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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

2 ミサイル攻撃などへの対応

1 わが国の総合ミサイル防空能力
(1)基本的考え方

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、2004年から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始した。2005年7月には、自衛隊法の改正を行い、同年12月の安全保障会議(当時)及び閣議において、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発に着手することを決定した。これまでに、イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオット(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)4の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の体制整備を着実に進めている。

わが国の弾道ミサイル防衛は、イージス艦による上層での迎撃とペトリオットPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)5により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。2020年12月には、陸上配備型イージス・システムに替えて、イージス・システム搭載艦2隻を整備する旨を閣議決定した。

現在、多弾頭・機動弾頭を搭載する弾道ミサイル、高速化・長射程化した巡航ミサイル、ステルス化・マルチロール化した航空機など、わが国に向けて飛来する経空脅威は、複雑化・多様化の一途をたどっている。これらの経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限するためには、ミサイル防衛にかかる各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品も併せ、一体的に運用する体制を確立し、わが国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威についても同時対処できる総合ミサイル防空能力を強化していく必要がある。この際、各自衛隊が保有する迎撃手段について、整備・補給体系も含めて共通化、合理化を図っていくこととしている。

わが国に武力攻撃として弾道ミサイルなどが飛来する場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する一方、武力攻撃事態が認定されていないときには、弾道ミサイルなどに対する破壊措置により対処することとなる。

弾道ミサイルなどへの対処にあたっては、空自航空総隊司令官を指揮官とする「BMD統合任務部隊」を組織し、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処するための各種態勢をとることとしている。また、弾道ミサイルの落下などによる被害には、陸自が中心となって対処することになる。

なお、弾道ミサイルなどによる武力攻撃災害から住民の生命及び身体を保護するため必要な機能を備えた避難施設の整備は、被害を防止するための措置であるとともに、弾道ミサイル攻撃などに対する抑止にもつながる観点も踏まえ、防衛省として、内閣官房を中心として行われている検討に引き続き積極的に参画していく。

SM-3を発射するイージス艦きりしま

SM-3を発射するイージス艦きりしま

参照図表III-1-2-3(総合ミサイル防空のイメージ図)、
図表III-1-2-4(BMD整備構想・運用構想(イメージ図))、
II部5章3項4(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
資料11(わが国のBMD整備への取組の変遷)

図表III-1-2-3 総合ミサイル防空のイメージ図

図表III-1-2-4 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)

(2)防衛省・自衛隊の対応

北朝鮮は、2016年以降、3回の核実験を強行するとともに、70発を超える弾道ミサイルなどの発射を繰り返した。北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国の安全に対する、重大かつ差し迫った脅威となっている。北朝鮮は、2018年6月の米朝首脳会談において、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を表明し、核実験場の爆破を公開するなどの動きは見せたものの、2019年2月の第2回米朝首脳会談は、いかなる合意にも達することなく終了しており、現在に至るまで全ての大量破壊兵器及びあらゆる弾道ミサイルの、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での廃棄は行っていない。これまでに、北朝鮮は、累次の核実験及び弾道ミサイル発射などを通じて、核兵器の小型化・弾頭化を実現しているとみられるとともに、わが国を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有している。

また、2019年に発射された新型と推定される弾道ミサイルの一部は、通常の弾道ミサイルよりも低空を飛翔するとともに、変則的な軌道を飛翔することが可能とみられ、ミサイル防衛網を突破することを企図していると指摘されている。2021年1月に開催された第8回朝鮮労働党大会では、多弾頭技術、「極超音速滑空飛行弾頭」、原子力潜水艦、固体燃料推進のICBMの開発などの推進について言及されている。

防衛省・自衛隊としては、引き続き、北朝鮮が大量破壊兵器・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていくとともに、米国などと緊密に連携しつつ、必要な情報の収集・分析及び警戒監視などを実施している。

また、BMDシステムを効率的・効果的に運用するためには、在日米軍をはじめとする米国との協力が必要不可欠である。このため、これまでの日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、BMD運用情報及び関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置や協力の拡大について決定してきた。

さらに、わが国は従来から、弾道ミサイルの対処にあたり、早期警戒情報(SEW:Shared Early Warning)6を米軍から受領するとともに、米軍がわが国に配備しているBMD用移動式レーダー(TPY-2レーダー)やイージス艦などを用いて収集した情報について情報共有を行うなど、緊密に協力している。

訓練などを通じた日米対処能力の維持・向上、検証なども積極的に行っており、2010年以降、海自は、日米の艦艇などをネットワークで連接し、弾道ミサイル対処のシミュレーションを行うBMD特別訓練を行ってきた。2018年には空自が、2019年には陸自も本訓練に参加し、日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練として行い、戦術技量の向上と連携の強化を図っている。

日米のみならず、日米韓の連携も強化していくことが重要であり、2017年1月、3月、10月及び12月には、わが国周辺海域において日米韓3か国による弾道ミサイル情報共有訓練を実施し、連携強化を図った。

米国をはじめとする関係各国との弾道ミサイルなどに関する機微な情報については、秘密が保護される基盤や枠組み7により、適切に共有されている。

なお、平素より、自衛隊は弾道ミサイル対処能力の向上を図るため各種訓練を実施しており、弾道ミサイル対処能力の向上と国民の安全・安心感の醸成を図るため、2017年6月よりPAC-3機動展開訓練を実施している。2021年3月末までに、一般の施設に展開したものを含め29回の訓練を実施した。

参照I部2章4節1項(北朝鮮)
I部2章4節2項3(韓国の軍事態勢)

(3)BMD体制の強化のための取組

現状においては、わが国全域を防護するためのイージス艦及び拠点防護のため全国各地に分散して配備されているPAC-3を、状況に応じて機動・展開して対応している。こうした対応を前提として、BMD対応型イージス艦の増勢に取り組んできたところであり、これまでにBMD能力を有しなかったイージス艦「あたご」及び「あしがら」にBMD能力を付与する事業を実施し、2018年12月までに2隻の改修を完了した。また、平成27(2015)年度及び平成28(2016)年度予算でBMD能力を有するイージス艦2隻(「まや」及び「はぐろ」)を建造した。これらの措置により、令和2(2020)年度には、BMDに対応可能なイージス艦が従来の6隻から8隻に増加した。

また、より高性能化・多様化する将来の弾道ミサイルの脅威に対処するため、イージス艦に搭載するSM-3ブロックIAの後継となるBMD用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)を日米共同で開発し、配備に向け事業を推進している。2016年12月の国家安全保障会議(九大臣会合)において、共同生産・配備段階への移行が決定され、平成29(2017)年度以降、SM-3ブロックIIAを取得してきている。

なお、SM-3ブロックIIAは、令和3(2021)年度に取得・配備することを計画している。SM-3ブロックIIAは、これまでのSM-3ブロックIAと比較して、迎撃可能高度や防護範囲が拡大するとともに、撃破能力が向上し、さらに同時対処能力についても向上している。

また、「おとり」などの迎撃回避手段を備えた弾道ミサイルや通常の軌道よりも高い軌道(ロフテッド軌道8)をとることにより迎撃を回避することを意図して発射された弾道ミサイルなどに対しても、迎撃能力が向上している。

動画アイコンQRコード動画:護衛艦「あたご」SM-3ブロック1B発射試験
URL:https://youtu.be/WRAfkuoQeMQ(別ウィンドウ)

ペトリオットPAC-3についても、能力向上型であるPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement)の整備を進めており、令和元(2019)年度末以降順次配備が開始された。PAC-3MSEの導入により、迎撃高度は十数キロから数十キロへと延伸することとなり、現在のPAC-3と比べ、おおむね2倍以上に防護範囲(面積)が拡大する。

このように、防護体制を強化させるための所要の措置を講じているところであり、引き続き、そのような取組を進めていく予定である9

参照図表III-1-2-5(弾道ミサイル対処能力向上のための主な取組)

図表III-1-2-5 弾道ミサイル対処能力向上のための主な取組

(4)イージス・アショアの導入及び配備に関するプロセスの停止

北朝鮮の核・ミサイル開発が、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっていることから、平素からわが国を常時・持続的に防護できる弾道ミサイル防衛能力の抜本的な向上を図る必要があることから、2017年12月の国家安全保障会議及び閣議において、以下の考えのもと、イージス・アショア2基を導入し、これを陸自において保持することが決定された。

  • イージス・アショア2基の導入により、わが国全域を24時間・365日、長期にわたり切れ目なく防護することが可能となり、隊員の負担も大きく軽減される。
  • イージス艦8隻体制の下で、2隻程度が洋上においてBMD対応で展開するためには、ほぼBMD任務に専従する形で運用せざるを得なかったが、そのイージス艦を海洋の安全確保任務に充てることや、そのための練度を維持するための訓練を行うこと及び乗組員の交代を十分に行うことが可能となり、わが国の対処力・抑止力を一層強化することにつながる。
  • イージス・アショアに搭載するレーダーは、SPY-7という最新鋭で高性能なものとなっており、海自のイージス艦に比べ、ロフテッド軌道への対応能力や同時多数攻撃への対処能力など、わが国の弾道ミサイル防衛能力は飛躍的に向上する。

2018年6月に、イージス・アショア2基の配備候補地として、秋田県の陸自新屋演習場及び山口県の陸自むつみ演習場を公表したが、2020年6月、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する決定を発表した10

(5)新たなミサイル防衛システムの整備

2020年9月以降、イージス・アショアの代替策に関し、イージス・アショアの構成品を移動式の洋上プラットフォームに搭載する方向で、米国政府や日米の民間事業者を交え、技術的実現性などについて検討を進め、イージス・アショアの構成品を洋上プラットフォームへ搭載することが技術的に可能であることを確認した。

検討の結果、同年12月、厳しさを増すわが国を取り巻く安全保障環境により柔軟かつ効果的に対応していくための、あるべき方策の一環として、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)に替えて、イージス・システム搭載艦2隻を整備することを閣議決定した。

同艦は海自が保持することとし、同艦に付加する機能及び設計上の工夫などを含む詳細については、引き続き検討を実施し、必要な措置を講ずるとしている。

また、同閣議決定においては、抑止力の強化についても、引き続き政府において検討を行うこととしている。

2 米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力
(1)米国のミサイル防衛

米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の①ブースト段階、②ミッドコース段階、③ターミナル段階の各段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている11

(2)日米BMD技術協力など

平成11(1999)年度から、海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手した結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たことから、2005年12月の安全保障会議(当時)及び閣議において、この成果を技術的基盤として活用し、BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発12に着手することを決定した。この共同開発は、防護範囲を拡大し、より高性能化・多様化する将来脅威に対処することを目的として2006年6月から開始されている。

2017年2月及び6月、日米両国は、米国ハワイ沖においてSM-3ブロックIIAの海上発射試験を実施するとともに、試験データの解析などを行い、要求性能を満たしていることなどを確認した。

2020年11月、米国は、米国ハワイ沖においてSM-3ブロックIIAの海上発射試験を実施し、マーシャル諸島の実験施設から発射されたICBMに見立てた飛翔体を衛星システムからの情報に基づき迎撃することに成功した。

4 ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機などを迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム

5 自動警戒管制システムは、全国各地のレーダーが捉えた航空機などの情報を一元的に処理し、対領空侵犯措置や防空戦闘に必要な指示を戦闘機などに提供するほか、弾道ミサイル対処においてペトリオットやレーダーなどを統制し、指揮統制及び通信機能の中核となるシステム

6 わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関する発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などのデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報(1996年4月から受領開始)

7 特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)が2014年12月に施行され、わが国の安全保障に関する秘匿性の高い情報を保護するための基盤が確立された。また、2016年11月、秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定(日韓秘密軍事情報保護協定 日韓GSOMIA:General Security of Military Information Agreement)が発効したことから、北朝鮮の核・ミサイルに関する情報を含め、各種事態への実効的かつ効果的な対処に必要となる様々な秘密情報に関し、日韓政府間で共有したものが保護される枠組みが整備された。

8 ミニマムエナジー軌道(効率的に飛翔し、射程を最も大きくする軌道)より高い軌道を取ることにより、最大射程よりも短い射程となるが、落下速度が速くなる軌道

9 令和3(2021)年度予算においては、弾道ミサイルと巡航ミサイルや航空機への双方に対応が可能なPAC-3MSEミサイルを取得するために必要な経費を計上した。

10 ブースターの落下による影響に関して、むつみ演習場への配備については、2018年8月以降、地元に対してそれまでの米側との協議を踏まえ、迎撃ミサイル(SM-3)の飛翔経路をコントロールしブースターをむつみ演習場内に落下させるための措置をしっかりと講じる旨、説明してきた。秋田についても、同月以降、新屋演習場の場合ブースターは海に落下させる旨、説明してきた。
しかしながら、2020年5月下旬、迎撃ミサイル(SM-3)の飛翔経路をコントロールし、むつみ演習場内又は新屋演習場など沿岸部の場所にあっては海上にブースターを確実に落下させるためには、ソフトウェアのみならずハードウェアを含めシステム全体の大幅な改修が必要となり、相当のコストと期間を要することが判明した。
防衛省としては、この追加のコスト及び期間をかけて改修することは合理的ではないと判断し、結果として、地元の皆様に約束していたことが実現できなくなったことから、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する決定を発表した。

11 具体的には、2006年、米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が、同年10月には沖縄県にペトリオットPAC-3が、2007年10月には青森県に統合戦術地上ステーション(JTAGS)が配備された。加えて、2014年12月には、米軍経ヶ岬通信所に2基目のTPY-2レーダーが配備された。2018年10月には、第38防空砲兵旅団司令部が相模原に配置された。また、2015年10月、2016年3月及び2018年5月には、米軍BMD能力搭載イージス艦が横須賀海軍施設(神奈川県横須賀市)に配備された。

12 これらの日米共同開発に関しては、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、2004年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件は、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則などによらないとされた。このような経緯を踏まえ、SM-3ブロックIIAの第三国移転は、一定の条件のもと、事前同意を付与できるとわが国として判断し、2011年6月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)の共同発表においてその旨を発表した。なお、2014年4月、防衛装備移転三原則(移転三原則)が閣議決定されたが、同決定以前の例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認め得るものと整理されている。