「予防」、「保護」、「救援と復興」を4つの柱として明記し、全ての取組にジェンダー主流化9が要請されている。以降、同決議を補完する観点から、WPSに関連する安保理決議が順次9本採択され、これら10本の決議に記載された取組を総称して「WPSアジェンダ」と呼んでいる。
KEY WORD「ジェンダー」
「社会的・文化的に形成された性別」のこと。人間には生まれついての生物学的性別(セックス/sex)がある。一方、社会通念や慣習の中には、社会によって作り上げられた「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー/gender)という。「社会的・文化的に形成された性別」はそれ自体に良い、悪いの価値を含むものではなく、国際的にも使われている。
近年、国際情勢が不透明さを増す中、WPSの考え方は益々重要になっている。
わが国は、WPSに関する安保理決議の履行のため、2015年に第1次行動計画を策定した。本行動計画はその後改定され、現在は2023年に策定された第3次行動計画に沿って、WPSに関する取組を進めている。
わが国の行動計画は、紛争のみならず、災害の項目も含めている点に特徴がある。これは、わが国が2011年の東日本大震災をはじめとする多数の大規模自然災害に見舞われ、それらを乗り越えてきた経験から、ジェンダーの視点を防災、災害対応、気候変動、復興のあらゆる段階に取り入れることが重要と認識したことによるものである。また、行動計画は、国際的な取組だけでなく、国内の取組も規定しており、防衛省を含む各省庁において、外交・安全保障、防災や災害対応にかかわる政策意思決定の場への女性の登用・参画の推進やジェンダー視点10に立った政策、施策の整備・実施を推進していくとしている。
WPSの推進は、国民の生命、身体などの保護、防衛力の抜本的強化に加え、国際社会の平和と安定に寄与するものであり、防衛省・自衛隊としても推進していく必要がある。
第一に、国民の生命、身体などの保護に関して、在外邦人等の輸送や災害派遣における被災者へのきめ細かな生活支援などの活動を行う機会が近年増加している。こうしたなか、女性や女児などのニーズを踏まえ、ジェンダー視点に基づき体系的に対応することにより、国民の生命、身体などの保護に直接寄与していく。
第二に、防衛力の抜本的強化に関して、WPSは、安全保障分野などにおける意思決定過程への女性の参画などを掲げており、これまで防衛省が取り組んできた女性活躍推進施策などと密接に関連するものである。WPSの推進は、女性を含む多様な人材が能力を発揮できる環境をもたらすものであり、こうした多様性はオペレーションの効率化という点でも重要である。このように、WPSを推進することは、その活動の主体である防衛省の人材育成および組織の能力強化に繋がり、防衛力の抜本的強化のために必要不可欠である。
第三に、国際社会の平和と安定への寄与に関して、2023年に岸田内閣総理大臣(当時)が発表した「FOIPのための新たなプラン」では、平和の原則および繁栄のルールはFOIPの屋台骨との考えのもと、弱者が力でねじ伏せられない国際環境を醸成するため、WPSの観点を踏まえた対応を明記している。PKOや国際緊急援助活動をはじめとする自衛隊の海外での活動を、より効果的に行うためには、WPSに関する視点が不可欠である。基本的人権の尊重および法の支配の確保を追求する諸外国の国防当局などと協調しつつ、防衛省としても、国際社会の責任ある一員として、WPSを推進し、平和と安定に寄与していく。
ア 防衛省全体の意識改革
防衛省・自衛隊は、WPSを推進する主体者としての認識を醸成するとともにジェンダー視点を取り入れた業務・活動の基盤を一層拡充するため、全隊員にWPSに関する知見を習得させることを目的とし、事務次官、各幕僚長などから新入隊員に至るまで、全隊員に対する反復的かつ継続的なWPSに関する基本的な教育研修を毎年実施している。また、各種課程教育、幹部昇任時の教育研修および国内外の関係派遣前研修などにも、各組織に応じたWPSに関する講義を組み込むよう取組を推進している。
イ WPS推進体制の整備
防衛省・自衛隊は、隊員一人一人にWPSの認識や、ジェンダー視点を政策の企画・立案に反映させることの意義を浸透させ、全自衛隊員の意識改革や国際的な連携の取組などをさらに強化するため、2023年に防衛大臣政務官を本部長とする防衛省WPS推進本部を設置した。
防衛省WPS推進本部は、これまで5回の会合を開催した。特に、2024年4月、第3回会合において「防衛省女性・平和・安全保障(WPS)推進計画」を策定し、本推進計画において、政府のWPSに関する行動計画を踏まえ、防衛省として①防衛省全体の意識改革、②WPS推進体制の整備、③諸外国、機関等との連携、④自衛隊の活動へのジェンダー視点の反映について2028年度までに実施すべき事項を定めた。また、2026年3月、若林大臣政務官は第5回会合を開催し、WPSを戦略的に推進するための今後の取組の方向性などを議論した。
2024年以降、WPSの推進に主導的な役割を果たす高官に助言を与え補佐する役割を担うジェンダー・アドバイザーを、本省内部部局や各幕僚監部に配置するとともに、2025年4月、本省内部部局にWPS国際連携室を、陸幕にWPS推進室をそれぞれ設置した。また、部隊運用に関する計画、任務などにジェンダー視点を取り入れるため、所属部隊などの指揮官を補佐する自衛隊ジェンダー・フォーカルポイントの育成を進めており、2026年5月時点で約100名の自衛官・事務官が研修を修了している。
ウ 諸外国、機関等との連携
2023年以降、インド太平洋地域諸国に対して実施中のPKO、HA/DR、衛生分野の能力構築支援の枠組みにWPSの要素を反映させ、WPSに関するセミナーや意見交換を行うとともに、直近では2025年のフィリピンに対するHA/DR分野の能力構築支援事業の救助活動の演練にWPSの要素を反映させるなど、WPSを通じた各国国防関係者との連携を強化している。さらに、2025年7月に開催された「第2回 日ASEAN WPS協力プロジェクト」については、ASEAN諸国に加え、オブザーバーとして東ティモール、フィジー、パプアニューギニア、トンガおよびチリの防衛当局などに所属するWPS実務者が参加し、国連専門家による助言付与や多角的な議論を行い、インド太平洋地域におけるHA/DR分野のWPSの要素を反映させる重要性について、参加者の意識や理解の向上に寄与した。
なお、多国間の枠組みでは、ASEANや島嶼国と実施するサイバーセキュリティ協力プログラムおよび乗艦協力プログラムにおいてWPS要素を反映し、各国参加者との意見交換なども実施するとともに、現在フィリピンとともに共同議長を務めるADMMプラスPKO海洋安全保障専門家会合においても、WPS推進を主目的の一つとして同活動を推進している。
エ 自衛隊の活動へのジェンダー視点の反映
国内では、自衛隊の活動をより効果的に実施するため、防衛省・自衛隊の戦略、政策、計画などに、ジェンダー視点を取り入れることを検討している。具体的には、防衛省・自衛隊がこれまで大規模自然災害時などにおいてジェンダー視点に則った対応を行ってきた知見などを踏まえ、「防衛省防災業務計画」にジェンダー視点を反映した。
また、わが国は、国内の災害対応に限らず、インド太平洋地域における大規模自然災害発生時には、国際緊急援助隊の派遣を含む緊急人道支援活動を行っており、自衛隊による災害対応は国内外問わず想定される。これらを網羅し、紛争下・災害救援下・国内・国外のケースごとに、全隊員がジェンダー視点を反映した活動を確実に実施できるよう、国際基準に沿ったハンドブックを作成している。
オ その他
2025年は、紛争下の女性をめぐる課題に焦点を当てた初めての安保理決議である女性・平和・安全保障(WPS)に関する決議第1325号が採択されてから25周年の節目であり、これを記念し国内外でWPSのイベントが開催された。防衛省としては、初めて一般参加型のWPSシンポジウムを主催し、内閣府、外務省、消防庁、JICAおよび国連女性機関とともに、防災・災害対応におけるWPSをテーマに公開討議を実施した。
参照図表III-3-4-2(主な関係国・国際機関のWPSに関する取組への貢献)、V部2章2節4項2(女性職員を始めとする多様な職員の活躍推進)

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資料:省HP:女性・平和・安全保障(WPS)に関する取組
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/wps/index.html