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第IV部 共通基盤などの強化

3 研究開発に関する取組

1 研究開発体制の強化

近年、民生技術の進展が著しく、それらの先端技術が将来の戦闘様相を一変させ得ると考えられている。米国や中国をはじめとする各国が競って様々な民生技術の育成に多額の投資を行っていることは、経済的競争力のみならず、安全保障上の優位性をもたらすものと考えられる。また、技術、特に先端技術は、様々な分野に活用されることがあり得る。こうしたことからも、従来考えられていたような、防衛用途と民生用途を区分けし、防衛用途に使い得る民生技術という意味での「デュアル・ユース」1という概念により技術を区分することは、徐々に難しくなってきているといってよい。すべての民生の先端技術が防衛を含む安全保障に用いられ得る時代へと変化していると考えるべきである。わが国が保有する幅広い分野の技術にも目を向け、これらを進展させ、活用することにより、優れた防衛装備品の創製が可能となる。

民生の先端技術を取り込み、将来の戦い方を変革する革新的な装備品などを生み出す機能を抜本的に強化するため、2024年度以降に、新たな研究機関を防衛装備庁に創設することとしており、政策・運用・技術の面から統合的に先進技術の活用を検討・推進する体制を拡充する。

2021年4月に、防衛装備庁に技術シンクタンク機能を実現するため、同庁の研究者(研究職技官)と、最先端技術に知見を有する民間の第一線の研究者(特別研究官)で構成する活動体を創設した。本機能は、将来のわが国の防衛にとって重要となる技術の調査・分析を行い、新たな戦い方やゲーム・チェンジャーを発案することを主な任務としており、研究職技官が、将来の戦い方とそれを実現するための技術をマッチングし、特別研究官がこの技術の調査や助言を行うという、官民コラボレーションによる新たな取組を推進している。

2 研究開発の短縮化

テクノロジーの進化が安全保障のあり方を根本から変えようとしていることから、諸外国は先端技術を活用した兵器の開発に注力している。防衛省においても、新たな領域に関する技術や、AIなどのゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術など、戦略的に重要な装備・技術分野において技術的優越を確保できるよう、将来的に有望な技術分野への重点化及び研究開発プロセスの合理化などにより、研究開発期間の大幅な短縮を図ることとしている。

具体的には、島嶼防衛用高速滑空弾、モジュール化UUV(Unmanned Underwater Vehicle)、スタンド・オフ電子戦機などについては、研究開発期間を大幅に短縮させるため、装備品の研究開発を段階的に進めるブロック化、モジュール化などの取組を活用することとしている。また、将来潜水艦にかかる研究開発について、既存の潜水艦を種別変更した試験潜水艦を活用し、試験評価の効率化を図ることとしている。さらに、AIやレーザーなどの新しい技術については、運用者が使用方法をイメージできるように防衛装備庁で実証を行うとともに、企業などから技術的実現可能性に関する情報を早期に収集し、十分な分析を行うことで、将来の装備品の能力を具体化することとしている。

また、新たな手法として、試作品を速やかに部隊に配備し、運用のフィードバックを得つつ装備品としての完成度を高めていく手法、いわゆるアジャイル型の研究開発手法を導入することで、研究開発期間の飛躍的な短縮化を図ることとしている。

3 次期戦闘機の開発

わが国の防衛にとって、航空優勢を将来にわたって確保するためには、最新鋭の優れた戦闘機を保持し続けることが不可欠である。このため、2035年頃から退役が始まる予定のF-2戦闘機の後継機である次期戦闘機については、わが国主導を実現すべく、数に勝る敵に有効に対処できる能力を前提に、将来にわたって適時適切な能力向上が可能となる改修の自由や高い即応性などを実現する国内生産・技術基盤を確保するよう開発していくことが必要である。次期戦闘機の開発については、この実現のため、2020年10月、戦闘機全体のインテグレーションを担当する機体担当企業として、2020年度事業に関し三菱重工業株式会社と契約を締結し、開発に着手した。

次期戦闘機のイメージ

次期戦闘機のイメージ

その上で、日英伊3か国で機体の共通化の程度にかかる共同分析を行い、その結果を踏まえ、3か国は共通の機体を開発することに合意し、2022年12月、3か国首脳は「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP:Global Combat Air Programme)」を発表した2。これは、3か国の技術を結集し、開発コストやリスクを分担しつつ、将来の航空優勢を担保する優れた戦闘機を共同開発するものである。この協力は、各国の産業界の協力を促すとともに、次期戦闘機の量産機数の増加、国際的に活躍する次世代エンジニアの育成、デジタル設計などの先進的な開発・製造手法の導入などわが国の防衛産業・技術基盤を維持強化する。

また、基本的価値を共有し、ともに米国の同盟国である日英伊3か国の協力は、今後何世代にもわたり、英伊両国との幅広い協力の礎となるとともに、インド太平洋地域及び欧州地域の平和と安定に大きく貢献するものである。なお、同年12月、米国は、英国及びイタリアとわが国の次期戦闘機の開発に関する協力を含め、わが国が行う、志を同じくする同盟国やパートナー国との間の安全保障・防衛協力を支持することを発表した。また、日米間においては、次期戦闘機をはじめとした装備を補完できる、無人航空機などの自律型システムについての具体的な協力を2023年中に開始することで一致した。

4 先端技術の活用

将来にわたって技術的優越を確保し、他国に先駆け、先進的な能力を実現するため、民生先端技術を幅広く取り込む研究開発を行い、防衛用途に直結できる技術を対象に重点的に投資し、早期技術獲得を目指すことが重要である。

例えば、AIを活用した戦闘支援無人機、複数のドローンに対処可能な高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)照射技術、経空脅威に低コストで、より速やかに対応が可能な高出力レーザーやレールガン、無人化・省人化を推進するための無人水中航走体(UUV)、無人車両(UGV:Unmanned Ground Vehicle)、無人水上航走体(USV:Unmanned Surface Vehicle)など、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術の研究開発を進めている。

1 民生用にも防衛用にもどちらにも使うことができる技術

2 グローバル戦闘航空プログラムに関する共同声明(2022年12月9日)