国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、既存の秩序は深刻な挑戦を受け、新たな危機の時代に突入していると認識しており、わが国を取り巻く安全保障環境も戦後最も厳しく複雑なものとなっています。
中国は軍事力を急速に増強するとともに、尖閣諸島周辺を含む東シナ海や太平洋などでの活動を活発化させています。北朝鮮は核・ミサイル開発を進展させ、弾道ミサイルなどの発射を強行しています。また、ロシアはウクライナ侵略を継続させるなかで、北方領土を含む極東地域での活発な軍事活動を継続させており、さらには中国と共同での航空機や艦艇の活動も確認されています。
このように、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のなかで、防衛省・自衛隊は、国民の命と平和な暮らし、そして、わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜くため、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画に基づき、施策を推進していく考えです。
まず、防衛力の抜本的強化の着実な実現です。スタンド・オフ防衛能力や統合防空ミサイル防衛能力といった将来の中核となる能力の強化に優先的に取り組む必要があり、トマホークや地上発射型の12式地対艦誘導弾能力向上型といった各種スタンド・オフ・ミサイルの取得を前倒しすることとしています。イージス・システム搭載艦についても、高度化する弾道ミサイルなどの脅威からわが国を防護するため、早急に建造に着手する予定です。また、持続性・強靱性の強化も重要な課題であり、装備品の可動数向上や弾薬・誘導弾の十分な確保、防衛施設の強靱化への集中投資を進めてまいります。
次に、同盟国・同志国などとの連携です。今や、どの国も一国では自国の安全を守ることはできません。既存の国際秩序への挑戦が続くなか、わが国は普遍的価値と戦略的利益などを共有する同盟国・同志国などと協力・連携を深めていくことが不可欠になっています。
米国との同盟関係は、わが国の安全保障政策の基軸であり、日米同盟の抑止力・対処力の強化に向けた具体的な取組を着実に進めてまいります。
同時に、地域の平和と安定のためには、同志国などとの連携を強化することが重要であり、自由で開かれたインド太平洋の実現に資する取組を進めてまいります。そのために、地域の特性や各国の事情を考慮したうえで、共同訓練や防衛装備・技術協力をはじめとする多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進します。特に、次期戦闘機の共同開発は、防衛力の中核である戦闘機の能力を強化し、今後数十年にわたる世界の安全、安定および繁栄の礎となるものです。
さらに、昨年12月に運用を開始した日米韓3か国での北朝鮮のミサイル警戒データのリアルタイム共有や、日米共同の指揮所演習である「キーン・エッジ」や「ヤマサクラ」への豪軍の初参加など、日米を基軸とした多国間協力も進展しており、今後もさらに進めてまいります。
人的基盤の強化も待ったなしの課題です。わが国が深刻な人手不足社会を迎えるなか、人材獲得競争はより熾烈なものとなっております。防衛力の中核は自衛隊員であり、厳しい募集環境の中でも優秀な人材をしっかりと確保していくため、募集能力の強化、人材の有効活用、生活・勤務環境、給与面の処遇の向上などといった各種施策を含め、あらゆる選択肢を排除せず、人的基盤の強化に取り組んでいきます。
また、人の組織である防衛省・自衛隊において、自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがすハラスメントは決してあってはならないものであり、実効性のあるハラスメント防止対策を通じて、ハラスメントを一切許容しない環境を構築してまいります。
令和6年版防衛白書は、以上のようなわが国を取り巻く安全保障環境や防衛省・自衛隊の取組を記述しており、特に、防衛力の抜本的強化の進捗、すなわち、わが国の防衛力、抑止力が順調に強化されている様について、丁寧に説明するよう努めました。また、令和6年は、自衛隊が発足70年を迎えるとともに、令和6年版防衛白書は、初版から数えて刊行50回目の節目となるものであり、自衛隊の70年の歩みを振り返る特集も巻頭に設けています。
防衛力の抜本的強化を含む防衛省・自衛隊の取組は、国民一人一人の、そして諸外国の理解と支持があって初めて成り立つものです。この白書が、わが国が置かれた環境や防衛省・自衛隊の取組について、より多くの皆さまの一層のご理解を賜るための一助となることを願っております。