パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国やイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域では過激派組織が国境を越えてテロ活動を行っており、テロとの戦いにおけるパキスタンの動向はアフガニスタンの安定に重要な影響を及ぼしうる5。2025年10月以降、パキスタンとアフガニスタンの国境付近において、散発的な攻撃の応酬が発生している。
パキスタンは、インドの核・通常兵器による攻撃に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとの立場をとっており、2025年1月時点で約170個の核弾頭を保有すると指摘されている。核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発も継続し、既に戦術核ミサイル「ナスル」や、中距離弾道ミサイル「シャヒーンII」などを運用しているほか、2022年4月には、射程2,750kmの地対地弾道ミサイル「シャヒーンIII」の飛行試験に成功した。2023年10月には、MIRV化されたとする弾道ミサイル「アバビール」の発射試験を実施するなど、能力向上を進めている。
近年は装備品の近代化を進めており、共同開発や技術移転による国内生産にも取り組む一方、中国と軍事分野における関係を発展させており、中国への依存度の高まりがみられる。陸軍では、主力戦車として中国と共同開発した「アルハリッド」戦車を運用している。また、中国から「LY-80」や「HQ-9/P」などの防空システムを購入し、包括的階層統合防空(CLIAD:Comprehensive Layered Integrated Air Defense)システムを強化しているほか、パキスタンは無人機の導入を推進しており、中国やトルコからの調達のほか、国産無人機の開発も進めている。
海軍については、老朽化する艦艇の置き換えと増強や潜水艦の導入を進めており、中国やトルコと協力しているほか、両国と二国間共同演習を実施している。
空軍は、中国と共同開発し自国生産したJF-17戦闘機や中国製J-10CE戦闘機などを運用している。
2025年11月に憲法の改正を行い、陸海空軍などの指揮権を有する国防軍司令官新設などの改編や、元帥への終身階級、免責特権などの付与が行われた。同年12月、陸軍参謀長であるムニール元帥が、国防軍司令官に任命された。
パキスタンは、2001年の同時多発テロ以降、対テロ分野で米国と協力しており、米国は2004年にパキスタンを「主要な非NATO同盟国」に指定し、関係を強化してきた。しかし、テロ対応をめぐりお互い非難し合うなど、両国は緊張関係が続いた。2022年4月に発足したシャリフ政権下では米国との関係改善がみられ、同年9月、米国務省は、対テロ作戦を支援するためとして、パキスタン政府に対して最大4億5,000万ドルのF-16戦闘機の維持・サポートに関する契約を承認すると決定した。
一方、米国は2024年12月、長距離ミサイル開発による拡散上の脅威が継続していることを理由に、弾道ミサイル計画に関係するパキスタンの4つの企業や機関に対して、制裁を科す旨発表した。
軍種間では、対テロを目的とした二国間共同演習を定期的に実施しているほか、2025年7月には、インド洋において米海軍のミサイル駆逐艦とパキスタン海軍のフリゲートが海上演習を実施した。また、ムニール陸軍参謀長は、同年6月、トランプ大統領の招待を受けてホワイトハウスでの昼食会に参加したほか、同年9月にも、シャリフ首相と共にホワイトハウスにて、トランプ大統領と会談した。
2026年2月、イスラエルおよび米国がイランに対する攻撃を実施し、その後イラン側もイスラエルおよび周辺諸国へ反撃を行うなど攻撃の応酬が続いたが、同年4月にパキスタンのシャリフ首相らの仲介で、双方が一時停戦に同意した。その後も、パキスタンなどを介して米国とイランの間で和平交渉が行われ、同年6月に米国およびイラン双方が戦闘終結などに関する覚書に署名した旨を発表するに至った。
パキスタンと中国は、「全天候型戦略的パートナーシップ」のもと、密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、共同訓練、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力も進展している。海上輸送路の重要性が増すなか、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性は高まっていると考えられる。
一方、近年は中国人を標的としたテロ事件がパキスタン国内で相次いでおり課題になっている。そのようななか、両国は2024年11月から12月に対テロ共同演習「勇士(Warrior)」をパキスタン国内で2019年以来5年ぶりに実施しており、2025年11月から12月にも同演習を実施した。装備面では、同年8月に、中国製攻撃ヘリコプターZ-10MEの導入が、同年12月には中国で製造されたハンゴール級潜水艦の4番艦の進水が発表された。