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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

3 多国間における安全保障協力の推進

1 多国間安全保障枠組み・対話における取組

多国間の枠組みについては、拡大ASEAN国防相会議(ADMM(ASEAN Defence Ministers' Meeting-Plus)プラス)、ASEAN地域フォーラム6(ARF:ASEAN Regional Forum)をはじめとした取組が進展しており、インド太平洋地域の安全保障分野にかかる議論や協力・交流の重要な基盤となっている。わが国としては、そうした枠組みなどを重視して域内諸国間の協力・信頼関係の強化に貢献している。

参照資料54(多国間安全保障対話の主要実績(インド太平洋地域・2019年度以降))資料55(防衛省主催による多国間安全保障対話)資料56(その他の多国間安全保障対話など)

(1)拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)のもとでの取組

ASEANにおいては、域内における防衛当局間の閣僚会合であるASEAN国防相会議(ADMM)のほか、わが国を含めASEAN域外国8か国7(いわゆる「プラス国」)を加えた拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)が開催されている。

ADMMプラスは、全てのASEAN加盟国とプラス国の防衛担当大臣が一堂に会し、地域や国際社会における安全保障上の課題や防衛協力・交流などについて議論を行う極めて重要な枠組みであり、防衛省・自衛隊も積極的に参加している。

2022年11月、小野田防衛大臣政務官は、カンボジア王国で開催された第9回ADMMプラスに出席し、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の形成に全力で取り組み、ASEANを要とした地域協力に積極的に関与していく決意を表明した。また、ロシアによるウクライナ侵略や北朝鮮による弾道ミサイルの発射などを強く非難するとともに、中国による一方的な現状変更の試みを強く指摘した。

拡大ASEAN国防相会議での小野田政務官(2022年11月)

拡大ASEAN国防相会議での小野田政務官(2022年11月)

ADMMプラスは、閣僚会合のもとに、①高級事務レベル会合(ADSOM:ASEAN Defence Senior Officials' Meeting-Plus)プラス、②ADSOMプラスWG、③専門家会合(EWG:Experts' Working Group)が設置されている。2023年現在、わが国はベトナムと共にPKO専門家会合の議長8を務めており、PKOに関する実践的かつ専門的な知見共有と協力の促進に貢献している。

参照図表III-3-1-3(拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要)

図表III-3-1-3 拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の組織図及び概要

(2)ASEAN・ダイレクト・コミュニケーションズ・インフラストラクチャー(ADI)

2021年12月、岸防衛大臣(当時)は、「ASEAN・ダイレクト・コミュニケーションズ・インフラストラクチャー(ADI:ASEAN Direct Communications Infrastructure)」への加入を表明した。ADIは、緊急時を含め、ASEAN各国の防衛担当大臣間でのコミュニケーションを図るための常設のホットラインであり、プラス国にもその利用を拡大している。2023年3月、わが国はプラス国の中で初めて、ADIが開通した国となった。防衛省・自衛隊は、ADIが地域の信頼醸成や危機管理などに有用であることから、これを活用し、ASEANとの間で、より緊密なコミュニケーションを図り、共に地域の平和と安定により積極的に貢献していく考えである。

(3)ASEAN地域フォーラム(ARF)

外交当局を中心に取り組んでいるARFについても、近年、災害救援活動、海洋安全保障、平和維持・平和構築といった非伝統的安全保障分野において、具体的な取組9が積極的に進められており、防衛省・自衛隊としても積極的に貢献している。

(4)防衛省・自衛隊が主催している多国間安全保障対話

ア 日ASEAN防衛担当大臣会合及び「ビエンチャン・ビジョン2.0」

2022年6月、岸防衛大臣(当時)は、カンボジアを訪問し、第7回日ASEAN防衛担当大臣会合に出席するとともに、同会合参加国との二国間会談などを行った。

同会合において、岸防衛大臣(当時)は、「ビエンチャン・ビジョン2.0」に基づき、今後も各種取組を強力に推進していくことを表明した。そのうえで、新たな安全保障課題について取り組むイニシアティブとして、環境分野において、気候変動タスクフォースで得られた知見を共有し、意見交換を行うセミナーの開催などを発表した。ASEAN側の大臣からもわが国の取組について歓迎の意とともに、より実践的な防衛協力の推進への期待が示された。

「ビエンチャン・ビジョン2.0」は、ASEAN全体への防衛協力の方向性について、透明性をもって、重点分野の全体像を示したものであり、協力の目的・方向性・手段といった基本的な骨格は従来のものを踏襲しつつ、第一に「心と心の協力」、「きめ細やかで息の長い協力」、「対等で開かれた協力の日ASEAN防衛協力」にかかる実施3原則、第二にわが国の取組とASEANの中心性・一体性との関係を明確化するものとしての「強靭性」の概念、第三にAOIPとわが国のFOIPとのシナジーを追求する視点という3点での新機軸を導入している。

環境安全保障分野では、気候変動が安全保障上の脅威であるとの認識のもと、共通の課題に効果的に対応すべく、2023年3月、日ASEAN環境安全保障セミナーを初めて開催し、2022年8月に策定された「防衛省気候変動対処戦略」について説明した。参加各国などからも、気候変動に伴う自然災害などの影響や軍による取組みについて、意見交換などが行われた。

サイバーセキュリティの分野では、「日ASEAN防衛当局サイバーセキュリティ能力構築支援事業」10を2022年2月に初めて実施した。

HA/DR分野では、「HA/DRに関する日ASEAN招へいプログラム」を行っている。2023年2月、5回目となる本プログラムにおいて、ASEAN加盟各国軍及びASEAN事務局から災害対応の担当者を招へいしてセミナー、机上演習及び防災訓練施設視察などを行い、大規模な自然災害発生時における多国間協力体制の強化を図った。

同年2月、ASEAN各国の空軍士官などをわが国に招へいし、「第3回プロフェッショナル・エアマンシップ・プログラム(PAP)」を開催した。防衛省・自衛隊とASEANからの参加者との相互理解・信頼醸成、HA/DR分野での専門的・実践的な知見の共有を一層促進した。

海洋安全保障の分野では、同年3月、第4回日ASEAN乗艦協力プログラムをASEAN各国の海軍士官などをわが国に招へいし国際法にかかるセミナーや各種研修などを開催した。

このように、ASEAN各国の参加者と、国際法の認識共有や海洋安全保障、HA/DRなど様々な分野でのセミナーや研修などを通じた能力向上支援及び相互理解・人的ネットワーク構築の促進を図り、もってインド太平洋地域の安定に寄与している。

参照資料57(ビエンチャン・ビジョン2.0)

イ 日ASEAN防衛当局次官級会合

2023年3月には第12回会合を約4年ぶりに東京で開催した。わが国からは、昨年12月に策定された新たな安保戦略などについて説明し、その中でFOIPの実現に向け、自由で開かれた国際秩序の維持・強化と同志国との連携を強化していく旨表明した。

(5)その他

ア 民間機関など主催の国際会議

安全保障分野においては、政府間の国際会議だけではなく、政府関係者、学者、ジャーナリストなどが参加する国際会議も民間機関などの主催により開催され、中長期的な安全保障上の課題の共有や意見交換などが行われている。

主な国際会議としては、IISS(The International Institute for Strategic Studies)(英国国際戦略研究所)が主催する「IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)11」や「IISS地域安全保障サミット(マナーマ対話)12」、欧米における安全保障会議の中でも最も権威ある会議の一つである「ミュンヘン安全保障会議13」があり、防衛省から、これらの会議に、防衛大臣などが積極的に参加し、各国の国防大臣などとの会談や本会合におけるスピーチを行うことで、各国ハイレベルとの信頼醸成・認識共有や、積極的なメッセージの発信を図っている。

2022年6月、岸防衛大臣(当時)は、第19回シャングリラ会合に出席しスピーチを行った。スピーチでは、まず、ロシアによるウクライナ侵略から導き出された教訓は、今般の侵略と類似の問題を潜在的に抱えるインド太平洋地域への教訓でもあると指摘した。そして、こうした問題を引き起こす主体に対し、わが国は最前線で対峙していると主張するとともに、平和国家として歩みを強めていくための防衛力の抜本的強化と日米同盟の強化について強調した。

さらに、ASEANの中心性と一体性を支持する真に互恵的なパートナーシップの構築、多様な地域の枠組みを通じた国際法に則ったルールの強化、日米豪印の協力の具体化、欧州諸国などの地域外の国々との協力の促進について言及した。そして、インド太平洋において危機が起きた場合でも、国際社会全体による対応により、ルールを無視する試みを阻止することができると確信していると述べた上で、ルールに基づく国際秩序を守る諸国の連帯は強固であるということを見誤るべきではない、との強いメッセージを発信した。

イ 各軍種の取組

(ア)統合幕僚監部

統幕長は、2022年5月、北大西洋条約機構(NATO)軍事委員会が開催するNATO参謀長会議「アジア太平洋セッション」にアジアパートナーとして参加した。セッションにおいて、統幕長は、ショートステートメントを発表し、ウクライナ情勢に触れつつ、インド太平洋地域においても力による一方的な現状変更の試みが継続している状況にあり、日本は、欧州諸国によるインド太平洋地域の平和と安定への関与を歓迎していることを強調した。

同年7月、統幕長は、米インド太平洋軍及び豪軍が共催するインド太平洋参謀長等会議(CHOD:Chiefs of Defense Conference)に参加及び豪軍が主催する南太平洋参謀総長等会議への参加を通じ、インド太平洋地域の情勢及び安全保障上の課題について認識を共有できた。また、相互の信頼関係の構築及び防衛協力・交流の一層の進展を図った。

(イ)陸上自衛隊

2022年6月、陸幕長と米太平洋海兵隊司令官の共催のもと、太平洋水陸両用指揮官シンポジウム2022(PALS22)を実施した。シンポジウムにおいて、インド太平洋地域においては、HA/DRが最大公約数の課題であり、水陸両用部隊が重要な役割を担うこと、水陸両用部隊が「統合(joint)」「省庁間(inter agency)」「多国間(multi-national)」それぞれの連携の中核を担うこと、そのほか共通の課題などの認識を共有した。

太平洋水陸両用指揮官シンポジウム2022(PALS22)(2022年6月)

太平洋水陸両用指揮官シンポジウム2022(PALS22)(2022年6月)

(ウ)海上自衛隊

2022年11月、海幕長が主催する西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)を実施した。国際観艦式などと併せて実施され、20か国以上の参加を得て、海軍種間の信頼醸成や友好親善を図ることができた。

WPNSでスピーチを行う井野防衛副大臣(2022年11月)

WPNSでスピーチを行う井野防衛副大臣(2022年11月)

そのほか、海幕長は、同年5月、豪海軍主催の「インド太平洋シーパワー会議2022」やイタリア海軍主催地域シーパワー・シンポジウム(T-RSS:Trans-Regional Sea Power Symposium)への参加や、NATOナポリ統連合軍司令部への訪問などを通じ、関係各国海軍との関係強化を図った。

(エ)航空自衛隊

2022年4月、空幕長は、米国の招待に応じて、宇宙シンポジウム、宇宙軍参謀長等会同及びInternational Honor Rollに参加した。各種の会談などにおいて、インド太平洋地域及び宇宙領域における課題などについて意見交換し、空軍種及び宇宙軍種の防衛協力及び交流の推進を図った。

宇宙シンポジウムにおける空幕長(2022年4月)

宇宙シンポジウムにおける空幕長(2022年4月)

そのほか、英国際航空宇宙軍参謀長等会議(GASCC:Global Air and Space Chief's Conference)や国際空軍参謀長等会同(IACC:International Air Chiefs Conference)などに参加し、各国空軍参謀長などとの意見交換などによる相互理解及び信頼関係の強化を図った。

動画アイコンQRコード動画:令和4年度インド太平洋方面派遣(IPD22)総集編
URL:https://twitter.com/i/status/1586875468262752256

動画アイコンQRコード動画:米海軍主催多国間共同訓練RIMPAC2022
URL:https://twitter.com/i/status/1572480758316339200

動画アイコンQRコード動画:(豪州海軍主催多国間共同訓練)KAKADU2022
URL:https://www.facebook.com/JMSDF.PAO.fp/videos/436038058628946/

動画アイコンQRコード動画:オーストラリア国際エアショーAvalon2023
URL:https://www.youtube.com/watch?v=zxreJEf-cBQ

2 実践的な多国間安全保障協力の推進
(1)パシフィック・パートナーシップ

パシフィック・パートナーシップ(PP:Pacific Partnership)は、米海軍を主体とする艦艇が域内各国を訪問して、医療活動、施設補修活動、文化交流などを行い、各国政府、軍、国際機関及びNGOとの協力を通じ、参加国の連携強化や国際平和協力活動の円滑化などを図る活動である。2022年は、ベトナム、パラオ共和国及びソロモン諸島において米海軍病院船における診療やHA/DRセミナーを通じた参加国軍との交流を行い、参加各国・各機関などとの連携強化を図ることができた。

(2)多国間共同訓練

近年、防衛分野における多国間関係は「信頼醸成」の段階から「具体的・実践的な協力関係の構築」の段階へと移行しており、これを実効的なものとするための重要な取組として、様々な多国間共同訓練・演習が活発に行われている。

特に、インド太平洋地域において、従来から行われていた戦闘を想定した訓練に加え、HA/DR、非戦闘員退避活動(NEO:Non-combatant Evacuation Operation)などの非伝統的安全保障分野を取り入れた多国間共同訓練に積極的に参加している。こうした訓練への参加は、自衛隊の各種技量の向上に加え、関係国間との協力の基盤を作るうえで重要であり、今後とも積極的に取り組んでいくこととしている。

参照資料58(多国間共同訓練の参加など(2019年度以降))

6 ARFは、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、アジア太平洋地域の安全保障環境を向上させることを目的としたフォーラムで、1994年から開催されている。現在25か国1地域(ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジア(以上1995年から)、ミャンマー(1996年から))に、日本、オーストラリア、カナダ、中国、インド(以上1996年から)、ニュージーランド、PNG、韓国、ロシア、米国、モンゴル(以上1998年から)、北朝鮮(2000年から)、パキスタン(2004年から)、東ティモール(2005年から)、バングラデシュ(2006年から)、スリランカ(2007年から))と1機関(欧州連合(EU:European Union))がメンバー国となり、外務当局と防衛当局の双方の代表による各種政府間会合を開催し、地域情勢や安全保障分野について意見交換を行っている。

7 2010年10月に発足し、ASEAN域外国として、わが国のほか、米国、オーストラリア、韓国、インド、ニュージーランド、中国及びロシアが参加している。

8 わが国はこれまで第1期(2011年から2013年)に防衛医学、第2期(2014年から2016年)にHA/DR EWGの共同議長を務め、第3期(2017年から2019年)は各EWGに積極的に参加、第4期(2021年から2024年)はベトナムとPKO EWGの共同議長を務めている。

9 毎年、外相級の閣僚会合のほかに、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials' Meeting)及び会期間会合(ISM:Inter-Sessional Meeting)が開かれるほか、信頼醸成措置及び予防外交に関する会期間支援グループ(ISG on CBM/PD(Inter-Sessional Support Group on Confidence Building Measures and Preventive Diplomacy))、ARF安全保障政策会議(ASPC:ARF Security Policy Conference)などが開催されている。また、2002年の閣僚会合以降、全体会合に先立って、ARF防衛当局者会合(DOD:Defence Officials' Dialogue)が開催されている。

10 ASEAN各国のサイバーセキュリティ要員を対象として、自衛官が講師を務めるセミナーを開催し、サイバー空間で発生するインシデントにより適切に対応できるようになることをねらいとする。

11 諸外国の国防大臣クラスを集めて防衛問題や地域の防衛協力についての議論を行うことを目的として開催される多国間会議であり、民間研究機関である英国の国際戦略研究所の主催により始まった。2002年の第1回から毎年シンガポールで開催され、会場のホテル名からシャングリラ会合(Shangri-La Dialogue)と通称される。なお、2020年及び2021年は新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中止となった。

12 英国国際戦略研究所(IISS:The International Institute for Strategic Studies)が主催している中東諸国の外務・防衛当局など関係者を中心に安全保障に関して意見交換を行う国際会議であり、毎年、バーレーンのマナーマで開催されている。

13 欧米における安全保障会議の中で最も権威ある民間機関主催の国際会議の一つであり、1962年から毎年(例年2月)開催されている。欧州主要国の閣僚をはじめ、世界各国の首脳や閣僚、国会議員、国際機関主要幹部が例年参加している。