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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第3節 サイバー領域をめぐる動向

➊ サイバー空間と安全保障

近年の情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の発展により、インターネットなどの情報通信ネットワークは人々の生活のあらゆる側面において必要不可欠なものになっており、そのため情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃は、人々の生活に深刻な影響をもたらしうるものである。

サイバー攻撃の種類としては、情報通信ネットワークへの不正アクセス、メール送信などを通じたウイルスの送り込みによる機能妨害、情報の改ざん・窃取、大量のデータの同時送信による情報通信ネットワークの機能妨害のほか、電力システムなどの重要インフラのシステムダウンや乗っ取りを目的とした攻撃などがあげられる。また、ネットワーク関連技術は日進月歩であり、サイバー攻撃も日に日に高度化、巧妙化している。

軍隊にとって情報通信は、指揮中枢から末端部隊に至る指揮統制のための基盤であり、ICTの発展によって情報通信ネットワークへの軍隊の依存度が一層増大している。また、軍隊は任務遂行上、電力をはじめとする様々な重要インフラを必要とする場合があり、これらの重要インフラに対するサイバー攻撃が、任務の大きな妨害要因になり得る。そのため、サイバー攻撃は敵の軍事活動を低コストで妨害可能な非対称的な攻撃手段として認識されており、多くの外国軍隊がサイバー空間における攻撃能力を開発しているとみられる。特に、中国及びロシアは、ネットワーク化された部隊の妨害やインフラの破壊などのために、軍のサイバー攻撃能力を強化していると指摘されている1

1 米国家情報長官「世界脅威評価書」(18(平成30)年3月)による。