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<解説>わが国周辺における核・ミサイル戦力の増強

わが国周辺には、核兵器を含む大規模な軍事力を有する国や地域が複数存在しています。

中国は、抑止力の確保や通常戦力の補完といった観点から、核戦力の近代化・多様化・拡大を目指しており、陸・海・空の核運搬手段に投資してその数を増やすとともに、核弾頭を増産しています。北朝鮮は体制を維持するため、独自の核抑止力を構築して核兵器を含む米国の脅威に対抗すべく、核開発を推進してきています。さらに、朝鮮半島で生じうる米韓両軍との武力紛争への対処を念頭に置いた戦術核兵器の開発も追求していく姿勢を示しています。ロシアは、国際的地位の確保と米国との核戦力のバランスをとる必要があることに加え、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視しています。わが国周辺でも、例えば、通常弾頭または非戦略核弾頭を搭載可能とされる海上発射型巡航ミサイル・システム「カリブル」搭載艦艇の極東への配備が進められています。

このように、わが国周辺において核戦力の増強が進む中で、核兵器の運搬手段となりうるミサイル戦力が、質・量ともに著しく増強されており、わが国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっています。

例えば、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)や潜水艦といった様々なプラットフォームからミサイルを発射することなどにより発射の秘匿性や即時性を向上させているほか、精密打撃能力も向上させています。さらに、大気圏内を極超音速(マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し目標へ到達するとされる極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)や、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic Cruise Missile)といった極超音速兵器のほか、低空を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルなどの開発・配備も進んでいます。

HGVの軌道イメージ

HGVの軌道イメージ

中国は、HGVを搭載可能な準中距離弾道ミサイルとされるDF-17の運用を2020年に開始し、一部の古い短距離弾道ミサイルがDF-17に置き換えられる可能性が指摘されているほか、2021年には、ICBM(Intercontinental Ballistic Missile)を利用して、長距離を飛翔させるHGVの発射実験を実施したとも指摘されています。北朝鮮は、低空を変則軌道で飛翔する弾道ミサイルの発射を繰り返し、その実用化を追求するほか、「極超音速滑空飛行弾頭」の開発を優先目標の一つに挙げ、「極超音速ミサイル」と称するミサイルの発射も行っています。ロシアについても、ウクライナ侵略に用いられ、極東にも配備されているとみられる短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が、低空を変則軌道で飛翔可能とされているほか、HGV「アヴァンガルド」やHCM「ツィルコン」の配備を進めています。また、「アヴァンガルド」を搭載可能とされる新型ICBM「サルマト」を2024年内に配備する旨発表しています。

こういった極超音速兵器や低空を変則軌道で飛翔する弾道ミサイルは、通常の弾道ミサイルよりも低い高度で飛翔することからレーダーによる探知が遅くなるほか、機動により軌道予測や着弾位置の予想が難しく、迎撃がより困難になるとされており、ミサイル防衛網の突破を企図して、開発・配備が進められているものと考えられます。

このような情勢のもと、防衛省はミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していくこととしていますが、ミサイル防衛という手段だけに依拠し続けた場合、今後、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつあります。このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、他に手段がないと認められる場合におけるやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、反撃能力により相手からのさらなる武力攻撃を防ぐこととしています。