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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

6 わが国が優先する戦略的なアプローチ

1 わが国の安全保障にかかわる総合的な国力の主な要素

総合的な国力(外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力)を用いて、戦略的なアプローチを実施する。

2 戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策

戦略的なアプローチとそれを構成する主な方策は次のとおりである。

(1)危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化するための外交を中心とした取組の展開
  1. ①日米同盟の強化
  2. ②自由で開かれた国際秩序の維持・発展と同盟国・同志国などとの連携の強化
  3. ③わが国周辺国・地域との外交、領土問題を含む諸懸案の解決に向けた取組の強化
  4. ④軍備管理・軍縮・不拡散
  5. ⑤国際テロ対策
  6. ⑥気候変動対策
  7. ⑦ODAをはじめとする国際協力の戦略的な活用(同志国の安全保障上の能力・抑止力向上のための新たな協力枠組みを含む)
  8. ⑧人的交流などの促進
(2)わが国の防衛体制の強化

わが国の防衛体制の強化の内容については、防衛戦略において詳述するが、安保戦略における要点は次のとおりである。

  • 国家安全保障の最終的な担保である防衛力を抜本的に強化する。
    1. ①領域横断作戦能力に加え、スタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力などを強化する。
    2. ②反撃能力を保有する。
    3. ③2027年度に、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせた予算水準が現在の国内総生産(GDP)1の2%に達するよう所要の措置を講ずる。
    4. ④有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含む、自衛隊と海上保安庁との連携を強化する。
  • 総合的な防衛体制を強化する。(研究開発、公共インフラ、サイバー安全保障、同志国などとの国際協力)
  • 安全保障上意義が高い防衛装備移転などを円滑に行うため、防衛装備移転三原則・運用指針を始めとする制度の見直しを検討する。また三つの原則そのものは維持しつつ、必要性、要件、関連手続の透明性の確保などを十分に検討する。防衛装備移転を円滑に進めるための各種支援を行うことなどにより、官民一体となって防衛装備移転を進める。
  • 防衛生産・技術基盤の強化、人的基盤強化など(ハラスメントを一切許容しない組織環境)を整備する。

参照II部3章2節(国家防衛戦略の内容)解説「反撃能力」

(3)米国との安全保障面における協力の深化

米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力を一層強化する。

(4)わが国を全方位でシームレスに守るための取組の強化
  1. ①サイバー安全保障
    • サイバー防御を強化する。能動的サイバー防御の導入及びその実施のために必要な措置の実現に向け検討を進める。これらのために、サイバー安全保障の政策を一元的に総合調整する新たな組織の設置、法制度の整備、運用の強化を図る。
  2. ②海洋安全保障・海上保安能力
    • 海上保安能力を大幅に強化・体制を拡充する。有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含む、海上保安庁と自衛隊との連携を強化する。
  3. ③宇宙安全保障
    • 自衛隊・海上保安庁の宇宙空間の利用を強化する。JAXAなどと自衛隊の連携強化、民間技術の活用を進める。
    • 宇宙の安全保障に関する政府の構想を取りまとめ、宇宙基本計画などに反映させる。
  4. ④安全保障関連の技術力の向上と積極的な活用
    • 防衛省の意見を踏まえた研究開発ニーズと関係省庁が有する技術シーズを合致させるとともに、当該事業を実施していくための政府横断的な仕組みを創設する。経済安全保障重要技術育成プログラムなどの活用を進める。
  5. ⑤情報に関する能力の向上
    • 情報収集能力(特に人的情報収集能力)を大幅に強化する。統合的な形での情報集約の体制を整備する。認知領域における情報戦への対応能力を強化する。偽情報対策の新体制を整備する。
  6. ⑥有事も念頭に置いたわが国国内での対応能力の強化
    • 自衛隊・海上保安庁のニーズに基づき公共インフラ整備・機能強化の仕組みを創設する。自衛隊・米軍などの円滑な活動を確保する。原子力発電所などの重要施設の安全確保対策を行う。
  7. ⑦国民保護の体制強化
    • 住民の迅速な避難を実現すべく、避難施設の確保などを行う。住民避難などの各種訓練の実施と検証を行った上で、必要な施策の検討を行う。
  8. ⑧在外邦人等の保護
  9. ⑨エネルギーや食料など国家安全保障に不可欠な資源の確保

陸自と警察の共同対処訓練の様子

陸自と警察の共同対処訓練の様子

(5)経済安全保障政策の促進
  • 自律性、優位性、不可欠性の確保などに向けて措置を講じていく。レアアースなどの重要物資の安定供給確保などによるサプライチェーン強靭化を進める。セキュリティ・クリアランスを含むわが国の情報保全の強化の検討を進める。
(6)自由・公正・公平なルールに基づく国際経済秩序の維持・強化
  • 不公正な貿易慣行や経済的な威圧への対抗に取り組んでいく。「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)の高いレベルの維持などに取り組む。透明・公正な開発金融を推進する。
(7)国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組
  • 国連などの国際機関や国際的な枠組みとの連携を強化する。感染症危機対応、人道支援、人権擁護、国際平和協力などに取り組む。

1 「現在の国内総生産(GDP)」とは、令和4年度のGDPを指している。そのうえで、「令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(令和4年12月22日閣議了解)で示された令和4年度実績見込みにおけるGDPが560.2兆円とされていることを踏まえれば、その2%は11兆円となる見込みである。