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<視点>米軍における新しい戦い方にかかる取組

防衛研究所 グローバル安全保障研究室 主任研究官 1等陸佐 川村 幸城(かわむら こうき)

戦場の霧を克服するためには、前線部隊と司令部が情報を共有し、共通の作戦状況図を見ながら各部隊が相互に連携をとって相乗効果を発揮することが理想とされてきました。そのためにはセンサーとシューター、そして意思決定者の間で継続的に情報を交換し合えるネットワークが必要です。これが実現すれば、指揮官は意思決定上の優位に立つことができ、各部隊は相手の弱点をつく自律的な行動を生み出すことができると考えられてきました。

湾岸戦争以来、米軍では「ネットワーク中心の戦い」という概念のもとで、戦力設計が進められてきました。この根底には衛星やレーダーなど無数のセンサーをつなぎ合わせ、情報インフラが安定的に維持されていれば状況認識能力は自ずと高まるという考えがありました。しかし、レーダーを搭載した情報収集機や地上部隊の戦闘プラットフォームは数十キロから数百キロの広域な戦場を高速移動するため、各端末を結びつける通信はおのずと無線回線が中心となります。そこはネットワークの運用を妨げる脆弱性ともなり得ました。

アフガニスタンやイラクでの戦いは米軍のネットワークを妨害する能力をもたない相手を前提とした戦いでした。それに対し、2010年代になると、潜在的な敵対勢力がキネティック手段や電波妨害、サイバー兵器など多様な手段を使ってネットワークを妨害してくる可能性が現実味を帯びてきます。たとえばシリア内戦に関与した米軍の早期警戒管制機はロシアの電子戦部隊によるジャミングを受けるなど、米軍は危機感を募らせます。相手の妨害や干渉などにより情報通信回線を思うように利用できない状態は作戦の「非許容環境」と呼ばれますが、結局、ネットワーク中心の戦いはそうした環境にうまく適合できないのではないかという懸念が米軍内に広まりました。

そこで登場したのが「意思決定中心の戦い」という概念です。これは分散型の戦力設計に基づいており、あらゆるシステムを単一のネットワークに統合するのではなく、複数のノードから成るモザイク状のネットワークを構成しようとするものです。そこでは攻撃に脆弱な精巧で高品質な情報ノードの代わりに、作戦の非許容環境下でも維持できる低コストのセンサーや消耗を前提とした無人システムから成るキルウェブが重視されます。

またハドソン研究所のブライアン・クラーク(Bryan Clark)とダン・パット(Dan Patt)が述べているように、意思決定中心の戦いでは自軍の意思決定プロセスを加速すると同時に「敵部隊に解決困難な複数のジレンマを突きつけ、その作戦を混乱させ、その結果、敵が時間内に目標に到達できないようにする」ことが目指されます。そこで注目されるのが人間による指揮とAIを搭載したマシンを組み合わせた指揮統制構造です。AIの意思決定支援アルゴリズムは敵が予測できないような行動方針を提示し、現地指揮官が命令をくだす前に、任務を達成するために必要な戦力の組み合わせと戦術を採用する手助けをしてくれます。こうして意思決定の集権化をもたらしたネットワーク中心の戦いとは対照的に、指揮下部隊の自律性と柔軟性を促すことが期待されるようになりました。

このように各アセットを自在に組み合わせることで戦場の変化に対応しようとする意思決定中心の戦いの概念は、軍事作戦に特有の戦場の霧と摩擦を克服するための新しい概念です。それは空・陸・海・宇宙・サイバー空間の各領域間の連携強化を通じて、米統合軍の能力向上を達成しようとする「統合全領域指揮統制」(JADC2)を支える概念であるとも言えます。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。