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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

2 ミサイル攻撃などへの対応

1 わが国の統合防空ミサイル防衛能力
(1) 基本的考え方

四面環海の日本は、経空脅威への対応が極めて重要である。近年、多弾頭・機動弾頭を搭載する弾道ミサイル、高速化・長射程化した巡航ミサイル、有人・無人航空機のステルス化・マルチロール化といった能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)などの出現により、経空脅威は多様化・複雑化・高度化している。

このため、探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化するとともに、ネットワークを通じて各種センサー・シューターを一元的かつ最適に運用できる体制を確立し、統合防空ミサイル防衛能力を強化することとしている。

相手からのわが国に対するミサイル攻撃については、まず、ミサイル防衛システムを用いて、公海及びわが国の領域の上空で、わが国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。そのうえで、弾道ミサイルなどの攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力として、スタンド・オフ防衛能力などを活用する。

こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、相手のミサイル発射を制約し、ミサイル防衛による迎撃を行いやすくすることで、ミサイル防衛とあいまってミサイル攻撃そのものを抑止していく。

参照図表III-1-4-3(統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)のイメージ図)、II部3章2節4項(「解説」反撃能力)

図表III-1-4-3 統合防空ミサイル防衛(迎撃部分)のイメージ図

(2) 防衛省・自衛隊の対応

北朝鮮は、2016年以降、3回の核実験を強行するとともに、特に2022年に入ってからは、かつてない高い頻度で、かつ新たな態様での弾道ミサイルなどの発射を繰り返しており、その軍事的行動はわが国の安全に対する、従前より一層重大かつ差し迫った脅威となっている。

弾道ミサイルに対し、現状においては、わが国全域を防護するためのイージス艦及び拠点防護のため全国各地に分散して配備されているペトリオット(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)5を、状況に応じて機動・展開して対応している。2023年4月22日、完成した「軍事偵察衛星」発射の最終準備を早期に終えるといった北朝鮮の発表などを踏まえ、防衛大臣は「弾道ミサイル等に対する破壊措置の準備に関する自衛隊一般命令」を発出した。これを受け、防衛省・自衛隊は、PAC-3の沖縄県石垣島、宮古島及び与那国島への展開や、イージス艦の展開などのための所要の準備を実施した。

同年5月29日、「衛星」発射のためとする北朝鮮からの事前通報を受け、同日、防衛大臣は、不測の事態に備え、所要の態勢をとるべく、「弾道ミサイル等に対する破壊措置の実施に関する自衛隊行動命令」を発出した。同月31日の発射に際し、防衛省から政府内及び関係機関に対して速やかに情報共有を行うとともに、関連情報の収集と分析を実施した。防衛省としては、米国、韓国などと緊密に連携しつつ、国民の生命・財産を守り抜くため、引き続き、情報の収集・分析及び警戒監視に全力を挙げていく。

わが国に武力攻撃として弾道ミサイルが飛来する場合には、武力攻撃事態における防衛出動により対処する一方、武力攻撃事態が認定されていないときには、弾道ミサイルなどに対する破壊措置により対処することとなる6

わが国の弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)は、イージス艦による上層での迎撃とPAC-3による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE:Japan Aerospace Defense Ground Environment)7により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。

弾道ミサイルへの対処にあたっては、航空総隊司令官を指揮官とする「BMD統合任務部隊」を組織し、JADGEなどを通じた一元的な指揮のもと、効果的に対処する。

防衛省・自衛隊としては、引き続き、北朝鮮が大量破壊兵器・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていくとともに、米国などと緊密に連携しつつ、必要な情報の収集・分析及び警戒監視などを実施している。

また、BMDシステムを効率的・効果的に運用するためには、在日米軍をはじめとする米国との協力が必要不可欠である。このため、これまでの日米安全保障協議委員会(「2+2」)において、BMD運用情報及び関連情報の常時リアルタイムでの共有をはじめとする関連措置や協力の拡大について決定してきた。

さらに、わが国は従来から、弾道ミサイルの対処にあたり、早期警戒情報(SEW:Shared Early Warning)8を米軍から受領するとともに、米軍がわが国に配備しているBMD用移動式レーダー(TPY-2レーダー)やイージス艦などを用いて収集した情報について情報共有を行うなど、緊密に協力している。

参照図表III-1-4-4(BMD整備構想・運用構想(イメージ図))

図表III-1-4-4 BMD整備構想・運用構想(イメージ図)

動画アイコンQRコード資料:ミサイル防衛について
URL:https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/bmd/index.html

動画アイコンQRコード動画:弾道ミサイル防衛(BMD)への対応(空自:高射)
URL:https://youtu.be/coZf5SbfC-M

(3) 統合防空ミサイル防衛能力強化のための取組

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、2004年からBMDシステムの整備を開始するとともに、2005年7月には、自衛隊法の改正を行った。これまでに、イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やPAC-3の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の体制整備を着実に進めている。

より高性能化・多様化する将来の弾道ミサイルの脅威に対処するため、イージス艦に搭載するSM(Standard Missile)-3ブロックIAの後継となるBMD用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)を日米共同で開発し、2017年度以降取得している。SM-3ブロックIIAは、SM-3ブロックIAと比較して、迎撃可能高度や防護範囲が拡大するとともに、撃破能力が向上し、さらに同時対処能力についても向上している。

また、「おとり」などの迎撃回避手段を備えた弾道ミサイルや通常の軌道よりも高い軌道(ロフテッド軌道)9をとることにより迎撃を回避することを意図して発射された弾道ミサイルなどに対しても、迎撃能力が向上している。2022年11月には、イージス艦「まや」が、海自艦艇として初めてSM-3ブロックIIAの発射試験を実施し、標的の迎撃に成功した。

イージス艦「まや」によるSM-3ブロックIIA発射試験(2022年11月)

イージス艦「まや」によるSM-3ブロックIIA発射試験(2022年11月)

さらに、2020年12月、厳しさを増すわが国を取り巻く安全保障環境により柔軟かつ効果的に対応していくための、あるべき方策の一環として、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)に替えて、イージス・システム搭載艦2隻を整備することを閣議決定した。同艦は海自が保持することとし、対艦弾道ミサイルなどに対処能力を有するSM-6のほか、12式地対艦誘導弾能力向上型などの長射程の誘導弾による高い防護能力と、既存イージス艦と同等の各種作戦能力・機動力を保持していく。また、米国が開発中の対HGV新型迎撃ミサイルを含む将来装備を運用できる拡張性などを考慮するほか、耐洋性、居住性なども向上するとしている。

PAC-3についても、能力向上型であるPAC-3MSE(Missile Segment Enhancement)の整備を進めており、2019年度末以降順次配備が開始された。PAC-3MSEの導入により、迎撃高度は十数キロから数十キロへと延伸することとなり、従来のPAC-3と比べ、おおむね2倍以上に防護範囲(面積)が拡大する。

一方、HGVの出現など多様化・複雑化・高度化の一途をたどる経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限するためには、ミサイル防衛にかかる各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品もあわせ、一体的に運用する体制を確立し、わが国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威に同時対処できる統合防空ミサイル防衛能力を強化していく必要がある。この際、各自衛隊が保有する迎撃手段について、整備・補給体系も含めて共通化、合理化を図っていくこととしている。

このため、HGVなどの探知・追尾能力を強化するべく、固定式警戒管制レーダー(FPS)などの整備及び能力向上、次期警戒管制レーダーへの換装・整備を図る。また、地対空誘導弾ペトリオット・システムを改修し、新型レーダー(LTAMDS(エルタムズ):Lower Tier Air Missile Defense Sensor)10を導入することで、PAC-3MSEによるHGVなどへの対処能力を向上させる。また、03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上型の開発をするとともに、極超音速で、高高度領域を高い機動性を有しながら飛しょうするHGVの脅威に対処するため、HGV対処用誘導弾システムの研究を行っていく。

このように、防護体制を強化させるための所要の措置を講じているところであり、引き続き、取組を進めていく。

参照資料18(わが国のBMD整備への取組の変遷)、図表III-1-4-5(弾道ミサイル対処能力向上のための主な取組)

図表III-1-4-5 弾道ミサイル対処能力向上のための主な取組

2 米国のミサイル防衛と日米BMD技術協力
(1) 米国のミサイル防衛

米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の①ブースト段階、②ミッドコース段階、③ターミナル段階の各段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に配備されている11

(2) 日米BMD技術協力など

1999年度から海上配備型上層システムの日米共同技術研究に着手し、2006年度からBMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発12を開始し、SM-3ブロックIIAとして配備に至っている。加えて、2022年1月の日米「2+2」において、極超音速技術に対抗するための将来の協力に焦点を当てた共同分析を実施することで合意した。また、2023年1月の日米「2+2」においては、この共同分析の進展を踏まえ、先進素材及び極超音速環境での試験を含む重要な要素に関する共同研究を開始することで一致するとともに、将来のインターセプターの共同開発の可能性について議論を開始することに合意した。

5 ペトリオットPAC-3は、経空脅威に対処するための防空システムの一つであり、主として航空機などを迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするシステム

6 北朝鮮は2023年5月31日、衛星打ち上げを試みて発射を行ったが、わが国に飛来するおそれがないと判断されたことから、自衛隊法第82条の3に基づく弾道ミサイル等破壊措置は実施しなかった。

7 自動警戒管制システムは、全国各地のレーダーが捉えた航空機などの情報を一元的に処理し、対領空侵犯措置や防空戦闘に必要な指示を戦闘機などに提供するほか、弾道ミサイル対処においてペトリオットやレーダーなどを統制し、指揮統制及び通信機能の中核となるシステム

8 わが国の方向へ発射される弾道ミサイルなどに関する発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などのデータを、発射直後、短時間のうちに米軍が解析して自衛隊に伝達する情報(1996年4月から受領開始)

9 ミニマムエナジー軌道(効率的に飛翔し、射程を最も大きくする軌道)より高い軌道をとることにより、最大射程よりも短い射程となるが、落下速度が速くなる軌道

10 ペトリオット・システム用の新型レーダー(LTAMDS(エルタムズ))は、極超音速滑空兵器(HGV)などの将来脅威対処のために開発された低層防空用射撃管制レーダー

11 具体的には、2006年、米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が、同年10月には沖縄県にペトリオットPAC-3が、2007年10月には青森県に統合戦術地上ステーション(JTAGS)が配備された。加えて、2014年12月には、米軍経ヶ岬通信所に2基目のTPY-2レーダーが配備された。2018年10月には、第38防空砲兵旅団司令部が相模原に配置された。また、2015年10月、2016年3月及び2018年5月には、米軍BMD能力搭載イージス艦が横須賀海軍施設(神奈川県横須賀市)に配備された。

12 これらの日米共同開発に関しては、わが国から米国に対して、BMDにかかわる武器を輸出する必要性が生じる。これについて、2004年12月の内閣官房長官談話において、BMDシステムに関する案件は、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則などによらないとされた。このような経緯を踏まえ、SM-3ブロックIIAの第三国移転は、一定の条件のもと、事前同意を付与できるとわが国として判断し、2011年6月の日米「2+2」の共同発表においてその旨を発表した。なお、2014年4月、防衛装備移転三原則(移転三原則)が閣議決定されたが、この決定以前の例外化措置については、引き続き移転三原則のもとで海外移転を認め得るものと整理されている。