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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第2節 各国の取組

ロシアによるウクライナ侵略では、無人アセットの大量運用・用途拡大やAI(Artificial Intelligence)の活用、偽情報の流布などの情報戦といった、新しい戦い方がみられている。また、侵略が長期化するなかで、両軍とも装備品・弾薬を急速なペースで消費しており、持続的な対応能力を確保することの重要性が浮き彫りとなっている。

現在、各国では、こうしたウクライナ侵略が明らかにした状況を教訓として新しい戦い方や長期戦への備えを急いでおり、例えば、安全保障・防衛分野での無人航空機やAIの活用、偽情報への対策を含む情報戦、平素からの備蓄や防衛生産・技術基盤の強化といった継戦能力の確保などに向けた取組を進めている。

1 米国

米国では、第2期トランプ政権のもと、安全保障分野での無人航空機、AIの活用や、継戦能力の強化などにかかる政策および取組を進めている。

トランプ大統領は無人航空機について、2025年6月、「米国の領空主権の復活」と題する大統領令を発出し、無人航空機は犯罪者やテロリストなどに悪用されることにより米本土への脅威となっているとし、国民の活動や政府施設などを不法な無人航空機の活動などから防護するなどとした。さらに、「米国の無人航空機優勢の解放」と題する大統領令を発出し、無人航空機試験・運用の加速や、米国内における製造の増加、世界市場への輸出に向けた政策の策定を求めた。特に戦争省に対しては、米国内で製造されたコストパフォーマンスに優れる無人航空機の調達と訓練での使用、戦争省が調達対象とする無人航空機の拡大、無人航空機を用いた訓練への障壁となる電磁波関係規則の見直しや無人航空機に置換する方がより効果的・高威力(lethal)となる事業の洗い出しなどを求めた。

これを受け、ヘグセス長官は同年7月、「米国の軍用無人航空機優勢の解放」と題する覚書を発出し、無人航空機はここ数十年で最大の戦場における革新事項で、同年のウクライナ侵略における死傷の最大の原因であるとした。また、敵対勢力のみならず世界的にも軍用無人航空機の生産が大幅に増えているにもかかわらず、前政権の規制のため、米軍は現代の戦争で必要となる十分に高威力の小型無人航空機を装備できていないとした。これらを踏まえた取組としては、米軍が取得する米国製無人航空機の範囲を大幅に拡大し製造基盤を強化すること、種々の低コスト無人航空機を装備することにより技術発展を促すこと、戦闘を予期した訓練を行っていくことをあげている。

また、AIに関しては、同年1月、「人工知能(AI)にかかる米国主導の障壁撤廃」と題する大統領令を発出し、世界における米国のAIにかかる優勢を維持強化する政策の策定と、同政策の遂行の障壁となる前政権の規則などの見直しを求めるとした。同年7月には、「米国のAIアクションプラン」と題する政策文書を発表し、AIにかかる競争での勝利が、米国国民の繁栄、経済的競争、そして国家安全保障に資するとして、AIにかかるイノベーションの促進、インフラ建設、外交安全保障における主導権獲得について定めた。安全保障分野では、戦争省は積極的にAIを取り入れることとし、AIにかかる人材確保・雇用の促進、AIおよび自律システムの試験施設を設けることなどが述べられた。また政府として、CBRNE1兵器やサイバー攻撃事態に備えAIを活用することとされた。

これらを受け、2026年1月、ヘグセス長官は「米国の軍事AI優勢の加速」と題する覚書を発出し、安全保障分野では、次の10年間で、AIを用いた戦争と能力構築が軍事力の特性を再定義するとし、軍として「AIファースト」の戦力となるべきことを示した。このため、全省的に先端AIモデルを試行すること、官僚主義的障壁を撤廃すること、米軍の実戦運用から得られたデータを活用することとし、これらを実施する取組を定めた。

AIの使用を呼び掛けるヘグセス戦争長官のポスター【米戦争省】

AIの使用を呼び掛けるヘグセス戦争長官のポスター【米戦争省】

継戦能力の強化に関しては、2025年12月の国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)、2026年1月の国家防衛戦略(NDS:National Defense Strategy)のいずれも防衛産業基盤(DIB:Defense Industry Base)の重要性について触れており、NSSにおいては重要なサプライチェーンと物資へのアクセスを確保し、防衛産業基盤を再生するとした。また、NDSにおいては、米国は再び、自国のみならず同盟国などにも大規模かつ迅速に最高品質での生産が可能な世界最高の「兵器庫」となる必要があるとした。この目標を達成するため、米国の防衛生産への再投資を行い、AIなどの新技術を導入し、また、時代遅れの政策・規制・慣行などの障害を取り除くこととしている。同時に、同盟国などの生産力も活用して同盟関係を強固な基盤におくことにより、「力による平和」の維持に役割を果たせるようにするとした。こうした米国の防衛産業基盤再生のためには、国家的動員に匹敵する取組が必要としている。

これら無人航空機、AI、継戦能力の分野において、戦争省においては既に種々の取組が行われている。例えば、2025年7月にはペンタゴンにおいて、随伴戦闘機2やシャヘド型の自爆型無人航空機に類似するものを含む各種の米国製無人航空機の展示が行われ、これらは平均18か月で構想から開発に至っているとし、今後戦争省は無人航空機を増産させるとした。同年8月には小型無人航空機対処について「統合省内タスクフォース401」が設立され、同タスクフォースは2026年1月、バイデン前政権時からの「レプリケーター23」構想に基づき、対無人航空機システムを調達したと公表した。また2025年12月には中央軍が、米軍で初となる自爆型無人航空機装備部隊の整備に向けたタスクフォースの設立を発表し、同月ヘグセス長官は、2026年には数万機、2027年までには数十万機の小型無人航空機を部隊に配備すると述べた。2026年3月、米中央軍は、イランが設計したシャヘド型の自爆型無人航空機をモデルにして開発した低コストの自爆型攻撃用無人航空機(LUCAS:Low-cost Uncrewed Combat Attack System)を実戦で初めて使用した旨発表している。

また、2025年12月には戦争省全機関で、生成AIが導入された。本件は「AIファースト」の労働力を養成し、より効率的で戦闘に備えた部隊を生み出すものとして、ヘグセス長官がSNS(Social Networking Service)やEメールで使用を呼び掛けている。またヘグセス長官は、2025年1月から「自由の兵器庫ツアー」と称して、米国内各地の造船所や新興企業を含む防衛関係企業を訪問し、海軍力の増強や、宇宙優勢および米国内製造の推進の重要性を訴えている。

「自由の兵器庫」ツアーで宇宙関連企業を訪問するヘグセス戦争長官【米戦争省】

「自由の兵器庫」ツアーで宇宙関連企業を訪問するヘグセス戦争長官
【米戦争省】

中央軍が自爆型無人航空機装備部隊の整備に向けたタスクフォースの設立を発表した際、戦争省が公表した画像【米戦争省】

中央軍が自爆型無人航空機装備部隊の整備に向けたタスクフォースの設立を発表した際、戦争省が公表した画像【米戦争省】

1 化学・生物・放射性物質・核・爆発物(Chemical, Biological, Radiological, Nuclear or Explosive)

2 米軍は、有人航空システムの残存性および打撃力を強化するため、随伴戦闘機として無人航空機を開発している。2025年7月の展示では、米海兵隊が開発中の機体が展示された。

3 バイデン前政権の2023年8月からの取組である「レプリケーター構想」について、必ずしも詳細は明らかではないが、戦争省は、レプリケーター1は複数領域における数千の自律システムの運用に焦点をおき、レプリケーター2は小型無人航空機の脅威への対処に焦点を置いていると説明している。