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第IV部 防衛力を構成する中心的な要素など

3 産業基盤の強靭化に向けた取組

1 これまでの取組

防衛生産・技術基盤戦略を踏まえ、防衛省においては、長期契約法の策定など契約制度の改善、装備品の取得に関する組織を統合した防衛装備庁の新設など、防衛産業基盤の維持・強化に資する各種施策を実施してきた。

また、防衛装備庁においては、①技術的優越を確保するための防衛技術戦略などの策定及び安全保障技術研究推進制度の実施(2節参照)、②プロジェクト管理を推進するための取得戦略計画の策定や契約制度の改善(3節参照)、③防衛産業基盤の維持・強化のための防衛産業のサプライチェーンの可視化及びリスク対応(本項2参照)、④国際的なF-35戦闘機プログラムへの国内企業参画や、各国との共同研究・開発といった防衛装備・技術協力(5節参照)にも取り組んでいる。

2 防衛大綱などを踏まえた取組

装備品の生産・運用・維持整備にとって必要不可欠であるわが国の防衛産業基盤を強靭化するため、防衛大綱などに基づき、防衛生産・技術基盤戦略の大きな方向性を踏まえ、次の項目に取り組むこととしている。

(1)企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直し

わが国の防衛産業は、1社しか製造などができない装備品が多く、競争環境に乏しい状況にある。このため、防衛産業の競争力の強化やコスト低減などに資する取組及び成果を積極的に評価するとともに、その評価に応じたインセンティブを与え、企業間に競争環境を創出させるような契約制度の見直しを行うこととしている。

(2)装備品のサプライチェーンのリスク管理強化

装備品などの調達には、防衛省が直接契約を結ぶプライム企業のみならず、当該プライム企業と契約を結ぶ、幅広い分野・規模のサプライヤー企業が関与しており、これら装備品などにかかる企業の連鎖(サプライチェーン)は、わが国の産業基盤を支える根幹となっている。一方、こうしたサプライチェーンは、部品を製造する企業の事業撤退・倒産による供給途絶などのリスクを抱えており、防衛省としても、こうしたリスクに対応すべく、サプライチェーンの維持・強化に向けた取組を行っている。

これまでの調査では、防衛需要依存度の高い中小企業の存在が明らかとなっているほか、令和元(2019)年度末までに実施したサプライチェーン調査6では、代替困難な技術を有するキーサプライヤーの特定とともに、特定のサプライヤーへの発注の集中といった脆弱性が明らかになった。この調査結果を踏まえ、防衛省では、サプライチェーンの調査結果のデータベース化や供給途絶などのリスクを早期に把握するための恒常的なモニタリング態勢の構築に取り組んでいる。

また、優れた技術・製品を有する中小企業の発掘に取り組むとともに、サプライチェーンを構成する企業が事業から撤退する場合の承継支援を令和3(2021)年度から実施する。その他、3Dプリンター技術や人工知能(AI)に代表される革新的な技術の防衛装備品の製造工程への適用可能性の評価といった取組などにより、サプライチェーンが抱える脆弱性への的確な対処と強靭化を図ることとしている。

(3)輸入装備品の維持整備などへのわが国防衛産業のさらなる参画

産業基盤の強靱化のため、輸入装備品の維持整備などにわが国企業が参画することは有益である。このため、F-35A戦闘機やオスプレイのような輸入装備品の国内企業による維持整備の追求や、能力の高い装備品について、米国などとの国際共同研究・開発をより一層推進し国内企業への裨益(ひえき)を追求7していくことが重要である。

(4)防衛装備移転三原則のもとでの装備品の適切な海外移転の推進

装備品の適切な海外移転を政府一体となって推進するため、必要な運用改善に努めるとともに、装備品にかかる重要技術の流出を防ぐため、知的財産管理、技術管理及び情報保全の強化を進めることとしている。

ア 必要な運用改善のための取組

関係省庁とも連携して、外為法(外国為替及び外国貿易法)の運用基準である防衛装備移転三原則のもと、必要な運用改善に努めるとともに、それらを通じて産業界の予見可能性を高め、適切かつ円滑な装備移転を進めることとしている。

具体的には、国際展示会などで、初期的商談に必要な基礎的マーケティング情報を円滑に提供するための当該情報の取扱いの合理化8など、関連制度・手続の運用改善に取り組む必要がある。

イ 重要技術の流出防止

(ア)知的財産管理

知的財産にかかるより適切な契約条項などを適用することにより、研究開発などで生じた知的財産を適切に把握し、官民間の帰属の明確化や海外への重要技術の流出防止を推進することとしている。また、技術の特性などを踏まえた知的財産のオープン化、クローズ化にかかる選択肢及び判断材料を提示し、それぞれの選択肢に応じた適切な管理を推進することとしている。

(イ)技術管理

防衛装備の海外移転の可否の審査にあたって、防衛省が担当している技術の重要度や優位性などを踏まえた技術的機微性評価を適正かつ迅速に実施するなど、技術流出防止に取り組んでいる。また、機微性が高い技術については、技術の流出を防ぐため、関係省庁とも連携のうえ、技術のブラックボックス化などのリバースエンジニアリング対策の検討を推進することとしている。

(ウ)情報保全の強化

わが国の防衛産業が国際的な取引を行うためには、サイバー攻撃の脅威増大に対応することが必要である。情報セキュリティにかかる措置の強化を目的として、防衛省の「保護すべき情報」9を取り扱う契約企業に対して適用される情報セキュリティ基準を見直すこととしている。

また、企業による防衛調達への参入検討をさらに促進するとともに、国内外の防衛関連企業との取引を行いやすくするためには、必要となる保全措置への企業の予見可能性を向上させることが重要である。今後、防衛省と保全が必要な情報を取り扱う契約を行うに際し、標準的に必要となる保全措置をあらかじめ包括的に明示した情報保全指標を整備することとしている。

(5)その他の効率化・強靭化に向けた取組

前述の取組のほか、装備品の製造プロセスの効率化や徹底した原価の低減などの施策に取り組み、これらの結果生じ得る企業の再編や統合も視野に、わが国防衛産業基盤の効率化・強靭化を図ることとしている。

3 産業界との協力・連携

装備品の生産・運用・維持整備に必要不可欠の基盤であるわが国の技術基盤・産業基盤の維持・強化のため、防衛大綱・中期防のもとで示された「技術基盤の強化」や「産業基盤の強靭化」に取り組んでいくうえで、防衛省と産業界の連携は不可欠である。

こうした観点から、2019年10月、河野防衛大臣と日本経済団体連合会(経団連)幹部との間で意見交換の場を持ち、防衛装備政策に加え、国際情勢や防衛政策を含む幅広いテーマについて意見交換を行うとともに、官民の協力・連携の強化についての全般的な議論を行った。また、同年11月以降、防衛装備庁と経団連防衛産業委員会との間で、「防衛装備・技術の海外移転」、「サプライチェーンの維持・強化」、「契約制度及び調達の在り方」、「先進的な民生技術の積極的な活用」、「情報保全の強化」などについて計8回の意見交換を実施し、その成果については、2020年12月、岸防衛大臣と経団連幹部に報告され、了承された。

防衛省においては、引き続き、防衛大綱に明記されている産業基盤及び技術基盤の強化を図るため、産業界との意見交換など、官民の協力・連携の強化を進めていくこととしている。

防衛装備庁と経団連防衛産業委員会との意見交換の成果について報告を受ける岸防衛大臣(2020年12月)

防衛装備庁と経団連防衛産業委員会との意見交換の成果について
報告を受ける岸防衛大臣(2020年12月)

6 令和元年度末までに主要装備品60品目についてのサプライチェーン調査を実施した。

7 日米が共同開発したSM-3ブロックIIAでは、FMS調達でありながら、日本のみならず、米国の取得分についても、構成品のおおむね半分程度の製造をわが国企業が請け負っている。

8 2018年10月、初期的商談に用いられるような貨物の性能などの情報であって、設計情報や製造方法などの「貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報」を含まないようなものは、外為法の規制の対象には含まれないことを、経産省HP上のQ&Aにおいて明確化。現在、防衛省においては、企業からの依頼に基づき、企業が作成した資料などに含まれている情報について、何人に対しても開示することが可能であり、不特定多数の者が入手可能な公知の技術として取り扱われても支障がない情報の範囲を確認している。

9 防衛省において「注意」又は「部内限り」に該当する情報及び当該情報を利用して作成される情報