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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

3 在日米軍の駐留に関する取組

1 在日米軍の態勢の最適化
(1)在沖米海兵隊部隊の海兵沿岸連隊(MLR)への改編

在日米軍の態勢の最適化の一環として、沖縄のキャンプ・ハンセンに所在する第12海兵連隊は2025年までに第12海兵沿岸連隊へと改編される。第12海兵連隊が砲兵部隊として主に砲兵火力を有しているのに対し、改編後の海兵沿岸連隊は、対艦ミサイルによる対艦攻撃能力や、防空能力、後方支援能力、ISR能力など、様々な能力を有することとなる。

(2)横浜ノース・ドックにおける小型揚陸艇部隊の新編

2023年4月、災害発生時を含む緊急事態における米軍の海上機動力を強化するため、横浜ノース・ドックに米陸軍の小型揚陸艇部隊が新編された。同部隊の新編は、わが国における日米同盟の輸送能力の強化に資するとともに、地域における米軍の機動性を向上させることとなる。

2 沖縄における在日米軍の駐留

沖縄は、米本土やハワイ、グアムなどと比較して、わが国の平和と安全にも影響を及ぼし得る朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い位置にあると同時に、これらの地域との間にいたずらに軍事的緊張を高めない程度の一定の距離を置いているという利点を有している。また、沖縄は多数の島嶼で構成され、全長約1,200kmに及ぶ南西諸島のほぼ中央に所在し、全貿易量の99%以上を海上輸送に依存するわが国の海上交通路(シーレーン)に隣接している。さらに、周辺国から見ると、沖縄は、大陸から太平洋にアクセスするにせよ、太平洋から大陸へのアクセスを拒否するにせよ、戦略的に重要な目標となるなど、安全保障上極めて重要な位置にある。

こうした地理的特徴を有する沖縄に、高い機動力と即応性を有し、幅広い任務に対応可能な米海兵隊などの米軍が駐留していることは、日米同盟の実効性をより確かなものにし、抑止力を高めるものであり、わが国の安全のみならず、インド太平洋地域の平和と安定に大きく寄与している。

一方、沖縄県内には、飛行場、演習場、後方支援施設など多くの在日米軍施設・区域が所在しており、2023年1月1日時点でわが国における在日米軍施設・区域(専用施設)のうち、面積にして約70%が沖縄に集中し、県面積の約8%、沖縄本島の面積の約14%を占めている。このため、沖縄における負担の軽減については、前述の安全保障上の観点を踏まえつつ、最大限の努力をする必要がある。

(1)沖縄の在日米軍施設・区域の整理・統合・縮小への取組

政府は、1972年の沖縄県の復帰に伴い、83施設、面積約278km2を在日米軍施設・区域(専用施設)として提供した。一方、沖縄県への在日米軍施設・区域の集中が、県民生活などに多大な影響を及ぼしているとして、その整理・統合・縮小が強く要望されてきた。

日米両国は、地元の要望の強い事案を中心に整理・統合・縮小の努力を継続し、1990年には、いわゆる23事案について返還に向けた所要の調整・手続を進めることを合意し、1995年には、那覇港湾施設(那覇市)の返還、読谷(よみたん)補助飛行場の返還、県道104号線越え実弾射撃訓練の移転(いわゆる沖縄3事案)についても解決に向けて努力することになった。

その後、1995年に起きた不幸な事件や、これに続く沖縄県知事の駐留軍用地特措法に基づく署名・押印の拒否などを契機として、負担は国民全体で分かち合うべきであるとの考えのもと、整理・統合・縮小に向けて一層の努力を払うこととした。そして、沖縄県に所在する在日米軍施設・区域にかかわる諸課題を協議する目的で、国と沖縄県との間に「沖縄米軍基地問題協議会」を、また、日米間に「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」を設置し、1996年、いわゆるSACO最終報告が取りまとめられた。

参照資料36(23事案の概要)、図表III-2-5-11(沖縄の地政学的位置と在沖米海兵隊の意義・役割(イメージ))、図表III-2-5-12(沖縄における在日米軍主要部隊などの配置図(2022年度末現在))

図表III-2-5-11 沖縄の地政学的位置と在沖米海兵隊の意義・役割(イメージ)

図表III-2-5-12 沖縄における在日米軍主要部隊などの配置図(2022年度末現在)

(2)SACO最終報告の概要

SACO最終報告の内容は、土地の返還、訓練や運用の方法の調整、騒音軽減、日米地位協定の運用改善であり、関連施設・区域が示された。SACO最終報告が実施されることにより返還される土地は、当時の沖縄県に所在する在日米軍施設・区域の面積の約21%(約50km2)に相当し、復帰時からSACO最終報告までの間の返還面積約43km2を上回るものとなる。

参照資料37(SACO最終報告(仮訳))資料38(SACO最終報告の主な進捗状況)資料39(沖縄の基地負担軽減に関する協議体制)、図表III-2-5-13(SACO最終報告関連施設・区域(イメージ))、図表III-2-5-14(沖縄在日米軍施設・区域(専用施設)の件数及び面積の推移)

図表III-2-5-13 SACO最終報告関連施設・区域(イメージ)

図表III-2-5-14 沖縄在日米軍施設・区域(専用施設)の件数及び面積の推移

(3)北部訓練場の過半の返還

北部訓練場の返還にあたっては、返還される区域に所在する7つのヘリパッドを既存の訓練場内に移設することが条件であったが、自然環境に配慮し、7つ全てではなく、最低限の6つとすることなどについて米側と同意したうえで、移設工事を進めた。2016年12月にヘリパッドの移設が完了し、SACO最終報告に基づき、国頭村(くにがみそん)及び東村(ひがしそん)に所在する北部訓練場の過半、約4,000haの返還が実現した。

この返還は、沖縄県内の在日米軍施設・区域(専用施設)の約2割にあたる、沖縄の本土復帰後最大のものであり、1996年のSACO最終報告以来、20年越しの課題であった。

この返還された土地については、防衛省において、沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法に基づき、その有効かつ適切な利用が図られるよう、跡地利用をするうえでの支障の除去に関する措置(土壌汚染調査など)を講じ、2017年12月、土地所有者へ引渡しを行った。また、2021年7月には、返還地を含む沖縄本島北部が「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の一部として世界自然遺産に登録された。

3 神奈川県における在日米軍について
(1)横須賀海軍施設への米空母の展開

米太平洋艦隊のプレゼンスは、インド太平洋地域における海洋の安全や地域の平和と安定に重要な役割を果たしており、米空母はその能力の中核となるものである。

米海軍は、横須賀海軍施設(神奈川県横須賀市)に前方展開している原子力空母12「ロナルド・レーガン」をはじめ、わが国の港に停泊中のすべての原子力艦について、通常、原子炉を停止させることや、わが国において原子炉の修理や燃料交換を行わないことなど、安全面での方針を守り続けることを確約しており、政府としても、引き続きその安全性確保のため、万全を期すこととしている。

(2)在日米軍施設・区域の整理など

神奈川県内の米軍施設・区域の整理などについては、2004年10月の日米合同委員会合意に基づき、すでに上瀬谷通信施設や深谷通信所などの返還が実現した。

一方、当初の合意から10年以上が経過し、わが国をとり巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、横須賀海軍施設における米艦船の運用が増大するなど、米海軍の態勢及び能力に変化が生じている。このような状況を踏まえ、2018年11月の日米合同委員会において、①米海軍の施設所要を満たすための施設整備、②根岸住宅地区の原状回復作業を実施するための共同使用の協議の開始、③池子住宅地区及び海軍補助施設の横浜市域における家族住宅などの建設の取り止めについて合意した。その後、2019年11月の日米合同委員会において、根岸住宅地区の共同使用について合意した。

参照図表III-2-5-15(沖縄を除く地域における在日米軍主要部隊などの配置図(2022年度末現在))、図表III-2-5-16(神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など(イメージ))

図表III-2-5-15 沖縄を除く地域における在日米軍主要部隊などの配置図(2022年度末現在)

図表III-2-5-16 神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など(イメージ)

12 原子力空母は、燃料を補給する必要がないうえ、航空機の運用に必要な高速航行を維持できるなど、戦闘・作戦能力に優れている。