Contents

第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

4 沖縄を除く地域における在日米軍の駐留

防衛省は、沖縄を除く地域においても、在日米軍の抑止力を維持しつつ地元負担の軽減を図り、在日米軍の安定的な駐留を確保する施策を行っている。

1 神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など

神奈川県内の米軍施設・区域の整理などについては、2004年10月の日米合同委員会合意に基づき、すでに上瀬谷通信施設や深谷通信所などの返還が実現した。

一方、当初の合意から10年以上が経過し、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、横須賀海軍施設における米艦船の運用が増大するなど、米海軍の態勢及び能力に変化が生じている。このような状況を踏まえ、2018年11月の日米合同委員会において、①米海軍の施設所要を満たすための施設整備、②根岸住宅地区の原状回復作業を実施するための共同使用の協議の開始、③池子住宅地区及び海軍補助施設の横浜市域における家族住宅などの建設の取り止めについて合意した。その後、2019年11月の日米合同委員会において、根岸住宅地区の共同使用について合意した。

参照図表III-2-4-15(沖縄を除く地域における在日米軍主要部隊などの配置図(令和2年度末現在))
図表III-2-4-16(神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など(イメージ))

図表III-2-4-15 沖縄を除く地域における在日米軍主要部隊などの配置図(令和2年度末現在)

図表III-2-4-16 神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など(イメージ)

2 ロードマップに示された米軍再編の現状など
(1)在日米陸軍司令部能力の改善

キャンプ座間(神奈川県相模原市、座間市)に所在する在日米陸軍司令部は、2007年12月に在日米陸軍司令部・第1軍団(前方)として発足した。その後の在日米陸軍司令部能力の改善に伴う再編事業は、図表III-2-4-16のとおりである。

なお、陸上総隊司令部は、在日米陸軍司令部と平素から緊密に連絡・調整を行い、各種事態に迅速に対応するため、日米共同部をキャンプ座間に配置し、連携の強化を図っている。

参照図表III-2-4-17(在日米陸軍司令部能力の改善及び負担軽減の取組)

図表III-2-4-17 在日米陸軍司令部能力の改善及び負担軽減の取組

(2)横田飛行場及び空域

ア 共同統合運用調整所の運用開始及び空自航空総隊司令部の移転

日米の司令部間の連携向上は、統合運用体制への移行とあいまって、日米両部隊間の柔軟かつ即応性のある対応の観点から極めて重要である。そのため、平成23(2011)年度末に、横田飛行場において共同統合運用調整所12の運用を開始するとともに、航空総隊司令部及び関連部隊を横田飛行場へ移転した。これらにより、防空やBMDにおける情報共有をはじめとする司令部組織間の連携強化が図られた。

イ 横田空域

米軍が進入管制を行っている横田空域における民間航空機の運航を円滑化するため、2006年以降、空域の一部について管制業務の責任を一時的に日本側に移管する措置、横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control)施設への空自管制官の併置、空域の約40%の削減(米軍の管制業務の返還)が行われている。

ウ 横田飛行場の軍民共用化

横田飛行場の軍民共用化については、2003年5月の日米首脳会談において検討していくこととされた。これを受け、政府関係省庁と東京都との実務的な協議の場として「連絡会」を設置したほか、日米両国政府は、横田飛行場の軍事上の運用や安全などを損なわないとの認識のもと、具体的な条件や態様に関する検討を行っている。

(3)横須賀海軍施設への米空母の展開

米太平洋艦隊のプレゼンスは、インド太平洋地域における海洋の安全や地域の平和と安定に重要な役割を果たしており、米空母はその能力の中核となるものである。

米海軍は、横須賀海軍施設(神奈川県横須賀市)に前方展開している原子力空母13「ロナルド・レーガン」をはじめ、わが国の港に停泊中のすべての原子力艦について、通常、原子炉を停止させることや、わが国において原子炉の修理や燃料交換を行わないことなど、安全面での方針を守り続けることを確約しており、政府としても、引き続きその安全性確保のため、万全を期すこととしている。

(4)厚木飛行場及び岩国飛行場に関する施策

ア 空母艦載機の移駐

厚木飛行場(神奈川県綾瀬市、大和市)は市街地に位置し、特に空母艦載ジェット機の離発着に伴う騒音が、長年にわたり問題となっていた。

そのため、滑走路移設事業14により、周辺地域への影響がより少ない形で運用することが可能となる岩国飛行場(山口県岩国市)へ、厚木飛行場の第5空母航空団を移駐することとし、2017年8月から移駐を開始し、2018年3月に完了した。これにより、米空母や艦載機の前方展開を維持しつつ厚木飛行場周辺の騒音は相当程度軽減された。

また、移駐に伴って運用が増大する岩国飛行場への影響を緩和するなどのため、図表III-2-4-18に示す各種施策が実施されている。それらがすべて実施された場合、岩国飛行場周辺の騒音は、住宅防音の対象となる第一種区域の面積が約1,600haから約650haに減少するなど、現状より軽減されると予測されている。

参照図表III-2-4-18(厚木飛行場及び岩国飛行場に関する施策と主な経緯など)

図表III-2-4-18 厚木飛行場及び岩国飛行場に関する施策と主な経緯など

イ 空母艦載機着陸訓練(FCLP)

2006年5月のロードマップにおいては恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組みを設け、恒常的な施設をできるだけ早い時期に選定することが目標とされた。2019年12月以降、防衛省は、鹿児島県西之表市馬毛島の約9割の土地を取得し、自衛隊施設の整備に向けた各種調査などを進め、検討状況などについての住民説明会の実施、2021年2月には環境アセスメントの手続き開始、同年5月には航空自衛隊戦闘機によるデモフライトの実施などの取組を行っている。同施設は、大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに、通常の訓練などのために使用され、あわせて米軍の空母艦載機着陸訓練の恒久的な施設として使用されることになるとされている。

なお、2005年の「共同文書」においては、恒常的な訓練施設が特定されるまでの間、現在の暫定的な措置に従い、米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨確認されている。

ウ 岩国飛行場における民間航空機の運航再開

山口県や岩国市といった地元地方公共団体などが一体となって民間航空機の運航再開を要望していたことを踏まえ、ロードマップにおいて「将来の民間航空施設の一部が岩国飛行場に設けられる」とされた。これに基づき、2012年12月に岩国飛行場に岩国錦帯橋(きんたいきょう)空港が開港し、民間機による定期便が48年ぶりに再開された。

(5)弾道ミサイル防衛(BMD)

2006年6月には米軍のTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が米軍車力(しゃりき)通信所(青森県つがる市)15に、同年10月には米軍のペトリオットPAC-3が嘉手納飛行場(沖縄県嘉手納町、沖縄市、北谷(ちゃたん)町)と嘉手納弾薬庫地区(沖縄県読谷(よみたん)村、沖縄市、嘉手納町、恩納(おんな)村、うるま市)に、また、2014年12月には、日本国内で2基目のTPY-2レーダーが米軍経ヶ岬(きょうがみさき)通信所(京都府京丹後市)に配備された。

2015年10月、2016年3月及び2018年5月には、米軍BMD能力搭載イージス艦が横須賀海軍施設に配備された。

参照1章2節2項1(わが国の総合ミサイル防空能力)

(6)訓練移転

ア 航空機訓練移転(ATR:the Aviation Training Relocation)

当分の間、嘉手納、三沢(青森県三沢市、東北町)及び岩国の3つの在日米軍施設・区域の航空機が、自衛隊施設における共同訓練に参加することとされたことに基づき、2007年以降、航空機訓練移転(ATR)16を行っており、防衛省は、必要に応じ訓練移転のためのインフラの改善を行っている。

参照図表III-2-4-19(航空機訓練移転に関する主な経緯)

図表III-2-4-19 航空機訓練移転に関する主な経緯

ATRは、日米間の相互運用性の向上に資するとともに、これまで嘉手納飛行場を利用して実施されていた空対地射爆撃訓練の一部を移転するものであり、嘉手納飛行場周辺の騒音軽減につながることから、沖縄の負担軽減にも資するものである。

防衛省・自衛隊は、米軍の支援に加え、周辺住民の安心、安全を図るため、現地連絡本部の設置、関係行政機関との連絡や周辺住民への対応など、訓練移転の円滑な実施に努めている。

イ MV-22などの訓練移転

日米両政府は、2013年10月の「2+2」共同発表において、同盟の抑止力を維持しつつ、わが国本土を含め沖縄県外における訓練を増加させるため、MV-22の沖縄における駐留及び訓練の時間を削減し、わが国本土及び地域における様々な運用への参加の機会を活用すると決定した。これを踏まえ、普天間飛行場のMV-22の沖縄県外での訓練などが進められてきた。

2016年9月、日米合同委員会において、沖縄県外での訓練の一層の推進を図り、訓練活動に伴う沖縄の負担を軽減するため、現在普天間飛行場に所在するAH-1やCH-53といった回転翼機やMV-22などの訓練活動を日本側の経費負担により沖縄県外に移転することについて合意した。

令和2(2020)年度は、2020年10月から11月にかけて鹿児島県、同年12月に群馬県及び新潟県の演習場などにおいて日米共同訓練を2回実施した。なお、合意から2021年3月までに、上記に加え国外ではグアム、国内では北海道、宮城県、滋賀県、香川県、熊本県、大分県及び宮崎県の演習場などにおいて、計12回実施してきた。

政府としては、引き続き、MV-22の参加を伴う訓練を、沖縄からわが国本土やグアムなどに移転することにより、MV-22の沖縄における駐留及び訓練の時間を削減し、沖縄の一層の負担軽減に寄与する取組を推進することとしている。

12 日米の司令部組織間での情報の共有や緊密な調整、相互運用性の向上など、わが国の防衛のための共同対処に資する機能を果たすもの

13 原子力空母は、燃料を補給する必要がないうえ、航空機の運用に必要な高速航行を維持できるなど、戦闘・作戦能力に優れている。

14 岩国市などの要望を受け、岩国飛行場の滑走路を東側(沖合)に1,000m程度移設する事業。

15 レーダーは、2006年6月、青森県の空自車力分屯基地に配備されたが、その後、隣接する米軍車力通信所に移設された。

16 在日米軍航空機が自衛隊施設などにおいて共同訓練などを行うこと。