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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

➎ 北方領土におけるロシア軍

旧ソ連時代の1978(昭和53)年以来、ロシアは、わが国固有の領土である北方領土のうち国後島、択捉島と色丹島に地上軍部隊を再配備してきた。その規模は、ピーク時に比べ大幅に縮小した状態にあると考えられるものの、現在も1個師団が国後島と択捉島に駐留しており、戦車、装甲車、各種火砲、対空ミサイルなどが配備されている。

ロシアは近年北方領土における軍事施設地区の整備を進めているほか、16(平成28)年には、択捉島及び国後島への沿岸(地対艦)ミサイル配備を発表した。さらに、18(平成30)年1月には、択捉島の軍用飛行場である天寧飛行場に加え、14(平成26)年に開港した新民間空港が軍民共用となり、同年8月には同空港にSu-35戦闘機が3機配備されたと伝えられている。北方四島を含み得る諸島での軍事演習も継続して行われており、東部軍管区は19(令和元)年10月、サハリン州及び沿海地方で最大8,000名以上の人員、3,000以上の戦車や装備に加え、最大50の戦闘機やヘリコプターを使用し、仮想敵国の上陸を防ぐ訓練を実施する旨発表した。また20(令和2)年4月には、太平洋艦隊の艦艇等約30隻が参加する戦術訓練が択捉・国後両島の周辺海域で実施されたと伝えられた。

このように、ロシアは、わが国固有の領土である北方領土においてロシア軍の駐留を継続させ、事実上の占拠のもとで、昨今、その活動をより活発化させているが、こうした動向の背景として、ウクライナ危機などを受けて領土保全に対する国民意識が高揚していることや、SSBNの活動領域であるオホーツク海に接する北方領土の軍事的重要性が高まっていることなどについての指摘がある。

19(令和元)年5月に開催された日露外務・防衛閣僚協議(「2+2」)の場では、北方領土におけるロシア軍による軍備強化について、わが国の法的立場から受け入れられない旨伝えるとともに、日本周辺におけるロシア軍機の活発な活動への懸念を表明し、ロシア側の冷静な対応を求めたところであり、引き続き北方領土を含む極東におけるロシア軍の動向を注視していく必要がある。