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第IV部 共通基盤などの強化

第4節 衛生機能の変革

防衛戦略においては、これまで自衛隊員の壮健性の維持を重視してきた自衛隊衛生は、持続性・強靱性の観点から、有事において危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救う組織に変革することとしている。

加えて、自衛隊の任務が多様化・国際化する中で、災害派遣や国際平和協力活動における衛生支援や医療分野における能力構築支援など様々な衛生活動のニーズに的確に応えていくことが重要である。

このため、防衛省・自衛隊としては、各種事態への対処や国内外における多様な任務を適切に遂行できるよう衛生に関する機能の充実・強化を図っている。

1 シームレスな医療・後送態勢の確立

第一線で負傷した隊員の救命率を向上させるため、応急的な措置を講じる第一線救護、後送間救護、後送先となる病院それぞれの機能を強化していく必要がある。

参照図表IV-2-4-1(シームレスな医療・後送態勢のイメージ)

図表IV-2-4-1 シームレスな医療・後送態勢のイメージ

1 各種事態における衛生機能の強化

第一線において負傷した隊員に対しては、「第一線救護衛生員1」が救急救命処置を行うとともに、野外手術システム2などを備えた医療拠点において、ダメージコントロール手術(DCS:Damage Control Surgery)3を行う。さらに最終後送先である自衛隊病院などに安全かつ迅速に後送し、根治治療を行うこととしている。

このため、陸自・海自においては准看護師かつ救急救命士の免許を有する隊員が、任務遂行中に負傷した隊員に対し、負傷した現場付近において緊急救命行為4を実施できるようにするため、教育・訓練を実施し、第一線救護衛生員としての指定・部隊配置を進めてきた。2022年度は新たに空自での養成が開始され、さらなる第一線救護能力の向上に取り組んでいる。

また、艦艇又は航空機上での戦傷医療など、各自衛隊の部隊や装備の特性に応じた教育訓練の充実を図るとともに、航空医療搬送訓練装置の整備、救急処置能力向上教材の整備などを推進している。また、戦傷医療教育に必要な各自衛隊共通の衛生訓練基盤の整備を推進することとしている。

これらに加え、新たに自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築についても取り組んでいく。戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創などによる失血死であり、これを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要である。このため、まずは、令和5(2023)年度予算において、関連する機材などを自衛隊中央病院に設置し、必要な検討を進めていく予定である。

2 自衛隊病院の機能強化・医療拠点の整備

自衛隊病院には、各種事態において、活動地域から後送された隊員などを収容・治療する病院としての役割がある。また、平素においては、隊員やその家族などの診療を行う病院としての役割を果たしている。このほか、医療従事者の技量の維持・向上及び養成のための教育機関としての役割も有している。

南西地域においては、多数の離島を抱える地理的特性から、医療拠点である那覇病院などの機能強化が必要である。

沖縄における医療拠点の開設・運営に関する訓練

沖縄における医療拠点の開設・運営に関する訓練

1 准看護師(保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第6条に規定する准看護師をいう。)の免許を有し、かつ、救急救命士(救急救命士法(平成3年法律第36号)第2条第2項に規定する救急救命士をいう。)の免許を有する隊員のうち、緊急救命行為に関する訓令(平成28年防衛省訓令第60号)第4条に規定する協議会が認定した訓練課程を修了した者をいう。

2 手術に必要な4機能をシェルター化し、大型トラックに搭載(手術車、手術準備車、滅菌車、補給車)した動く手術室。開胸、開腹、開頭術など救命のための手術が可能

3 損傷した内臓に対するガーゼ圧迫留置、縫合などによる止血と腸管内容物による汚染を防止するための応急的な手術であり、患者の状態を後送に耐え得るレベルまで安定化させることを目的としている。

4 負傷により気道閉塞や緊張性気胸の症状などとなった者に対する救護処置や、痛みを緩和するための鎮痛剤の投与などの処置