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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 パキスタン

1 全般

パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国及びイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域ではイスラム過激派が国境を超えて活動を行っており、テロとの闘いにおけるパキスタンの動向は国際的に関心が高い。

パキスタン政府は、アフガニスタンにおける米国の活動に協力しているが、これに対する国内の反米感情の高まりやイスラム過激派による報復テロの発生により、国内治安情勢が悪化するなど、困難な政権運営を余儀なくされている。パキスタン軍などが武装勢力に対する掃討作戦を強化したことで、テロによる被害は大きく減少したとされるものの、引き続きテロが散発的に発生している。

こうした中、2017年以降、対テロ作戦「ラード・ウル・ファサード」を継続しているほか、過激派勢力のアフガニスタンからの越境を防ぐため、国境沿いにフェンス及び警備拠点の整備を進めている。

2 軍事

パキスタンは、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとの立場をとっている。1970年代から核開発を開始したとみられており、1998年、同国初の核実験を行った。

パキスタンは、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイル及び巡航ミサイルの開発も進めており、近年、試験発射を行っている。2015年には、弾道ミサイル「シャヒーン3」の発射試験を3月と12月の2回にわたり実施したほか、2016年1月には巡航ミサイル「ラード」の航空機からの発射試験を行った。また、2017年1月には、MIRV(Multiple Independently targetable Re-entry Vehicle)化されたとする弾道ミサイル「アバビール」の発射試験を行うとともに、前年に続き、2018年3月にも、潜水艦発射型の巡航ミサイル「バーブル」の発射試験を行った。さらに、2019年11月には、インドの弾道ミサイル発射に続き、パキスタンも弾道ミサイル「シャヒーン1」を発射させるなど、ミサイルの戦力化を着実に進めているとみられる5

中国とはアルハリッド戦車及びJF-17戦闘機の共同開発を行い、自国生産したJF-17 BlockI及びBlockIIを85機運用しているほか、JF-17 BlockIIIの製造を開始している。また、パキスタンが「海軍のバックボーン」と位置づける潜水艦8隻を中国から調達する予定とし、4隻は中国で、残りの4隻はパキスタンで建造されると報道されている。

3 対外関係
(1)米国との関係

パキスタンは、アフガニスタンにおける米軍の活動を支援するほか、アフガニスタンとの国境地域においてイスラム過激派の掃討作戦を行うなど、テロとの闘いに協力している。

一方で、パキスタンは米国に対し、国内でのイスラム過激派に対する無人機攻撃の即時停止などを求めて、たびたび抗議を行っている。

これに対し米国は、パキスタンがアフガニスタンで活動するイスラム過激派の安全地帯を容認していることが、米国への脅威となっているとして、パキスタンを非難してきた。2017年8月、トランプ米大統領は、米国を標的にするテロリストをかくまうような国とのパートナーシップは成立しえないとの立場を示し、同月、パキスタンに対する援助のうち、国務省が管轄する対外軍事融資2億500万ドルの停止を発表した。これに続き、2018年1月には、国防省が管轄する安全保障関連の援助を停止する方針が発表され、同年9月には国防省が管轄する連合支援基金3億ドルの支援を停止することが報じられた。

こうした両国間の緊張関係が続く中、2019年7月、カーン首相が訪米し、トランプ米大統領と初の首脳会談を実施した。会談では、テロ対策やアフガニスタン和平などについて意見を交わすとともに、亀裂が深刻化している両国関係の修復策について話し合われた。訪米直前、パキスタンは、同国を拠点とするイスラム過激派ラシュカレ・タイバの共同設立者であり、2008年にムンバイで起きた同時テロの首謀者として米政府から懸賞金がかけられているハフィス・サイード容疑者を逮捕し、米国にテロ対策への取組をアピールするとともに、会談後、カーン首相は米国との相互理解を深めたとの認識を明らかにし、「パキスタンはアフガニスタン和平の前進に向け、できる限りのことをする」と強調するなど、関係改善の意図が伺われ、今後の両国の対応が注目される。

(2)中国との関係

参照2節3項4(3)(南アジア諸国との関係)

5 「シャヒーン3」(ハトフ6)は、射程約2,750km、移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アバビール」は、射程約2,200km、新型の弾道ミサイル、「ラード」(ハトフ8)は、射程約350kmの巡航ミサイル、「バーブル」(ハトフ7)は、射程約750kmの超音速巡航ミサイルと指摘されている。