米国、中国、ロシアなどは、弾道ミサイルに搭載され、大気圏内を極超音速(マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し、目標へ到達するとされる極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)や、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic Cruise Missile)といった極超音速兵器の開発を行っている。極超音速兵器については、通常の弾道ミサイルとは異なる低い軌道を極超音速で長時間飛翔すること、高い機動性を有することなどから、探知や迎撃がより困難になると指摘されている。
米国は、2021年、米国防省高官が、極超音速兵器の開発構想に言及しており、2020年代初頭から半ばにかけて極超音速兵器を配備し、2020年代半ばから後半にかけて防衛能力を構築すると公表した31。同年、米陸軍は、HGV「LRHW(Long Range Hypersonic Weapon)」のプロトタイプを受領し、配備に向け訓練を実施しており、2024年6月と12月に発射試験に成功しているが、一方で、当初予定していた2025年末までとの配備計画の遅延も指摘されている。また、米海軍と米空軍も極超音速兵器を開発しており、米海軍はズムウォルト級ミサイル駆逐艦やバージニア級原子力潜水艦への搭載を目指しているとされている。
このほか、米国は、極超音速ミサイルの脅威に対して、滑空段階で迎撃するミサイル「GPI(Glide Phase Interceptor)」の開発を日米共同により進めている。
中国は、2019年の中国建国70周年閲兵式において、HGVを搭載可能な弾道ミサイルとされるDF-17を初めて登場させており、米戦争省は、中国がDF-17の運用を2020年には開始したと指摘しているほか、弾道ミサイルDF-27にもHGVが搭載される可能性に言及している32。また、2025年9月の軍事パレードにおいては、HCMとされるCJ-1000に加え、艦艇発射型として、HGVとされるYJ-17やHCMとされるYJ-19が初めて登場した。
ロシアは、HGV「アヴァンガルド」を既に配備している。アヴァンガルドを搭載可能とされる新型ICBM「サルマト」については、2023年から2025年にかけて、発射試験の失敗が続いた可能性が指摘されているものの、2026年5月には、ロシア政府により発射成功が発表されており、同年末に配備される予定とされている。また、2021年にHCM「ツィルコン」の潜水艦発射試験に成功したほか、ツィルコンを搭載したフリゲートが2023年から戦闘哨戒任務を開始し、2024年2月には、プーチン大統領が、ウクライナにおいて、ロシア軍がツィルコンを使用した旨初めて言及している。ツィルコンは、既に海軍部隊に配備済であり、2025年9月には、ベラルーシと合同で実施した軍事演習「ザーパド2025」で発射訓練が行われた。
北朝鮮は、極超音速滑空飛行弾頭の開発を優先目標の一つに掲げ、研究開発を進めているとみられ、2021年以降、「極超音速ミサイル」と称するミサイルを発射している。
レールガンや高出力レーザー兵器、高出力マイクロ波兵器などの高出力エネルギー兵器は、多様な経空脅威に対処するための手段として開発が進められている。
レールガンは、電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を打ち出す兵器であり、使用する弾丸はミサイルとは異なり推進装置を有していない。このため、小型・低コストかつ省スペースで備蓄でき、多数のミサイルによる攻撃にも効率的に対処可能とされている。
レーザー兵器は、高出力のレーザーエネルギーにより対象を破壊する兵器であり、多数の小型無人航空機や小型船舶などに対する低コストで有効な迎撃手段として、米国、中国、ロシアなどで開発されている。
高出力マイクロ波兵器は、無人航空機、ミサイルなどに搭載された電子機器を破損または誤作動させる兵器である。
米国は複数のレーザー兵器の開発を進めており、2025年6月、米陸軍は無人航空機群を標的に50kW級の車載型レーザー兵器「DE M-SHORAD(Directed Energy Maneuver-Short Range Air Defense)」の実弾射撃試験を実施し、無人航空機群の無力化に成功したほか、2023年には300kW級のレーザー兵器の開発契約を締結している。米海軍においても、2022年には60kW級レーザー兵器「HELIOS(High Energy Laser and Integrated Optical-dazzler with Surveillance)」が、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「プレブル」に搭載され、2026年1月に無人航空機4機に対して照射し無力化することに成功している。なお、HELIOSの出力を将来的に150kWまで高め、センサーやエンジンが露出していない無人航空機に対して有効性を発揮することも計画されている。
高出力マイクロ波兵器については、2023年、米空軍が、スウォーム飛行を模擬した多数の無人航空機に対して、高出力マイクロ波兵器「THOR(Tactical High-power Operational Responder)」を使用し多数の無人航空機を効果的に無効化したとしている。また、米海兵隊は、AIによる無人航空機の検出・追跡機能と高出力マイクロ波兵器の融合について評価を行っている。
中国は、2024年の中国国際航空宇宙博覧会において、小型無人航空機を対象とした出力不明の車載型レーザー兵器「LW-60」を公開した。また、低軌道周回衛星の光学センサーを妨害または損傷させることを企図していると思われる対衛星レーザー兵器を配備しているとの指摘があるほか、さらに高出力のレーザー兵器も開発中との指摘もある。
ロシアは、出力数10kW級のレーザー兵器「ペレスヴェト」を既に配備しており、対衛星兵器として出力数がMW級の化学レーザー兵器も開発中との指摘がある。
イスラエルは、2025年9月に出力が100kW級の車載型防空用レーザー兵器「アイアン・ビーム」の開発が完了し、この兵器によるロケット砲、迫撃砲、無人航空機などの多岐にわたる脅威に対する迎撃能力が実証され、一連の試験に成功したことを発表した。同年12月には、最初の「アイアン・ビーム」が部隊へ引き渡され、今後、部隊に順次配備されていくと考えられる。
英国防省は、2025年11月、英国初となるドラゴンファイアと呼ばれる高出力レーザー兵器を用いて、時速650kmで飛行する無人航空機の撃墜に成功した旨発表した。ドラゴンファイアは、1発あたり10ポンドと安価であるほか、1km離れた場所から1ポンド硬貨に命中させるほどの精度を持っているとされており、2027年に英海軍の45型駆逐艦に搭載するための契約が締結されている。さらに、陸軍車両や空軍戦闘機への搭載も検討されている33。
AI技術は、指示に従い自然な文章や画像などを生成できる生成AI、目標達成のために必要な情報を自ら分析するなど自律的に動くAIエージェント、AIが頭脳となり実世界で物理的な身体を用いて自律的に行動・学習できるようになるフィジカルAIなど、技術開発が急速に進んでいる分野の一つである。軍事分野においては、指揮・意思決定の補助、情報処理能力の向上に加え、無人航空機への搭載やサイバー領域での活用など、影響の大きさが指摘されている。
ア 米国・欧州
米国におけるAIの活用の一例として、米陸軍が推進する「プロジェクト・メイブン」において開発された「メイブン・スマート・システム」と呼ばれるAIシステムが、戦闘空間の迅速な評価、大量のデータの収集、AIを使用した収集データの分析による目標の特定と攻撃を可能とするとされており、2024年5月、米国防省は民間企業との開発契約を公表し、2025年には、この契約の上限額を2029年までに約13億ドルに引き上げている。また、2025年4月には、NATOもこのシステムの取得契約に合意したと発表している34。
イ 中国
中国は、2020年、次世代指揮情報システムの研究・開発を目的に、中央軍事委員会がAI軍事シミュレーション競技会の開催を発表している。米国防省は、中国が2025年までにAIの研究開発で欧米を追い抜き、2030年までにAIで世界のリーダーとなることを目指していると指摘している35。
ウ イスラエル
イスラエルは、2023年に発生したパレスチナ武装勢力との衝突において、ガザ地区の攻撃目標選定の過程で「ラベンダー」と呼ばれるAIシステムを活用していることが指摘されている。ガザ市民のスマートフォンなどにインストールされている通話アプリのデータをAIに解析させ、そのスマートフォンなどの持ち主とハマスなどとの関係性を評価していると指摘されている。また、この衝突においては、「ゴスペル」と呼ばれるAIシステムも、物理的な攻撃目標の選定と優先順位付けを支援するために使用されたと指摘されている。なお、イスラエル軍は、テロ工作員の特定や工作員かどうかを予測するAIは利用していないと発表している旨、報じられている。
各国は、AIを組み込んだ無人システムの開発を進めている。
ア 米国
米国では、空対空戦闘の自動化や有人航空機・無人航空機の連携、海洋監視任務での実証など多様な研究開発を実施している。2023年、米空軍では、AI操縦のXQ-58A無人航空機の有人航空機との編隊飛行や、模擬された任務・武器・敵に対する戦術飛行の試験を行っているほか、同年には、数千規模のAIを活用した安価な自律システムを導入するとする「レプリケーター1」構想を発表している。また、2024年9月に発表された「レプリケーター2」構想は、無人航空機の脅威に対抗することに特化したものであるとされている。
イ 中国
中国は、2018年、中国電子科技集団公司がAIを組み込んだ200機の無人航空機によるスウォーム飛行を成功させており、スウォーム飛行を伴う軍事行動が実現すれば、従来の防空システムでは対処が困難になることが想定される。2023年には、無人航空機の空中戦を想定したAIアルゴリズム競技会を開催している。
また、最近では、人民解放軍が、中国企業が開発した高性能かつ低コストの生成AIモデルであり、自然言語処理に特化しているとされるDeepSeekのAIモデルを無人航空機に活用していると指摘されている。例えば、2025年2月に発表された時速50キロで自律的に戦闘支援作戦を実行できる軍用車両には、DeepSeekの技術が搭載されていると指摘されている。
ウ ロシア
ロシアは、2019年、S-70大型無人航空機(オホートニク)と第5世代戦闘機であるSu-57戦闘機との協調飛行の試験を行っている。オホートニクは、2023年6月、ウクライナ侵略における作戦で初めて使用され、2024年10月には、ウクライナ東部ドネツク州で墜落したと指摘されている。
また、2025年2月以降にAIを組み込んだ無人航空機「V2U」を運用しているとウクライナ国防省情報総局が指摘している。この無人航空機は、AIを用いて標的を自律的に探索し選択できる旨が指摘されている36。
AIの軍事利用も含む自律型致死兵器システム(LAWS(ローズ):Lethal Autonomous Weapons Systems)については、2014年から特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW:Convention on Certain Conventional Weapons)の枠組みで議論されている。また、兵器に限らず、より広範なAIの軍事利用を扱う取組として、2023年には国際法上の義務に従い責任ある利用を確認した「REAIM(リエイム:Responsible Artificial Intelligence in the Military Domain)宣言」や、責任ある人間の指揮命令系統のもとで運用し、責任の所在を明らかにする必要があることを確認した「AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」が、2024年には「REAIM行動のためのブループリント」が、2026年には「REAIM行動のための道筋」が発表され、わが国も支持を表明している。
量子技術は、原子核や電子などミクロな世界で働く量子力学を応用することで、社会に変革をもたらす重要なデュアルユース技術とされ、陸、海、空、宇宙、サイバー領域といったオールドメインでの活用が期待されている37。
米国は、2023年に公表した国防科学技術戦略において、量子技術を重要技術とし、同盟国との連携や技術革新を強化するとしている。
中国は、2026年3月に策定した第15次5か年計画において、量子技術などの未来産業に先行投資して育成し、大きく成長させるとしている。
また、NATOも2024年1月、NATO量子技術戦略を初めて公表し、量子技術を防衛・安全保障にどのように応用できるかを概説している。
量子暗号通信は、第三者が解読ができない暗号通信とされ、各国で研究されている。中国は、量子暗号通信衛星「墨子(ぼくし)号」と北京・上海間の地上通信網からなる4,600kmの量子暗号通信網を構築したほか、2022年には、合肥(ごうひ)市の共産党や政府機関などに量子暗号化サービスを提供している。また、2022年7月には、「墨子号」の20分の1のコストであるとされる「済南(さいなん)1号」小型量子暗号通信衛星を打ち上げた。2025年3月には、「済南1号」を用いて1万2,900km離れた南アフリカと北京ステーションとの間で、量子鍵配送を実現した旨発表されている。
量子センシングは、磁場、電場、温度、加速度などの物理量を極めて高い感度で測定することで、将来的に、ミサイルや航空機の追跡用途のほか、より進化したジャイロや加速度計として使用できる可能性38が指摘されている。これにより、探知能力の向上、妨害耐性の強化を通じて、ISR能力の向上が期待される。
米国は、GPSの代替として、2023年、量子磁気センサーによる磁気航法の実証に成功したほか、量子慣性センサーによる慣性航法の開発のため、量子ジャイロを搭載した衛星を開発している。
中国は、2025年4月に潜水艦探知用の無人航空機に搭載した、感度ピコテスラ(10兆分の1)級の量子磁力計を実証した。
量子コンピュータは、スーパーコンピュータでも膨大な時間がかかる問題を短時間で計算できるとされ、現在広く使用される暗号方式を破る能力を持つ可能性があるため、通信の機密性に大きく影響を与える可能性がある。
また、SDA、作戦後方支援、無人航空機の制御などの複雑な最適化の支援に使われるほか、CBRNE(Chemical, Biological, Radiological, Nuclear and Explosive)に関するシミュレーションにも活用が期待される。一方、量子コンピュータでは解読が困難な耐量子計算機暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)への暗号技術の移行も各国で検討が進んでおり、米国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)は2024年8月、最初のPQC標準を公表している。EUにおいては、欧州委員会が加盟国に対してPQCへの移行に向けた戦略の策定を求めている。2025年6月には欧州委員会がロードマップを発表し、2030年末までに、重要なシステムのPQC移行を完了することを目標としている。なお、中国はPQCの導入について、NISTの標準とは異なる独自のアルゴリズムによることを検討しているとみられる。
3Dプリンターに代表される積層製造技術は、低コストでの製造や、在庫に頼らない部品調達など各国で軍事分野への応用が期待されている。
米国は、2021年に公表した「積層製造技術の利用」において、軍事サービスの自立性・即応性向上を図るとし、3Dプリンターを一部の水上艦や潜水艦に搭載している。各軍種の取組の一例としては、米陸軍では、積層製造技術を活用し、供給不足の解決に積極的に取り組んでおり、この技術を活用して部隊が現地で金属製の部品を製造することにより、部品の輸送が不要となるとされている。また、技術を活用するための要員育成のため、教育訓練課程での高度な製造技術にかかる課程を大幅に強化した39。
このほか、中国が軍用機の部品製造に3Dプリンターを使用しているとされる。また、ウクライナでは無人航空機の部品などの製造に3Dプリンターを活用している。
31 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2024年)による。
32 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2024年)による。
33 英国政府HP「Boost for Armed Forces as new laser weapon takes down high-speed drones」(2025年11月)による。
34 NATO HP「NATO ACQUIRES AI-ENABLED WARFIGHITING SYSTEM」(2025年4月)による。
35 米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(2024年)による。
36 ウクライナ国防省情報総局HP「BARRAGE MUNITION WITH ARTIFICIAL INTELLIGENCE V2U」による。
37 SIPRI「Military and Security Dimensions of quantum technologies」(2025年7月)による。
38 2021年2月23日付の米国防省HPによる。
39 米陸軍HP「Transforming Advanced Manufacturing Within the Ordnance Corps」(2025年1月)による。