Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第4節 ロシア

➊ 全般

これまで「強い国家」や「影響力ある大国」を掲げ、ロシアの復活を追求してきたプーチン大統領は、18(平成30)年に再選を果たした。同大統領は同年5月の就任演説において、ロシアが強く、積極的で、かつ影響力を有する国際社会の一員であり、国家の安全と防衛力は確実に保障されていると述べたほか、生活の質、幸福、安全、健康が重要事項であると言及し、ロシアは歴史的に何度も不死鳥のごとく復活してきたとして、今後の躍進を確信している旨表明した。

同年3月、大統領選挙前に行われた年次教書演説で、プーチン大統領は「今日のロシアは強力な対外的経済力と防衛力を持つ主要な大国の一つである」と述べたほか、戦略核戦力をはじめとする装備の近代化や米国内外におけるミサイル防衛システム配備への対抗手段としての新型兵器開発について強調した。そのうえで、ロシアの軍事力が世界の戦略的な均衡の維持につながっているとの認識を示し、国際安全保障及び文明の持続的発展の新たなシステム構築に向けて交渉する用意がある旨表明している。

その一方で、ソ連時代に米国との間で締結され史上初の特定兵器全廃条約であった中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約は、米国が主張するところのロシアの条約違反による米国の脱退通告を受け、19(令和元)年8月に終了し、米露両国はそれぞれ中距離ミサイルの開発の意向を表明している。

参照本章1節(米国)

14(平成26)年のウクライナ危機以降、ロシアは主要7か国首脳会議(G7サミット)の参加資格停止や経済制裁等、対外的に厳しい状況におかれているが、ロシアと深い経済関係を有する一部の諸国内では、長引く制裁による経済的負担に対する「制裁疲れ」ともいえる現象が生じている。一方、ロシア側は輸入代替が進むなど、制裁への抗たん性を高めているほか、外交面においても、プーチン大統領は「国際情勢で重要な役割を果たす機関がほかにある」との立場を示し、上海協力機構(SCO)や新興国5か国(BRICS)など欧米諸国が参加しない多国間外交の場やG20などで存在感を示している。

BRICS首脳会議(2019年11月ブラジル)【EPA=時事】

BRICS首脳会議(2019年11月ブラジル)
【EPA=時事】

また、軍事分野においても中東やアフリカ地域などで存在感を示している。15(平成27)年9月以降、ロシアはシリアへの軍事介入を実施し、同国内における拠点を確保しつつ、遠隔地にその軍事力を迅速かつ継続的に展開する能力があることを示すとともに、トルコとともに非武装地帯を設置する覚書を結ぶなど、シリア情勢をめぐる存在感の増大は中東への影響力拡大に向けた動きとして注目される。ショイグ国防相は19(令和元)年9月、テレビのインタビューで「シリア紛争へのロシアの軍事介入はシリア解放のみならず、世界政治へのロシアの復帰、現代世界の多極化を意味した」と言明した。

同年10月、ロシアは、戦略爆撃機Tu-160×2機などを南アフリカに初めて派遣するとともに同年11月には、南アフリカ沖でロシア、中国、南アフリカの海軍による初の3か国共同演習を実施した。また同年12月、インド洋北部等で、ロシア、中国、イランの海軍による初の3か国共同演習を実施した。

さらに、武器輸出分野においても、NATO加盟国であるトルコに対して最新兵器の売り込みを図るなど、輸出先の拡大を図っている。

こうした中、プーチン大統領は20(令和2)年1月、大統領任期の変更を含む憲法改正案を議会に提出した。プーチン大統領が任期満了を迎える24(令和6)年以降の体制構築への布石との指摘もあり、今後、同大統領の任期末を見据えたロシアの動向が注目されている。

南アフリカを初訪問した戦略爆撃機TU-160。手前はロシアのコブィラシ遠距離航空部隊司令官(右)と南アフリカのマピサヌカクラ国防・退役軍人相。【ロシア国防省】

南アフリカを初訪問した戦略爆撃機TU-160。手前はロシアのコブィラシ
遠距離航空部隊司令官(右)と南アフリカのマピサヌカクラ国防・退役軍人相。
【ロシア国防省】