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第IV部 防衛力を構成する中心的な要素など

2 インド太平洋地域でのパートナーシップ強化のための訓練

自国の平和を維持するためには、抑止力・対処力を強化しつつ、自国を取り巻く安全保障環境の安定化が不可欠である。そのため、防衛省・自衛隊は、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンに向けた取組として、広くインド太平洋地域において同盟国・友好国との共同訓練を積極的に推進しており、わが国の安全保障と密接な関係を有するインド太平洋地域におけるパートナーシップを強化するとともに、一国のみでは対応が困難なグローバルな安全保障上の課題や不安定要因の対応に向けた連携強化に努めている。

参照図表IV-1-1-2(インド太平洋地域でのパートナーシップ強化のための主要訓練)

図表IV-1-1-2 インド太平洋地域でのパートナーシップ強化のための主要訓練

1 インド太平洋方面派遣など
(1)インド太平洋方面派遣(IPD21)

海自は2021年8月から11月にかけて、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に資するべく、インド太平洋方面派遣を実施した。これは、インド太平洋地域の各国や同地域に艦艇を派遣している欧州主要国の海軍などとの共同訓練を実施し、海自の戦術技量の向上及び各国海軍などとの連携強化を図ることを目的としており、これらの訓練を通じ、地域の平和と安定に寄与するとともに、各国との相互理解の増進及び信頼関係の強化を図るものである。

本訓練において、護衛艦「かが」、「むらさめ」、「しらぬい」及び搭載航空機は、オーストラリア、シンガポール、スリランカ、パラオ共和国、ベトナム、フィリピン及びフランス領ニューカレドニアに寄港し、各国との相互理解を深めるとともに、洋上においては、これらの国を含む各国海軍などと各種共同訓練を実施した。

例えば、一方的な現状変更が続く南シナ海においては、英空母「クイーン・エリザベス」を含む日米英蘭加新の6か国艦艇が共同巡航するなど、派遣期間中に計10回もの他国との共同訓練を実施した。

また、9月にはIPDとして初めて太平洋島嶼国地域を訪問し、パラオ共和国及びバヌアツ共和国と親善訓練を実施した。パラオ周辺においては、日本財団が寄贈した海上保安局巡視船と捜索救難訓練などを実施するとともに、バヌアツ周辺においては警察海上部隊と通信訓練を実施し、これらの国々との相互理解の促進を図った。

さらに、10月に実施した日米豪英共同訓練(Maritime Partnership Exercise)では、4か国の艦艇、航空機がベンガル湾において対抗戦、防空戦、対水上射撃などを実施し、海上自衛隊の戦術技量の向上や4か国間の連携強化を図った。11月には、潜水艦を含む海自部隊が米海軍駆逐艦及び哨戒機と南シナ海において対潜訓練を実施したが、海自潜水艦が南シナ海で対潜訓練を実施するのは初のことであった。

IPDは、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するという防衛省・自衛隊のコミットメントを示す象徴的な取組であり、引き続き、関係国と緊密に連携しながら、本取組を継続していく。

(2)インド太平洋・中東方面派遣(IMED21)

海自は、2021年12月から2022年4月にかけて、インド太平洋・中東方面に掃海母艦「うらが」及び掃海艦「ひらど」を派遣し、ブルネイ、バングラデシュ、スリランカ、バーレーン、カンボジア及びマレーシアに寄港しつつ、これらの国を含む各国海軍などと機雷戦訓練などを実施した。12月には、日ブルネイ防衛相会談の前日に日ブルネイ親善訓練を、「日本・南西アジア交流年」に当たる2022年に入ってからは、1月に日バングラデシュ親善訓練、日印共同訓練、日スリランカ親善訓練を実施したほか、1月から2月までの間、バーレーン周辺海空域で実施された米国主催国際海上訓練に参加した。その後の日本への帰路においても、これらの国の海軍などとの訓練を通じ、この地域の安定と繁栄に深くコミットしていくというわが国の意思を示した。

2 2021年度のインド太平洋地域における各国との主要な共同訓練

2021年度、防衛省・自衛隊は、インド太平洋地域において様々な二国間・多国間共同訓練を実施した。例えば、米インド太平洋軍が主催した多国間共同訓練LSGE21(米国主催大規模広域訓練)に参加したほか、英・仏・独などの欧州諸国がインド太平洋地域に艦艇を派遣する機会を捉え、これらの国々の海軍との共同訓練を積極的に実施した。また、マラバール2021をはじめ、日米印豪を含む多国間共同訓練にも参加し、これら4か国の連携を強化した。このようなインド太平洋地域において実施した共同訓練は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のために重要であり、今後とも各国とのパートナーシップを強化するべく積極的に実施することとしている。

(1)LSGE21(米国主催大規模広域訓練)

LSGE21(Large-Scale Global Exercise 2021、米国主催大規模広域訓練2021)は、2021年8月に実施した米インド太平洋軍主催の大規模訓練である。前段は海自護衛艦「まきなみ」、米軍及び豪軍の強襲揚陸艦などが参加し、日米豪3か国による共同訓練として、珊瑚海からフィリピン東方に至る海空域において海上作戦訓練を実施した。

後段は陸自水陸機動団、海自護衛艦「いせ」、「あさひ」、空自F-15戦闘機、米軍強襲揚陸艦、英空母「クイーン・エリザベス」及びオランダ軍フリゲートなどが参加し、日米英蘭4カ国の共同訓練として、沖縄南方海空域において航空作戦訓練を実施した。

このような広大な海域などを活用した多国間共同での各種戦術訓練の実施を通じ、自衛隊の戦術技量の向上及び参加国軍との連携の強化を図るとともに、基本的価値と戦略的利益を共有する国々とともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて共同している姿を発信した。

(2)パシフィック・クラウン21(日英米蘭加共同訓練)

海自及び空自は、英空母「クイーン・エリザベス」を中心とした英・米・蘭海軍で構成される英空母打撃群がわが国に寄港する機会を捉え、2021年8月から9月にかけて、九州南方から関東東方の広範にわたる海域において、「パシフィック・クラウン21」と題する一連の共同訓練を実施した。海自は「いずも」をはじめとする護衛艦に加え、潜水艦及びP-1哨戒機を、空自はF-35Aをはじめとする戦闘機及びE-767早期警戒管制機を参加させ、英海軍の空母「クイーン・エリザベス」をはじめとする艦艇及び英空軍のF-35B戦闘機、米海軍の駆逐艦及び米海兵隊のF-35B戦闘機、その他の参加国の艦艇と、対抗戦、防空戦、対潜戦などを実施し、各種戦術技量を向上させるとともに、参加国海軍及び空軍との連携を強化した。

海自は、本訓練に加え、英空母「クイーン・エリザベス」と、10回にわたって多国間共同訓練を実施しているほか、空自も第5世代戦闘機による初の日英米での共同訓練を実施し、これら一連の訓練を通じ、日英の防衛協力が新たな段階に入ったことを具現化するとともに、英国の関与が強固かつ不可逆的であり、日英防衛協力がわが国の安全保障のみならず、インド太平洋地域と国際社会の平和と安定の確保に資するものであることを示した。

(3)米英空母3隻との日米英蘭加新共同訓練

2021年10月、海自は、米海軍、英海軍、オランダ海軍、カナダ海軍及びニュージーランド海軍と沖縄南西海空域において共同訓練を実施した。

総勢17隻の艦艇及び複数の航空機により実施されたこの訓練には、米空母「ロナルド・レーガン」、「カール・ヴィンソン」及び英空母「クイーン・エリザベス」も参加し、大規模な各種対抗戦、防空戦、対潜戦、戦術運動などが実施された。海自が空母3隻と訓練するのは、2017年以来約4年ぶりのことであり、この機会を活用し各種戦術技量を向上させるとともに、参加各国との連携を強化した。3隻の空母を含む多くの艦艇が共同訓練に参加したことは、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた各国の連携を象徴するものとなった。

(4)ラ・ペルーズ21(日仏米豪印共同訓練)

2021年4月、海自は日仏米豪印共同訓練「ラ・ペルーズ21」に参加した。「ラ・ペルーズ」はフランス主催の海軍種による多国間共同訓練であり、2019年に日仏米豪4か国で初めて開催されたが、今回の訓練では、インドが初めて参加し、ベンガル湾において、海自は仏・米・豪・印海軍艦艇とともに海上作戦を遂行する上で重要な訓練を実施した。ベンガル湾はインド太平洋の主要海域の1つであり、本訓練を通じ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を進めていくというわが国の意志を具現化するとともに、民主主義や法の支配といった基本的価値を共有する日仏米豪印5か国の連携・結束を内外に示した。

(5)マラバール2021(日米印豪共同訓練)

2021年8月から10月に、海自は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて連携を強化すべく、日米印豪共同訓練「マラバール2021」を実施した。この訓練は、それぞれの段階においてグアム島周辺、西太平洋(フィリピン海)及びベンガル湾と広いエリアにて実施され、海自護衛艦、哨戒機、潜水艦及び特別警備隊、空母を含む米海軍艦艇及び航空機、インド海軍艦艇及び海軍特殊作戦部隊など並びに豪海軍艦艇が参加し、対潜戦訓練、防空戦訓練、対水上訓練射撃、洋上補給訓練などを実施した。

本訓練において、「自由で開かれたインド太平洋」の実現という4か国の一致した意思を具現化するとともに、民主主義や法の支配といった基本的価値を共有する4か国の連携・結束を内外に示した。

(6)日独共同訓練

海自は2021年度、インド太平洋地域に派遣されたドイツ海軍フリゲート「バイエルン」と6回にわたり共同訓練を実施した。特に、ドイツ海軍艦艇としては20年ぶりとなるわが国への寄港の機会を捉えた11月の訓練においては各種戦術訓練を実施し、海自の戦術技量の向上とドイツ海軍との連携を強化した。

(7)カマンダグ21(フィリピンとの共同訓練)

陸自は、2021年9月から10月にかけて、フィリピンにて実施された米比共同訓練「カマンダグ21」に参加した。陸自水陸機動団がフィリピン海兵隊との間で実施した本訓練においては、人命救助システムを活用した災害救助活動、患者後送などを実施した。本訓練を通じて、人道支援・災害救援にかかる自衛隊の戦術技量の向上が図られるとともに、自衛隊とフィリピン軍の連携が強化された。

(8)ミクロネシア連邦等における人道支援・災害救援共同訓練(クリスマス・ドロップ)

2021年12月、空自は人道支援・災害救援にかかる能力の向上などを目的とし、米空軍が実施するミクロネシア連邦等における人道支援・災害救援訓練(クリスマス・ドロップ)に参加した。空自からはC-130H輸送機が参加し、アンダーセン米空軍基地、パラオ共和国及びミクロネシア連邦並びにこれらの周辺で、米軍が収集した日用品などの寄付物資を用いて海上への物料投下訓練を実施し、空自の人道支援・災害救援能力の向上及び参加各国との連携の強化を図った。

(9)日比人道支援・災害救援共同訓練

2021年7月、空自は人道支援・災害救援活動にかかる能力の向上などを目的とし、フィリピン空軍との共同訓練を実施し、航空自衛隊の人道支援・災害救援能力の向上及びフィリピン空軍との連携の強化を図った。この訓練は、フィリピン・クラーク空軍基地にて実施され、空自からはC-130H輸送機が参加した。この訓練は、空自とフィリピン空軍間における初の二国間共同訓練であり、地域の安定のため、今後も継続して実施することとしている。