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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

6 経済安全保障をめぐる動向

科学技術やイノベーションが国家間競争の中核となる中で、各国の安全保障政策においても、経済・技術分野を焦点とした取組が注目されている。

米国は2019年国防授権法により、輸出管理強化、対内投資の事前審査強化、政府調達規制の導入、研究セキュリティ強化を決定している。2019年5月には、外国敵対者が、米国及び米国民に対する経済・産業スパイを含む悪質なサイバー行為を行うために情報通信技術及び役務にかかる脆弱性を生み出し、その脆弱性を利用しているとの認識に基づき、これに対処することを命ずる情報通信技術・サービスのサプライチェーンの保護に関する安全性を確保する大統領令(EO13873)を発出した。

欧州では、欧州連合(EU:European Union)が2020年10月、EUとしての投資審査枠組の完全運用を開始し、域内各国における外国投資にかかる情報共有を強化した。英国は2021年、機微分野における研究の保護などを目的とし、外国の影響を登録するスキームの創設に関するパブリック・コメントを実施したほか、2022年1月には国家安全保障・投資法を施行し、国家安全保障上のリスクのある投資への対応を強化した。

オーストラリアでは、2021年1月、外資による資産取得及び企業買収法の改正法が、同年12月、重要インフラ保安法の改正法が発効している。

中国は、軍民融合政策により軍事利用が可能な先端技術の開発・獲得に取り組みながら、2020年1月には輸出管理法を、2021年1月は外商投資安全審査弁法を施行するなどしてきている。

また、各国において自国のサプライチェーンを把握し必要な措置をとろうとする動きが強まっている。

2021年2月、米国は大統領令第14017号を発出し、経済的繁栄と国家安全保障を確保するためには強靭で多様かつ安全なサプライチェーンが必要であるとして、例えば、国防長官に対しレアアースなど重要鉱物や戦略物資のサプライチェーン調査と、判明したリスク対処のための政策提言、及び国防産業基盤のサプライチェーンに関する報告書の提出を求めるなどしている。

これを受け、2021年6月に半導体、重要鉱物、大容量蓄電池、医薬品などの100日レビューの対象となっていた4分野のサプライチェーンの現状と課題を分析した報告書が発出された。また、2022年2月には1年レビューの対象であった6つの産業基盤(エネルギー、運輸、農作物・食糧、公衆衛生・生物事態対処、情報通信技術、防衛)のサプライチェーンに関する主要な弱点を特定し、その弱点に対処するための戦略について記載した報告書が発出された。

EUは2021年5月、機微製品のサプライチェーン分析の結果をカバーする「2020産業戦略アップデート」を発表した。

さらに、各国における国防分野に限られない研究開発に対する投資の強化も顕著となっている。米国は、ハイリスク・ハイリターンの生物医学研究上のブレイクスルーを推進するため、3年間で65億ドル規模のファンディング予算が見込まれている医療高等研究計画局(ARPA-H)や、気候高等研究計画局(ARPA-C)の設置に向けた動きを進めている。ドイツでは2019年12月に国内で飛躍的イノベーションを創造することを目的とした飛躍的イノベーション機構(SPRIN-D)が設置され、10年間で10億ユーロのファンディングを見込んでいる。英国でも、当面8億ポンドの予算規模で、イノベーションの最前線にあるハイリスク事業への投資に特化した先進研究発明局(ARIA)が設置されている。