世界最大の民主主義国家であり、急速な経済成長を遂げているインドは、南アジア地域で大きな影響力を有している。インド洋のほぼ中央という、戦略的・地政学的に重要な位置に存在し、地政学的プレーヤーとしても存在感を増しており、国際社会からもインドが果たす役割への期待は高い。
インドは伝統的に非同盟・全方位外交を志向し、戦略的自律性の確保を重視している。モディ政権は、南アジア諸国との関係を強化する近隣第一政策を維持しつつ、「アクト・イースト」政策に基づき関係強化の焦点をインド太平洋地域へと拡大させているほか、米国、ロシア、欧州などとの関係も重視し、さらに中東やアフリカに対しても積極的な対外政策を展開している。
一方、中国やパキスタンと国境未画定地域を抱えているほか、国内や国境地域において、極左過激派や分離独立主義者、イスラム過激派が活動し、インドにとって陸上国境への備えや国内でのテロの脅威への対処は大きな関心である。また、近年は海洋安全保障への取組も重視しており、インド洋におけるプレゼンスを強化しているほか、インド洋における中国の活動の活発化を強く認識している。
インドは、軍の強化と再編に精力的に取り組んでおり、軍種間の作戦・組織上の協力体制の強化などを目指し、統合軍創設の検討を進めているほか、モディ政権は、「メイク・イン・インディア」や「自立したインド」政策のもと、装備品の国産化、近代化に向けた取組や輸出促進施策を積極的に行っている。
陸軍は、約125万人という世界最大規模の陸上兵力を擁している。中国との国境付近では、自走砲や榴弾砲の配備により火力を増強するとともに、攻撃・偵察などのための無人機の配備を進めているとされる。また、陸軍は2025年7月、国境沿いに展開する新たな部隊の新編を発表するなど、部隊の改編を進めている1。
海軍は、「海上コントロール2」を運用の中心概念として位置づけ、空母は海上コントロール概念の中心であるとして3個空母戦闘群の整備に言及している。2022年9月には初の国産空母「ヴィクラント」が就役し、ロシアから購入・改修した空母「ヴィクラマディティヤ」と合わせ2隻の空母が運用されている。また、潜水艦の運用も重視し、2024年8月に、国産のアリハント級原子力潜水艦2番艦「アリガート」が就役するなど、整備を進めているほか、2025年6月および11月には新型の対潜艦艇を就役させるなど、対潜能力の整備も進めている。また、海軍は2024年3月、同国西岸のラクシャドウィープ諸島の南端に位置するミニコイ島に新基地を開設するなど、インド洋地域の監視、補給能力の強化を図っている。
空軍は、フランス製ラファール戦闘機やミラージュ2000戦闘機のほか、ロシア製Su-30MKI戦闘機、国産のテジャス軽戦闘機などを運用している。また、2024年8月から9月にかけて、インドが初めて多国間空軍演習「タラン・シャクティ2024」を主催するなど、パートナー国と空軍種間の関係強化を進めている。
防空システムとしては、ロシア製地対空ミサイル・システム「S-400」などを導入しているほか、独自の弾道ミサイル防衛システムの開発を進めている。また、モディ首相は2025年8月の演説において、防空などの多領域に対応する防衛網を全国規模に拡大し、2035年までに全ての公共施設をカバーするとした構想「ミッション・スダルシャン・チャクラ」を発表している。国防研究開発機構(DRDO:Defence Research and Development Organisation)は同月、開発中の統合防空兵器システム(IADWS:Integrated Air Defence Weapon System)の初飛行試験の成功を発表しており3、今後、同構想の動向が注目される。
また、インドは、2025年1月時点で約180個の核弾頭を保有すると指摘されており、2003年発表の核ドクトリン4と、1998年の核実験の直後に表明した核実験の一時休止(モラトリアム)の継続などを維持している一方、2024年3月には、MIRV(Multiple Independently targetable Re-entry Vehicle)化された中距離弾道ミサイル「アグニ5」の初の発射試験の実施のほか、同年11月には、同国初となる長距離極超音速ミサイルの飛行試験に成功した旨を発表した。さらに、2025年9月には、鉄道移動式発射システムから中距離弾道ミサイル「アグニ・プライム」の発射に成功した旨を発表するなど、各種弾道・巡航ミサイルの開発や性能向上・多様化、配備を推進している。
包括的グローバル戦略パートナーシップ関係にあるインドと米国は、近年、防衛・安全保障協力を着実に深化させている。軍種間においては、テロ対策を目的にした二国間共同陸軍演習「ユド・アビヤス」を長年実施しているほか、米軍の発表によれば、2025年10月にディエゴ・ガルシア島周辺にて、両軍のP-8哨戒機が参加し、対潜戦などの共同訓練を実施した。
同月、シン印国防相とヘグセス米戦争長官が、クアラルンプールにて会談を実施し、両者は、防衛協力関係をさらに深化させるため、2005年より10年ごとに更新している「米印の主要な防衛パートナーシップのための枠組」に署名した。

「米印の主要な防衛パートナーシップのための枠組」に署名するヘグセス戦争長官とシン国防相【米戦争省】
中国は、インドとの間で経済的な結びつきが強まる一方で、カシミールやアルナーチャル・プラデシュなどの国境未画定地域を抱えている。
2020年5月に、インドのカシミール地方ラダック州の中印国境付近で、中印両軍の衝突が発生し、同年6月の衝突では45年ぶりに死者が発生するなど両国間の緊張が高まった。その後、両国は、暫定的な国境である実効支配線(LAC:Line of Actual Control)の管理協定に基づく現地司令官級会談を定期的に実施し、2024年10月、インドは両国が国境地帯のLAC沿いのパトロール再開の調整について合意したと発表した。同月、5年ぶりに実施された中印首脳会議においても同合意が歓迎されたほか、11月に中印外相会談と中印国防相会談、12月には5年ぶりとなる特別代表会談を実施した。また、2025年8月には、天津市で開催された上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)首脳会議の際に、約7年ぶりに訪中したモディ首相と習近平国家主席が会談を実施するなど、段階的な緊張緩和に向けた取組を継続している。
インドとロシアは、ソ連時代から伝統的な関係を築いており、両国は「特別かつ特権的なパートナーシップ」関係のもと、幅広い分野で協力している。装備品においては、インドはSu-30MKI戦闘機といった各種ロシア製装備品を運用し協力関係を継続している。また、インドとロシアは共同で出資した合弁会社「ブラモス・エアロスペース社」を設立し、超音速巡航ミサイル「ブラモス」の共同開発、生産を行っている。一方、インドはロシアによるウクライナ侵略を受けて、ロシア製戦闘機や輸送機の部品の修理に支障が出ているとして、こうした部品の国産化への取組を進めている。
軍種間では、二国間共同演習「インドラ」を長年実施している。2025年3月から4月に、ベンガル湾にて両海軍による海上演習「インドラ2025」を実施したほか、同年10月には、インド北西部ラジャスタン州で、両陸上部隊による共同演習「インドラ2025」を実施した。また、同年9月、インド軍は、ロシアで実施された共同戦略演習「ザーパド2025」に参加した。
同年12月には、ニューデリーにおいて、シン印国防相とベロウソフ露国防相による会談が実施されたほか、プーチン大統領が約4年ぶりにインドを訪問し、モディ首相との首脳会談が実施された。

印露首脳会談の前に、車で移動し会話をするプーチン大統領とモディ首相(2025年12月)【AFP=時事】
インドは、「近隣第一政策」のもと、南アジア諸国と安全保障分野における協力を進めており、装備品の輸出・供与などを行っている。一方、南アジア諸国における中国の影響力の高まりを警戒しており、2022年7月から8月、中国の調査船「遠望5号」によるスリランカのハンバントタ港への寄港をめぐり、懸念を示した。
東南アジア諸国などのインド太平洋地域に所在する国々に対しては、「アクト・イースト」政策に基づき、二国間・地域的・多国間での関与を継続し、軍事面では、各国と定期的な共同演習や海軍艦艇による寄港を実施している。フィリピンに対しては、ロシアと共同開発した超音速巡航ミサイル「ブラモス」を輸出しているほか、2025年8月には、インド・フィリピンによる初となる二国間海上演習を南シナ海で実施し、同年11月に第2回目の二国間海上演習を実施した。
1 新編部隊には、「ルドラ旅団」、「バイラヴ大隊」などがあり、国境沿いにおける迅速な部隊展開や無人機の運用・対応能力の向上が目的と指摘されている。
2 インド海軍の「海洋安全保障戦略」によれば、「海上コントロール」とは、一定の海域(海面、水中、空中を含む)を特定の目的のために一定期間使用できるとともに、相手方に対してその使用を拒否することができる状態をいう。
3 インド政府の発表によれば、IADWSは、地対空ミサイルや高出力レーザーを用いた指向性エネルギー兵器などで構成する多層防空システムとされる。今回の試験では、距離や高度が異なる複数の無人機を標的に試験を行い、撃墜に成功したと発表している。
4 インドは2003年に核ドクトリンを公表しており、信頼できる最小限の抑止力、先制不使用、核兵器非保有国への不使用などとともに、核兵器のない世界という目標へのコミットメントを継続することを掲げている。