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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

3 電磁波領域での対応

電磁波11は、従来から指揮通信や警戒監視などに使用されてきたが、技術の発展により、その活用範囲や用途が拡大し、現在の戦闘様相における攻防の最前線として、主要な領域の一つと認識されるようになってきている12

こうした状況においては、電磁波領域における優勢を確保することが抑止力の強化や領域横断作戦の実現のためにも極めて重要である。

このため、防衛省・自衛隊においても、防衛大綱などに基づき、①電磁波の利用を適切に管理・調整する機能の強化、②電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築、③わが国への侵攻を企図する相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力の強化などに取り組み、電磁波領域の優越を確保するための能力を獲得・強化していくこととしている13

1 電磁波の利用を適切に管理・調整する機能の強化

電磁波を効果的、積極的に利用して戦闘を優位に進めるためには、敵による電磁波の利用とその効果を妨げつつ、味方による電磁波の利用とその効果を確保する電子戦能力に加えて、電磁波の周波数や利用状況を一元的に把握・調整し、部隊などに適切に周波数を割り当てる電磁波管理能力を構築することが必要である。

このため、装備品の通信装置やレーダー、電子戦装置などが使用する電磁波の状況を把握し、電波の発射方向や伝搬距離などを計算し、モニター上で可視化する電磁波管理支援技術の研究に着手するなど電磁波管理能力の強化を進めている。

参照図表III-1-3-4(電子戦能力と電磁波管理能力のイメージ)

図表III-1-3-4 電子戦能力と電磁波管理能力のイメージ

2 電磁波に関する情報収集・分析能力の強化及び情報共有態勢の構築

電磁波の領域での戦闘を優位に進めるためには、平時から有事までのあらゆる段階において、電磁波に関する情報を収集・分析し、これを味方の部隊で適切に共有することが重要である。

このため、陸上総隊隷下に電磁波に関する情報収集などを行う電磁波作戦部隊を新編するほか、令和3(2021)年度予算においては、受信周波数帯域の拡大や遠距離目標収集能力を向上させた空自電波情報収集機(RC-2)の搭載装置を取得するほか、海自多用機(EP-3)の後継機の開発に先立ち、AIなどの最新技術を活用し、信号検出能力、方位精度、類識別能力などを強化した情報収集システムの研究を実施するなど、電磁波領域の情報収集・分析能力を強化することとしている。また、それらの情報を確実なセキュリティを確保したうえで各自衛隊において共有するため、自動警戒管制システム(JADGE)の能力向上、防衛情報通信基盤(DII)を含む各自衛隊間のシステムの連接及びデータリンクの整備を引き続き推進することとしている。

3 わが国への侵攻を企図する相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力の強化

平素からの情報収集・分析に基づき、レーダーや通信など、わが国に侵攻を企図する相手方の電波利用を無力化することは、他の領域における能力が劣勢の場合にも、それを克服してわが国の防衛を全うするための一つの手段として有効である。

このため、令和3(2021)年度予算においては、相手の電波利用を無力化することで、火力発揮を支援し、陸上戦闘を始め各種戦闘を有利にする陸自のネットワーク電子戦システム(NEWS)の取得や、相手方の脅威圏外(スタンド・オフ・レンジ)から妨害対象に応じた効果的な電磁波妨害を実施し、自衛隊の航空作戦の遂行を支援する、空自のスタンド・オフ電子戦機の開発、航空機やミサイルなどに搭載されているレーダーや通信機器が使用する電波を探知・識別し、当該レーダーや通信機器を無力化する艦艇用の電波探知妨害装置の研究などを進めることとしている。

また、多数のドローンを活用したスウォーム(群れ)攻撃の脅威に有効に対処する観点から、高出力マイクロ波発生装置の研究や車載レーザシステムの実証などに関する予算を計上している。

4 訓練演習、人材育成

自衛隊の電磁波領域の能力強化や専門的知見を有する隊員の育成には、平素からの教育訓練に加え、実戦経験に裏打ちされた高度なノウハウを有する米国などの訓練・演習や教育に参加することも重要である。

このため、統合電子戦訓練を実施し、電磁波領域における運用能力を強化するほか、米国の電子戦教育課程への要員派遣や英海軍が実施する図上演習への参加、米国などで行われる電子戦シンポジウムへの参加などを通じ、最新の電磁波領域に関する知見の収集やノウハウの獲得を図る予定である。

新編された第301電子戦中隊

新編された第301電子戦中隊

11 電波や赤外線、可視光線(光)、紫外線、X線などの総称。わが国において使用される電波については、総務省が一元的に周波数を管理しており、防衛省・自衛隊が訓練などで使用する周波数についても、総務省から承認を得ている。

12 電磁波を用いた攻撃の一つに、核爆発などにより、瞬時に強力な電磁波を発生させ、システムをはじめとする電子機器に過負荷をかけ、誤作動させたり破壊したりする電磁パルス攻撃がある。このような攻撃は、防衛分野のみならず国民生活全体に影響がある可能性があり、政府全体で必要な対策を検討していくこととしている。

13 このほか、防衛省・自衛隊においては、各自衛隊の情報を全国で共有するために必要となる通信網の多重化を推進するほか、電磁パルス防護の観点を踏まえた研究を行っている。