防衛研究所 アジア・アフリカ研究室 室長 杉浦 康之(すぎうら やすゆき)
ロシアによるウクライナ侵略では、情報戦・心理戦といった認知領域での戦いが注目されましたが、中国はこの認知領域での戦いを通じて、自国の軍事ドクトリンの正しさを確認したと考えられます。中国は現在、指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)、コンピューター(Computer)、情報(Intelligence)、監視(Surveillance)、偵察(Reconnaissance)というC4ISRを重視する「情報化局地戦争」を軍事ドクトリンとして設定しています。そして、次の軍事ドクトリンとして、AI、無人アセット、量子技術などを取り入れた「智能化戦争」を構想しています。智能化戦争では、無人アセットやAIの運用に加え、サイバー空間や認知領域での戦いなどがより重視されています。
中国は伝統的に認知領域での戦いを重視し、「輿論戦」・「心理戦」・「法律戦」という「三戦」を取り入れてきました。中国は、認知領域での戦いを、陸・海・空・宇宙という物理領域、サイバー空間や情報領域と一体化して展開することを想定しているとみられます。中国は火力や機動力という機械化戦力、C4ISRやサイバー攻撃などの情報化戦力、無人アセットやAIを中心とする智能化戦力を掛け合わせ、物理領域・情報領域での相手を破壊・麻痺させたうえで、虚実を織り交ぜた情報をメディアやSNSなどの多様な媒体を通じて積極的に展開し、その成果を最大化することにより認知領域において優越を獲得することを企図していると考えられます。
こうした中国の方針は、2025年9月の軍事パレードでも確認できます。中国は、(1)事前説明会の実施、(2)リハーサルにおける一部の兵器の公開、(3)演習当日における官製メディアによる詳細な解説など、軍事パレードで積極的な輿論戦を展開していました。そして、軍事パレードでは、(1)新型のICBMをはじめとする核戦力、(2)対艦ミサイル、極超音速ミサイル、巡航ミサイルなどの長距離精密打撃能力、(3)有人機と連携して行動可能な「ロイヤル・ウイングマン」と呼ばれる機体を含む多くの無人アセットを登場させ、これらの能力を誇示しました。またC4ISRの構築と防御を担当するとみられる情報支援部隊、サイバー攻撃を実施するとみられるサイバー空間部隊、宇宙アセットの一元管理を担うとみられる軍事宇宙部隊の兵器も披露されました。
このように、中国は現在保持している戦力を積極的に誇示し、米国や台湾に対して武力衝突におけるコストの高さを理解させることで「戦わずに勝つ」ことを企図しているとみられます。しかし、中国の目的が認知領域における優越の獲得であることを考慮すれば、中国側の説明を鵜呑みにすることなく、これらの兵器が本当に戦力化されているのか、慎重に分析する必要があります。
(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。