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<VOICE>初めての国産完成装備品海外移転「フィリピン向け防空レーダー」

防衛装備庁長官官房装備官(航空担当)
空将 後藤 雅人(ごとう まさひと)

2014年に「防衛装備移転三原則」が策定された後、2015年に防衛装備庁が創設され、2020年8月にフィリピン向け防空レーダーに係る契約が国産完成装備品の海外移転として初めて成立しました。同レーダーは、航空自衛隊J/FPS-3及び陸上自衛隊JTPS-P14を基にフィリピン空軍の要求を満足するように再設計・製造されるものです。フィリピンとは閣僚級を含むハイレベル交流から各自衛隊のスタッフトークス、共同訓練、能力構築支援等の防衛協力・交流に加え、装備分野では海上自衛隊TC-90本機や陸上自衛隊UH-1H補用部品の譲渡が既に行われていましたが、本完成品の移転は安全保障分野のみならず二国間関係をより深化させるものであります。更に、フィリピンの防空能力向上はもとより、同国周辺地域の安全保障に寄与できればよいと考えております。

本移転成功の教訓は何かと問われれば、現地大使館(特に両国の防衛駐在官及び武官)や企業を含めた「人」だと思います。先方のニーズを真摯に聞き、魅力ある提案を次々と熱意をもって提案することによって、私はフィリピン国防省装備担当次官・局長、空軍司令官及び各部長と、装備庁及び企業の担当者は選定チーム長との信頼関係(人脈)をしっかり構築しました。まさしく「モノを売るよりも先ずは人を売れ」です。加えて、当時の航空幕僚長と空軍司令官との人間関係も非常に大きかったと思います。

契約が成立したことが終わりではなく、しっかりとレーダーが納入、現地サイトに建設され、維持運用され続けることが本当の意味での移転です。引き続き、関係者全員がOne Teamで取り組んでいきたいと思います。また、第2、第3の移転成功へと!

フィリピン空軍基地で儀仗を受ける筆者(向かって右)

フィリピン空軍基地で儀仗を受ける筆者(向かって右)

三菱電機株式会社
防衛グローバル営業部 加藤 淳(かとう あつし)

私は営業担当として、本件の提案活動に従事して参りました。このレーダーは、空域における航空機等の位置・速度の把握や管制を目的としたレーダーです。フィリピン空軍の要求に基づき当社の自衛隊向けレーダーの製造経験を踏まえ、今回海外向けに製造するものであり、フィリピンの防空態勢の構築及び地域の平和と安定の確保においても重要な装備品となります。それ迄海外での実績のない日本企業にとって、経験豊富な欧米メーカーとの厳しい争いでしたが、営業・技術が一体となって、何度もエンドユーザーであるフィリピン空軍のニーズをヒアリングし、提案・交渉を重ねて参りました。フィリピンの調達制度やプロセスも、当初は何もわからず、全てが手探りからのスタートであり、様々なことが想定通りに進まず苦労しましたが、地道に一つ一つを丁寧に調べ、真摯に対応を繰り返していくことで、日本初の完成品装備移転となる受注を達成することが出来ました。

本レーダーが、日本とフィリピンとの友好関係の発展に寄与し、安全・安心な地域社会の構築に貢献できることを切に願っております。

来日したフィリピン軍メンバーと(筆者左)(2019年12月)

来日したフィリピン軍メンバーと(筆者左)(2019年12月)

フィリピン大使館 国防武官
グリーン アルバート C. ラガーディア大佐

フィリピン空軍の防衛力整備計画における警戒管制レーダー取得事業に関し、三菱電機(株)との間で成功裏に交渉が行われたことは、防衛分野におけるフィリピンと日本の関係の歴史的なマイルストーンです。本件はフィリピンにとって、初の日本製防衛装備品の調達であると同時に、日本にとっても、外国に対する初の新造完成装備品の移転であることから、両国にとって初めての事業と言えます。本警戒管制レーダーによって、フィリピンの国防態勢に必要不可欠である、フィリピン国軍の海洋状況把握(MDA)能力及び防空能力の強化が期待されています。

特に、本警戒管制レーダー事業は、2015年にフィリピン国防省と日本国防衛省の間で署名された「日比防衛協力・交流に関する覚書」の下で実施されている、様々な分野における二国間防衛協力のモメンタムを基礎として成り立っています。本警戒管制レーダーは、これまで日本から移転された装備品とあいまって、フィリピンの状況認識を強化するものです。本装備品は、両国の相互利益のためのフィリピンと日本の二国間の強固なパートナーシップを象徴するものです。

日本におけるフィリピン国防省及び同国軍の代表として、本事業の契約成立を見届けるとともに、フィリピン国民に対し、本件が国費を投じる価値があることを伝えることができることを大変嬉しく思います。

空自基地にて説明を受ける筆者(2021年1月)

空自基地にて説明を受ける筆者(2021年1月)