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第II部 わが国の安全保障・防衛政策

3 自衛隊の能力などに関する主要事業

2027年度までに、わが国への侵攻に対し、わが国が主たる責任をもって対処し、同盟国などの支援を受けつつ、これを阻止・排除できる防衛力を構築するため、7つの主要事業を実施することとし、その主たる内容は以下のとおりである。

1 スタンド・オフ防衛能力

わが国に侵攻する艦艇などに対して脅威圏外から対処する能力を強化するため、2027年度までに、防衛産業による国内製造態勢の拡充などの後押しや、研究開発・量産の前倒しといった工夫を行いつつ、実践的な運用能力を獲得する。おおむね10年後までにより長射程化され、効果的な飛しょう形態をとるスタンド・オフ・ミサイルを必要かつ十分な数量を保有する。

また、スタンド・オフ防衛能力の実効性確保のため、衛星コンステレーションの活用や、無人機(UAV)、目標観測弾の整備等により情報収集・分析機能及び指揮統制機能を強化する。スタンド・オフ・ミサイルの運用は、目標情報の収集、各部隊への目標の割当てを含む一連の指揮統制を一元的に行う必要があるため、統合運用を前提とした態勢を構築する。

2 統合防空ミサイル防衛能力

2027年度までに、イージス・システム搭載艦を整備するほか、地対空誘導弾ペトリオット・システムの改修及び新型レーダー(LTAMDS)の導入などの既存アセットの能力向上により極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)などへの対処能力を強化しつつ、小型無人機に対処する能力などを構築する。おおむね10年後までに、滑空段階で極超音速滑空兵器(HGV)などに対処するシューターなどにより対処能力を一層強化するとともに、ノンキネティックな迎撃手段の本格導入により小型無人機などに対する対処能力を獲得する。また、各種アセットをネットワークで連接し、効率的な戦闘を実現する。

そのうえで、弾道ミサイルなどの攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力(反撃能力)として、スタンド・オフ防衛能力などを活用する。

3 無人アセット防衛能力

人的損耗を局限しつつ任務を遂行するため、2027年度までに、国内外の既存の無人機(UAV)・無人車両(UGV)などの無人アセット(装備品)をリースなどにより早期に取得し、運用実証を経て、既存の装備体系・人員配置を見直しつつ、無人装備品の実践的な運用能力を強化する。おおむね10年後までに、無人アセットを用いた戦い方を更に具体化し、わが国の地理的特性などを踏まえた機種の開発・導入を加速し、本格運用を拡大する。また、AIなどを用いて複数の無人アセットを同時制御する能力などを整備する。

4 領域横断作戦能力

宇宙領域においては、2027年度までに、スタンド・オフ・ミサイルの運用をはじめとする領域横断作戦能力を向上させるため、衛星コンステレーションの構築など、宇宙領域を活用した情報収集、通信などの各種能力を一層向上させる。また、宇宙領域の安定的利用に対する脅威が増大することを踏まえ、相手方の指揮統制・情報通信などを妨げる能力を更に強化する。加えて、平素からの宇宙領域把握(SDA)に関する能力を強化する。おおむね10年後までに、宇宙利用の多層化・冗長化や新たな能力の獲得などにより、宇宙作戦能力をさらに強化する。

サイバー領域においては、2027年度までに、サイバー攻撃を受けている状況下においても、指揮統制能力及び優先度の高い装備品システムを保全できる態勢を確立し、また防衛産業のサイバー防衛を支援できる態勢を確立する。おおむね10年後までに、サイバー攻撃を受けている状況下においても、指揮統制能力及び戦力発揮能力を保全し、自衛隊の任務遂行を保証できる態勢を確立しつつ、自衛隊以外へのサイバーセキュリティを支援できる態勢を強化する。また、わが国へのサイバー攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方のサイバー空間の利用を妨げる能力の構築にかかる取組を強化する。これらの取組を行う組織全体としての能力を強化するため、2027年度を目途に、自衛隊サイバー防衛隊などのサイバー関連部隊を約4,000人に拡充し、さらに、システム調達や維持運営などのサイバー関連業務に従事する隊員に対する教育を実施する。これにより、2027年度を目途に、サイバー関連部隊の要員と合わせて防衛省・自衛隊のサイバー要員を約2万人体制とし、将来的には、更なる体制拡充を目指す。

電磁波領域においては、2027年度までに、既に着手している取得・能力向上事業などを加速し、相手方の指揮統制機能の低下に繋がる通信・レーダー妨害機能を強化する。また、小型無人機などに対処する指向性エネルギー技術の早期装備化を図る。おおむね10年後までに、優れた電子戦能力を有するアセットを着実に整備するとともに、指向性エネルギーによる無人機対処能力を強化する。

陸海空領域においては、2027年度までに、既に着手している取得・能力向上事業などを加速し、領域横断作戦の基本となる陸海空領域の能力を着実に強化する。おおむね10年後までに、先進的な技術を積極的に活用し、陸海空のアセットを着実に整備するとともに、無人機と連携する高度な運用能力を強化する。

5 指揮統制・情報関連機能

2027年度までに、ハイブリッド戦や認知領域を含む情報戦に対処可能な情報能力を整備する。おおむね10年後までに、AIを含む各種手段を最大限に活用し、情報収集・分析などの能力を更に向上させる。また、情報収集アセットの更なる強化を通じ、リアルタイムで情報共有可能な体制を確立する。指揮統制機能の強化として、抗たん性のある通信、システム・ネットワーク及びデータ基盤を構築し、スタンド・オフ防衛能力及び統合防空ミサイル防衛能力をはじめとする各種能力を統合的に運用するため、リアルタイムに指揮統制を行う態勢を概成する。また、各自衛隊の一元的な指揮を可能とする指揮統制能力に関する検討を進め、必要な措置を講じる。

6 機動展開能力・国民保護

2027年度までに、島嶼部への侵攻阻止に必要な部隊等を南西地域に迅速かつ確実に輸送するため、自衛隊の輸送アセットの取得を推進する。また、海上輸送力を補完するため、民間資金等活用事業(PFI)船舶を確保する。さらに、南西地域への輸送における自己完結性を高めるため、輸送車両(コンテナトレーラー)及び荷役器材(大型クレーン、大型フォークリフトなど)を取得する。おおむね10年後までに、輸送能力を更に強化しつつ、港湾規模に制約のある島嶼部への輸送の効率性を高めるため、揚陸支援システムの研究開発を進め、さらに、補給拠点の改善により輸送・補給の一層の迅速化を図る。

また、機動展開や国民保護の実効性を高めるために、空港・港湾などの整備・強化に取り組むとともに、自衛隊の各種アセットも利用した国民保護措置のための調整・協力や、国民保護にも対応できる自衛隊の部隊の強化などを推進する。

7 持続性・強靱性

2027年度までに、必要な各種弾薬・燃料について、早期に整備するとともに、弾薬を保管するための火薬庫の増設を促進する。加えて、早期かつ安定的に弾薬を量産するために、防衛産業による国内製造態勢の拡充などを後押しする。おおむね10年後までに、新規装備品分も含め、弾薬の適正在庫確保を維持するとともに、保有予定の弾薬を全て格納するための火薬庫の増設を完了させる。

防衛装備品の高度化・複雑化に対応しつつ、リードタイムを考慮した部品費と修理費の確保により、部品不足による非可動を解消し、2027年度までに装備品の可動数を最大化する。おおむね10年後までに新規装備品分も含め、部品の適正在庫の確保を維持する。

主要な装備品、司令部などを防護し、粘り強く戦う態勢を確保するため、2027年度までに、南西における特に重要な司令部の地下化、主要な駐屯地・基地内の再配置・集約化を進め、各施設の強靱化を図る。また、保管に必要な火薬庫などを確保する。災害の被害想定が甚大かつ運用上重要な基地・駐屯地から津波などの災害対策を推進する。おおむね10年後までに、防衛施設の更なる強靱化に加え、保有予定の弾薬を全て格納するための火薬庫の増設を完了する。

参照図表II-4-1-1(防衛力の抜本的強化に当たって重視する7つの分野の主要事業)

図表II-4-1-1 防衛力の抜本的強化に当たって重視する7つの分野の主要事業