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<視点>わが国の防衛産業が直面する課題

防衛研究所 社会・経済研究室 主任研究官 小野 圭司(おの けいし)

日本の防衛産業には「構造的な問題」が存在しています。装備品の高度化、国際環境の緊張、技術覇権競争の激化が重なるなかで、従来型の調達・生産モデルは限界を迎えつつあります。特に①供給網(サプライチェーン)の安全性、②熟練人材の減少、③サイバーセキュリティの脆弱性は、防衛産業基盤そのものを揺るがしかねない深刻なリスクです。

第1は供給網の安全保障です。装備品は数千点規模の部材・電子部品・ソフトウェアの集合体であり、その一部でも信頼性が揺らげば、装備全体の安全保障リスクに直結します。近年は海底通信インフラや半導体製造装置など、軍民両用性の高い技術が国際的な安全保障上の焦点となっています。海外企業の買収を巡る投資審査の強化や、特定国によるレアメタル輸出規制は、供給網の地政学的リスクを示しています。弾薬、センサー、パワー半導体などの生産が影響を受ける可能性がある以上、トレーサビリティの強化、代替調達先(レアメタルの都市鉱山も含む)の確保、戦略物資の備蓄拡充などは必須です。

第2に人材基盤の弱体化があります。装備品の製造・整備には、高度な加工技術や暗黙知を有する熟練工の存在が不可欠です。しかし団塊世代の大量退職が進む一方、若年層の採用は進まず、技能伝承が追いついていません。特に中小サプライヤーでは、受注の不安定さや低収益性が人材確保を阻んでいます。防衛産業は少量多品種生産が中心であり、技能の喪失は即座に品質低下や納期遅延につながります。また装備品は民生品に比べて市場規模が小さく、輸出も限定的であるため、企業が設備投資や人材育成に踏み切りにくい構造的制約があります。

第3に、供給網下流を起点とするサイバー攻撃の増加です。近年はセキュリティ体制の脆弱な下請企業を経由して機密情報を窃取する手法が増えています。国内でも、一般産業分野でのランサムウェア被害が相次ぎ、情報管理の弱点が外部から突かれ得ることが明らかになりました。防衛関連企業の場合、設計図面や試験データが流出すれば、技術的優位性の喪失のみならず、国家安全保障上の重大な損失となります。供給網全体を対象としたセキュリティ基準の統一、監査制度の導入、ゼロトラスト型の情報管理体制の構築が求められますが、中小企業にとってはコスト負担が重く、実装面での支援策が不可欠です。

これら3つの課題は相互に連関しています。今後は、効率性と冗長性の再均衡を図りつつ、防衛産業を国家安全保障の基盤インフラとして再定義する視座が求められます。経済合理性だけでは測れない「安全保障としての産業政策」が、今まさに問われています。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。