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特集2 国家防衛戦略

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特集2 国家防衛戦略

わが国は、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、その厳しい現実に正面から向き合い、相手の能力と新しい戦い方に着目した防衛力の抜本的強化を行う必要があります。

防衛力の抜本的強化とともに国力を総合した国全体の防衛体制の強化を、戦略的発想を持って一体として実施することこそが、わが国の抑止力を高めることになります。

こうした認識のもと、政府は、1976年以降6回策定してきた「防衛計画の大綱」に代わって、わが国の防衛目標、防衛目標を達成するためのアプローチ及びその手段を包括的に示す「国家防衛戦略」を策定しました。本戦略は、戦後の防衛政策の大きな転換点であり、中長期的な防衛力強化の方向性と内容を示すものです。その意義について国民の皆様の理解が深まるよう政府として努力してまいります。

巻頭特集2では、2022年12月に策定した国家防衛戦略を取り上げます。

特にわが国自身の防衛体制の強化の部分に着目し、わが国を守るために行う防衛力の抜本的強化の内容について簡潔に解説します。

防衛上の課題

ロシアがウクライナを侵略するに至った軍事的な背景としては、ウクライナがロシアによる侵略を抑止するための十分な能力を保有していなかったことにあります。

高い軍事力を持つ国が、あるとき侵略という意思を持ったことにも注目すべきです。脅威は能力と意思の組み合わせで顕在化するところ、意思を外部から正確に把握することは困難であり、国家の意思決定過程が不透明であれば、脅威が顕在化する素地が常に存在します。

このような国から自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要であり、相手の能力に着目した防衛力を構築する必要があります。

また、新しい戦い方が顕在化するなか、それに対応できるかどうかが今後の防衛力を構築するうえでの大きな課題です。わが国の今後の安全保障・防衛政策のあり方が地域と国際社会の平和と安定に直結します。

顕在化する新しい戦い方

弾道・巡航ミサイルによる大規模なミサイル攻撃
  • 飛来するミサイルを迎撃し、わが国に着弾させないようにすることが必要
  • 相手のミサイル発射を制約し、ミサイル攻撃を行い難くすることが必要
  • 施設や滑走路などにミサイルが直撃しても、被害を最小限に抑えつつ、迅速に復旧するなどして粘り強く戦う必要

ロシアはウクライナ全土に対し、5,000発以上の弾道・巡航ミサイルを使用

ロシアはウクライナ全土に対し、
5,000発以上の弾道・巡航ミサイルを使用

中国が台湾周辺に発射した弾道ミサイル9発のうち5発が我が国のEEZ内に着弾(2022年8月)

中国が台湾周辺に発射した弾道ミサイル9発のうち5発が我が国のEEZ内に着弾(2022年8月)

宇宙・サイバー・電磁波の領域や無人機などによる非対称的な攻撃等
  • 宇宙・サイバー・電磁波の領域における探知や防護などの対処能力の強化は喫緊の課題
  • 陸・海・空で運用できる多様な無人装備の導入や、相手側の無人機に対処する能力の整備が必要

沖縄・宮古島間を通過した中国軍の偵察型無人機(2023年1月)

沖縄・宮古島間を通過した中国軍の偵察型無人機(2023年1月)

宇宙空間の安定的利用に対する脅威

宇宙空間の安定的利用に対する脅威

情報戦を含むハイブリッド戦
  • 不審な兆候を速やかに察知し、その情報をできるだけリアルタイムに共有する必要
  • 敵が攻めてくると予想される場所に、先回りして自衛隊の部隊を移動させる必要。また、危険な場所から国民をすぐに避難させる輸送力も必要
  • 偽情報の拡散などによる情報戦などに対応し、混乱などが生じないようにする必要

ウクライナから出国したとの偽情報を打ち消すため、ゼレンスキー大統領が大統領府前で撮影して投稿した動画のキャプション(2022年2月)【ゼレンスキー大統領Facebook】

ウクライナから出国したとの偽情報を打ち消すため、ゼレンスキー大統領が大統領府前で撮影して投稿した動画のキャプション(2022年2月)
【ゼレンスキー大統領Facebook】

3つの防衛目標

①力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出

G7首脳会合に参加する岸田内閣総理大臣(2023年5月)【首相官邸HP】

G7首脳会合に参加する岸田内閣総理大臣(2023年5月)【首相官邸HP】

②力による一方的な現状変更やその試みを、同盟国・同志国などと協力・連携して抑止・対処し、早期に事態を収拾

米空軍機との日米共同訓練(2023年2月)

米空軍機との日米共同訓練(2023年2月)

③万が一、わが国への侵攻が生起した場合、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除

水陸両用作戦の訓練の様子(2023年2月)

水陸両用作戦の訓練の様子(2023年2月)

防衛目標を達成するための3つのアプローチ

①わが国自身の防衛体制の強化
“防衛力の抜本的な強化”
“国全体の防衛体制の強化”

次期戦闘機のイメージ

次期戦闘機のイメージ

JAXAとの連携により、宇宙状況監視システムを運用開始【JAXA提供】

JAXAとの連携により、宇宙状況監視システムを運用開始【JAXA提供】

②日米同盟の抑止力と対処力の強化
“日米の意思と能力を顕示”

日米防衛相会談(2023年1月)

日米防衛相会談(2023年1月)

護衛艦「いずも」への米海兵隊F-35B発着艦検証(2021年10月)

護衛艦「いずも」への米海兵隊F-35B発着艦検証(2021年10月)

③同志国などとの連携の強化
“一ヵ国でも多くの国々との連携を強化”

日英円滑化協定(RAA)に署名(2023年1月)【首相官邸HP】

日英円滑化協定(RAA)に署名(2023年1月)【首相官邸HP】

日米英蘭加新共同訓練(2021年10月)

日米英蘭加新共同訓練(2021年10月)

防衛力の抜本的強化の7つの分野

わが国の防衛上、必要な機能・能力として、7つの柱を重視して、防衛力の抜本的強化に取り組んでいきます。特に、今後5年間の最優先課題は、現有装備品を最大限有効に活用するため、可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設への投資の加速、スタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力などの将来の中核となる能力を強化します。

防衛力の抜本的強化の7つの分野 01

防衛力の抜本的強化の7つの分野 02

防衛力の抜本的強化の7つの分野 03

防衛力の抜本的強化の7つの分野 04

防衛力の抜本的強化の7つの分野 05

防衛力の抜本的強化の7つの分野 06

防衛力の抜本的強化の7つの分野 07

防衛力の抜本的強化の7つの分野 08

防衛生産・技術基盤の強化

瞬く間に進展する科学技術が安全保障のあり方を根本的に変化させ、諸外国ではその囲い込みが進められている昨今。

装備品の安定的な調達を確保するため、いわば防衛力そのものたる防衛生産・技術基盤をわが国の国内において維持・強化していくことが必要不可欠です。

防衛生産基盤の強化

〉〉〉力強く持続可能な防衛産業の構築

〉〉〉様々なリスクへの対処

〉〉〉防衛装備移転の推進

インダストリーデーの様子

インダストリーデーの様子

防衛技術基盤の強化

〉〉〉早期の防衛力抜本的強化につながる研究開発

〉〉〉民生の先端技術を積極的に活用

長期運用型UUV

長期運用型UUV

人的基盤の強化・衛生機能の変革

防衛力を発揮するのは自衛隊員です。高度な装備品をどれだけ揃えようと、それを扱う人がいなければ防衛力は発揮できません。防衛力を「人」の面から強化する取組を進めていきます。

また、戦う自衛隊員の生命を守る態勢を強化していきます。

人的基盤の強化

〉〉〉採用の取組強化

〉〉〉予備自衛官などの活用

〉〉〉生活・勤務環境の改善・処遇の向上

〉〉〉人材の育成

〉〉〉再就職支援の強化

〉〉〉栄典の拡大

募集対象者に対するオンライン説明会

募集対象者に対するオンライン説明会

衛生機能の変革

〉〉〉第一線から後送先までのシームレスな医療・後送態勢を確立

〉〉〉戦傷医療に関する教育研究の強化

患者搬送訓練の様子

患者搬送訓練の様子

経費を確保する必要性