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<VOICE>研究者の声

九州大学 教授 安達 千波矢(あだち ちはや)

私はこれまでに二度、米国に滞在する貴重な機会を得ました。最初は1997年夏、ワシントンD.C.にある海軍研究所(Naval Research Laboratory, NRL)での研究滞在です。NRLは機密性の高い軍事研究を担う一方で、基礎科学にも極めて強い重点を置く研究機関であり、1980年代以降、分子レベルでのエレクトロニクスの将来的展開を見据えた研究が継続的に進められていました。特に、有機光電変換素子や有機EL(OLED)に関する基礎研究は、将来の軽量・フレキシブルな表示デバイスへの応用可能性に加え、新しい電子・光機能材料としての潜在力の高さから、戦略的にも重要なテーマとして位置づけられていました。研究所内の雰囲気は、軍事研究機関という厳格なイメージとは対照的に、大学の研究室と同様に自由闊達であり、研究者同士が分野を越えて活発に議論する環境が整っていました。研究グループの主宰者たちは、それぞれの専門分野において学術界を牽引する存在であり、学会活動や国際共同研究を通じて、基礎科学と応用研究の橋渡し役を果たしていました。この経験は、科学技術の発展には長期的視点に立った基礎研究の継続が不可欠であることを強く認識させるものでした。

二度目の米国滞在は、1999年から2001年にかけてのプリンストン大学でのポスドク研究期間です。大学においても、DARPA(米国国防高等研究計画局)や米国空軍(US Air Force)からの研究資金が投入され、OLEDや有機半導体レーザーの研究開発が基礎科学の段階から強力に推進されていました。これらの資金は大学研究の中核を支える重要な柱となっており、新しい電子材料や光機能デバイスの創出に向けた挑戦的研究を可能にしていました。大学という自由な学術環境の中で、国家戦略と結びついた研究が自然に融合している様子は非常に印象的でした。

軍事研究と民生技術の研究開発との間には、必ずしも明確な境界が存在するわけではありません。むしろ両者は相補的な関係にあり、互いに影響を与え合いながら、人類の科学技術の進歩を支えてきました。新しい材料、デバイス、そしてアプリケーションは、しばしば基礎研究の中から生まれ、それが社会実装へと展開する過程で、国家的・産業的な枠組みとも結びついていきます。こうした経験を通じて、基礎科学と応用研究の両輪が相互に作用することの重要性を、私は強く実感しています。このたび、防衛装備庁の研究資金を獲得する機会に恵まれ、有機デバイス分野における新たな研究展開を推進できることに、深い感謝の意を表したいと思います。本支援を契機として、基礎科学に立脚しつつ、将来の社会実装へとつながる革新的な研究成果の創出に一層努めていきたいと考えています。

九州大学教授 安達 千波矢 氏

九州大学教授 安達 千波矢 氏