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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 ニュージーランド

ニュージーランドは2018年7月、国防政策「戦略国防政策ステートメント2018」を発表した。

その中で、ニュージーランドの国家安全の目標として、公共の安全、主権と領土の一体性の防護、国際秩序の強化、民主的制度と国家価値の維持、自然環境の保護などを掲げた。そして、これら目標を達成するため、南極から赤道に至る近隣地域での部隊運用能力の確保を最優先とし、アジア太平洋地域の秩序に対する挑戦などが自国の安全及び繁栄に影響を与えうるとの考えのもと、国際ルールに基づく秩序の維持を世界中で支援するための国防力が必要であるとした。また、米国・英国・オーストラリア・カナダとの効果的作戦の実施能力、域外作戦に貢献可能な軍の規模及び質の維持も優先事項としてあげられた。

このほか、災害に苦しむ太平洋島嶼国への配慮と同地域への関与を積極化しようとする新政権の戦略「パシフィック・リセット」を反映し、気候変動が及ぼす影響とそれに対する軍の役割が初めて明記された。また、南シナ海問題に関して、「中国が国益追求に自信を深めたことにより、近隣諸国や米国との緊張が高まっている」とし、南シナ海での中国による軍事拠点化の状況について具体的に言及した。

また、ニュージーランドの戦略環境を分析し、課題などを提示する「国防評価書2021」が2021年12月に発表され、南シナ海でみられるような軍事施設の建設や一方的資源開発が島嶼国地域でも起こりうると示唆した。また、ニュージーランドの安全保障上の課題の一つとして、戦略的競争をあげ、中国の台頭が主要因としつつも、そのほかの国も程度の違いはあれ、戦略的競争に関与と指摘した。

対外関係については、ANZUS条約に基づき、米豪と緊密な関係を維持しており、特にオーストラリアを最も親密な同盟国と位置づけている。2021年5月に実施された両国の首脳会談での共同声明において、係争海域における軍事化の継続や不安定化活動の増大を含む南シナ海の情勢に深刻な懸念が表明された。また、中国に対しウイグル族の人権を尊重するとともに、国連などの独立した監視団に対しアクセス付与を要求することも表明された。米国との関係においては、ニュージーランドが非核政策をとって米艦艇の入港を拒否したことから、1985年以来、米国はニュージーランドに対する防衛義務を停止しているが、外交・軍事分野における戦略的関係の強化を主な内容とするウェリントン宣言(2010年)及び防衛協力の拡大を主な内容とするワシントン宣言(2012年)を通じて、外交・軍事分野における関係を強化しており、米国は「親密な戦略的パートナー」となっている。中国とは「一帯一路」構想への協力、空軍の共同演習などを通じて二国間関係が発展する一方、「戦略国防政策ステートメント2018」や「国防評価書2021」で示されたとおり警戒姿勢もみられる。

ニュージーランド軍は、9,400人の兵力を保有しており4、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、哨戒機による警戒監視活動を行っているほか、韓国の国連軍司令部軍事休戦委員会(UNCMAC)や中東、南太平洋などに人員を派遣し、地域の平和と安定に貢献している。

2019年6月、軍の装備に関する2030年までの200億NZドルの投資方針を示す「国防能力計画2019」が発表され、太平洋島嶼国との関係強化、気候変動への対応及び海上警備能力強化のため、艦艇、ヘリ、輸送機などの取得が計画されている。

2022年1月に発生したトンガ沖の海底火山噴火とそれに伴う地震及び津波被害に際して、C-130輸送機を派遣し、食料、衛生用品、応急処置キットといった支援物資を輸送するなど、オーストラリアやわが国などの他国と協力しながら支援活動を実施した。

4 「ミリタリー・バランス(2021)」による。