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<視点>台湾をめぐる中国の軍事動向

防衛研究所 中国研究室 主任研究官 杉浦 康之(すぎうら やすゆき)

近年、中国軍は作戦機や艦艇による台湾周辺での軍事活動を活発化させています。令和7年もそうした傾向に変化はなく、むしろその動きが強化される傾向が見られました。特に中国軍が4月に「海峡雷霆2025A」、12月末に「正義使命2025」と称する大規模演習を実施したことは国際社会で大きな反響を呼びました。

中国軍の台湾周辺での軍事活動の特徴としては、台湾有事を念頭に置いた実戦的な訓練を実施するという「実戦化」、訓練内容を虚実織り交ぜる形で積極的に情報発信するという「宣伝化」、大規模演習の実施以外にも継続的に台湾周辺での様々な軍事活動を展開し続けるという「常態化」の三点が指摘できます。

実戦化という観点では、①台湾の主要都市・港湾への精密誘導攻撃を想定した統合作戦訓練、②台湾への海・空域での統合封鎖作戦訓練、③軍と連動した中国海警局による法執行訓練、④台湾の要人や重要目標を標的とした「斬首作戦」のシミュレーション訓練の実施、などが注目される点です。特に中国軍は、②において徐々に演習地点を増やし、封鎖体制の強化を目指しています(下図)。中国は台湾有事を念頭に置いて様々な能力の強化を図っています。

(図)中国軍の台湾周辺での軍事演習地点の比較(筆者作成)

(図)中国軍の台湾周辺での軍事演習地点の比較(筆者作成)

宣伝化という観点では、①中国の軍の公式発表や官製メディアを通じた映像の配信、②中国軍研究機関に所属する研究者による演習の内容・目的に関する解説や演習実施の合法性の主張、③中国国防部報道官による頼清徳政権への批判が注目されました。①に関しては、東部戦区が公表したビデオには、J20ステルス戦闘機が台湾南部の空軍基地に接近したかに見える映像や無人機が台北にある台北101ビルに接近したかのような映像が含まれていました。台湾側はこうした事実はなく、これらは台湾側を威嚇する「認知戦」だと反論しています。中国側は虚実を織り交ぜた形で積極的な情報発信を行うことで、台湾や国際社会への圧力を形成し、台湾内の分断を図ろうとしています。

常態化という点では、①大規模演習以外に中国側が継続的且つ日常的に実施している作戦機と艦艇による台湾周辺での軍事活動、②4月の演習時における中国軍の研究者による常態化の主張、などが注目される点です。中国は台湾側の対中発言や米台関係の動きに合わせて、こうした常態化させている軍事活動の烈度を調整して即座に大規模演習を実施しています。4月の「海峡雷霆2025A」は頼清徳総統の中国を「境外敵対勢力」と発言したことを、12月の「正義使命2025」は米国による台湾への兵器輸出を、それぞれの演習実施の口実の一つにしています。

このような中国軍の台湾周辺での軍事活動の目的としては、次の点が考えられます。第一の目的は、蔡英文政権よりも台湾独立色が濃いとされている頼清徳政権を強く批判することです。第二の目的は、台湾との安全保障関係を強化している米国への牽制です。第三の目的は、軍事行動による強硬路線と中台経済関係の促進を中心とする穏健路線を併用することで、台湾社会の分断を促進し、頼清徳政権を孤立させることです。

このような中国軍による台湾への軍事的圧力の強化は、力または威圧による一方的な現状変更の試みを意味するものであり、インド太平洋地域の安全保障環境の不安定化に繋がるものだと懸念されています。そのため、わが国としてこうした中国軍の動向を引き続き注視していく必要があります。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。