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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➋ 宇宙空間に関する各国の取組

1 米国

米国は、1958(昭和33)年1月に人工衛星を打ち上げて以来、世界初の偵察衛星、月面着陸など、軍事、科学、資源探査など多種多様な宇宙活動を発展させ続け、今日では世界最大の宇宙大国となっている。米軍の行動においても宇宙空間の重要性は強く認識されており、宇宙空間は、安全保障上の目的でも積極的に利用されている。

米国は17(平成29)年12月に公表した国家安全保障戦略NSS(National Security Strategy)においては、宇宙資産に対する攻撃能力は非対称的な優位性をもたらすと考え、様々な対衛星兵器を追求している国の存在を指摘している。また、宇宙空間への無制限のアクセスと活動の自由が米国にとって重要な利益であるとの認識を示すとともに、国家宇宙会議において、長期宇宙目標を検討し、戦略を発展させるとした。18(平成30)年3月には、「国家宇宙戦略」を公表し、敵対者が宇宙を戦闘領域に変えたとの認識を示したうえで、宇宙空間における米国及び同盟国の利益を守るため、脅威を抑止及び撃退していくと表明した。19(平成31)年1月に公表した国家情報戦略(NIS:National Intelligence Strategy)では、前回の同戦略では一切言及のなかった宇宙領域における脅威認識を示しており、敵対者が一部の分野で米国を上回る能力を持って宇宙領域におけるプレゼンスを増大させているとして、警戒感を表明している。さらに、同年7月に公表された国家軍事戦略(NMS:National Military Strategy)では、すべての作戦領域における能力の統合にかかる運用手法の概念を導入し、陸海空に加え、宇宙・サイバー領域を重視するとした。

組織面では、大統領直轄組織である国家航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)が主に非軍事分野の宇宙開発を担う一方、国防省が軍事分野の観測衛星や偵察衛星などの研究開発と運用を担っている。19(令和元)年8月、宇宙の任務を担っていた戦略軍の一部を基盤に新たな地域別統合軍として「宇宙コマンド」が発足し、また、19(令和元)年12月、6番目の軍種として空軍省の隷下に人員約1万6千人規模の「宇宙軍」を新たに創設した。

参照2章1節2項(軍事態勢)

2 中国

中国は、1950年代から宇宙開発を推進し、1970(昭和45)年に初の人工衛星「東方紅1号」を打ち上げた。中国は、これまでに有人宇宙飛行、月面探査機の打ち上げなどを行っており、19(平成31)年1月には、無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」を世界で初めて月の裏側に着陸させた。中国の宇宙開発は、国威の発揚や宇宙資源の開発を企図しているとの見方がある。

19(令和元)年7月に公表した国防白書「新時代における中国の国防」では、宇宙は国際的戦略競争の要点であり、宇宙の安全は国家の建設及び社会の発展の戦略的保障であると主張している。16(平成28)年12月に公表した宇宙白書「2016中国の宇宙」では、「宇宙強国の建設」や「中国の夢の実現」といった方針が示され、20(令和2)年ごろまでに月探査機、火星探査機、小惑星探査機、木星探査機などの打ち上げ計画を提示している。

中国は従来から国際協力や宇宙の平和利用を強調しているものの、宇宙空間の軍事利用を否定しておらず、人工衛星による情報収集、通信、測位など軍事目的での宇宙利用を積極的に行っている。中国は対衛星兵器の開発を継続しており、07(平成19)年1月には地上から発射したミサイルで自国の人工衛星を破壊する実験を、14(平成26)年7月などにも破壊を伴わない対衛星ミサイルの実験2を行ったほか、衛星攻撃衛星(キラー衛星)や電波妨害装置(ジャマー)、レーザー光線などの指向性エネルギー兵器3を開発しているとの指摘もある。衛星測位システム「北斗」については、18(平成30)年12月、全世界規模でサービスを開始したとされ、軍事利用の可能性も指摘される。また運搬ロケットについては、中国国有企業が開発・生産を行っており、「長征」シリーズでは新型の打ち上げを継続するほか、大型衛星の運搬ロケットの開発を行うとしている。同企業は弾道ミサイルの開発、生産なども行っているとされ、運搬ロケットの開発は弾道ミサイルの開発にも応用可能とみられる。このように中国は、官・軍・民が密接に協力しながら、今後も宇宙開発に注力していくものとみられる。なお、中国は投資、研究開発、米国などからの技術導入などによって、宇宙大国の一つとなったとされ、将来的には、米国の宇宙における優位を脅かすおそれがあるとの指摘4がある。

組織面では、15(平成27)年12月に中央軍事委員会の直轄部隊として設立された戦略支援部隊は、任務や組織の細部は公表されていないものの、宇宙・サイバー・電子戦を任務としており、衛星の打ち上げ・追跡を担当しているとみられる。また、中央軍事委員会の装備発展部が有人宇宙計画などを担当しているとみられる。さらに、国務院科学技術部が宇宙分野を含む中国の科学技術政策の企画・立案などを担当するとともに、工業・情報化部に所属する国防科学技術工業局が、宇宙にかかる計画を策定・実施し、国家航天局が民生分野を担当するとともに、国際的な協定の締結を行うなど対外的に政府を代表している。

19(令和元)年12月27日、「長征5号遥3」の打ち上げ【Avalon/時事通信フォト】

19(令和元)年12月27日、「長征5号遥3」の打ち上げ
【Avalon/時事通信フォト】

3 ロシア

ロシアの宇宙活動は、旧ソ連時代から継続している。旧ソ連は、1957(昭和32)年10月、人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げを皮切りに、数々の人工衛星を打ち上げ、旧ソ連解体に至るまで世界一の人工衛星打ち上げ数を誇った。91(平成3)年の旧ソ連解体以降、ロシアの宇宙活動は低調な状態にあったが、近年、再び活動を拡大している。

安全保障面での動向としては、15(平成27)年12月に承認された「国家安全保障戦略」において、米国による宇宙への兵器の配備が、グローバル及び地域的な安定を阻害している要因の1つと指摘している。また18(平成30)年、米国がMDRを公表したことを受け、ロシアは同計画の実施が宇宙における軍拡競争を引き起こすことは必至であり、国際的な安全保障及び安定にとって最もマイナスの結果を招くこととなるなどと懸念を表明した。

政策面としては、宇宙活動を展開していく今後の具体的な方針として16(平成28)年3月、「2016-2025年のロシア連邦宇宙プログラム」を発表し、国産宇宙衛星の開発・展開、有人宇宙飛行計画などを盛り込んだ。

一方、ロシアは、シリアにおける軍事作戦に宇宙能力を活用しているだけでなく、地球規模で動いている米国とその同盟国の軍を偵察している5とされる。また、ロシアは対衛星兵器の開発を継続しており、地上発射型の対衛星ミサイルの発射試験を繰り返しているほか、MiG-31から発射する対衛星ミサイル、ソーコル・エシェロン(航空機搭載型)などのレーザー兵器システムの開発を行っていると指摘されている。

組織面では、国営宇宙公社ロスコスモス(State Space Corporation ROSCOSMOS)がロシアの科学分野や経済分野の宇宙活動を担う一方で、国防省が安全保障目的での宇宙活動に関与し、15(平成27)年8月に空軍と航空宇宙防衛部隊が統合され創設された航空宇宙軍が実際の軍事面での宇宙活動や衛星打ち上げ施設の管理などを担当している。

4 欧州

欧州における宇宙活動は、EU、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)、欧州各国がそれぞれ独自の宇宙活動を推進しているほか、相互の協力による宇宙活動が行われている。フランスが1965(昭和40)年、英国が1971(昭和46)年に衛星打ち上げ国となったほか、イタリアが1964(昭和39)年、ドイツが1965(昭和40)年にそれぞれ米国のロケットを利用し、人工衛星の保有国となった。一方ESAは、1979(昭和54)年に最初の衛星を打ち上げた。

EU・ESAは07(平成19)年、合同閣僚級理事会で「欧州宇宙政策」を承認し、民生目的及び防衛目的の宇宙活動の相乗効果の向上や、加盟国の調整のとれた宇宙活動、国際競争力のある宇宙産業の確保などの重要性が示し、安全保障が優先分野の一つとして位置づけた。また、フォンデアライエン欧州委員長は、就任前の19(令和元)年9月、欧州委員会内に軍の資金調達、開発及び展開を担う防衛・宇宙部門を設置すると表明した。今後はEU・ESAが計画している衛星測位システム「ガリレオ」、地球観測プログラム「コペルニクス」、欧州防衛庁(EDA:European Defence Agency)による偵察衛星プロジェクト(MUSIS:Multinational Space based Imaging System)などが、欧州における安全保障分野に活用されていくものとみられる。

フランスは、19(令和元)年7月、フランスで初となる国防に特化した「国防宇宙戦略文書」を発表した。本文書には、宇宙司令部創設のほか、脅威認識、宇宙状況監視能力の強化などについて言及している。同年9月、軍事省内にある宇宙軍事監視作戦センター、統合宇宙司令部、衛星軍事監視センターの機能・人員を集約する形で空軍隷下に宇宙司令部を創設した。

5 インド

インドは、通信、測位、観測分野での開発プログラムを推進している。19(平成31)年1月末には20(令和2)年までに有人宇宙イニシアティブの研究・開発を進めることなどを盛り込んだ宇宙ミッションを発表した。同年12月、米印は、第2回外務・防衛閣僚会議「2+2」を開催し、宇宙における防衛協力分野の可能性について、20(令和2)年に議論する意思を表明した。

また、インドは、自国周辺の測位が可能な測位衛星として地域航法衛星システム(NavIC:Navigation Indian Constellation)衛星を運用しているほか、地球観測衛星を打ち上げ、安全保障目的にも使用しているとみられる。さらに、17(平成29)年2月には、低予算で世界最多となる104機の衛星を1基のロケットで打ち上げることに成功するなど、高い技術力を有している。また、19(平成31)年3月、モディ首相は、低軌道上の人工衛星をミサイルで撃ち落とす実験に成功したと発表している。

組織面では、宇宙庁が宇宙開発政策を実行し、ロケットの開発、打ち上げ、衛星の開発、製造などを行うインド宇宙研究機関(ISRO:Indian Space Research Organization)を管理している。また、19(平成31)年4月、国防省においてASATを含む全宇宙アセットを統制し、宇宙空間にかかわる国防政策の立案に関与する国防宇宙庁(DSA:Defence Space Agency)の設立が、同年6月、宇宙戦に関する兵器・技術を開発する機関として国防宇宙研究機構(DSRA:Defence Space Research Agency)の設立が承認されたと報じられている。

6 韓国

韓国は、90年代後半から宇宙開発を本格化させたものとみられる。現在の宇宙開発は05(平成17)年に施行された「宇宙開発振興法」のもと、文政権が発表した「第3次宇宙開発振興基本計画」に基づき推進されている。同計画は、40(令和22)年までのビジョンを提示し、①宇宙ロケット技術の自立、②人工衛星の活用サービスと開発の高度化、③宇宙探査の開始、④韓国型衛星航法システム(KPS:Korean Positioning System)の構築などに重点をおいている。

また、従来から韓国は、衛星の打ち上げを他国に依存してきたが、18(平成30)年11月、純国産ロケットとして開発中の「ヌリ号」の試験機打ち上げに成功したと発表した。

組織面では、韓国航空宇宙研究院が実施機関として研究開発を主導、国防科学研究所が各種衛星の開発利用に関与している。また、空軍において、朝鮮半島上空の衛星活動の監視任務を遂行する衛星監視統制隊を創設するとしている6

2 米国家情報長官「世界脅威評価書」(15(平成27)年2月)による。

3 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告書」(19(令和元)年5月)による。

4 15(平成27)年11月、米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書による。

5 米空軍国家航空宇宙情報センター「Competing in Space」(18(平成30)年12月)による

6 韓国国防白書2018(19(平成31)年1月)による。