第V部 人的基盤の強化
第1章 プロフェッショナルな自衛隊員
様々な勤務場所で任務を全うする自衛隊員
- わが国は、グローバルなパワーバランスの劇的な変化の最前線に位置している。防衛省・自衛隊は、「わが国を守り抜く」という不変の使命を胸に、絶え間ない研鑽を重ねてきた。
- 自衛隊員は、全国各地の駐屯地、基地、艦艇などで勤務するほか、離島や洋上、さらには海外においても任務に従事している。極寒・酷暑の地での警戒監視、強い日差しの甲板上での艦艇運用、航空機の安全運航に不可欠な維持整備、災害現場での被災者支援など、その勤務環境や任務・業務の形態は多岐にわたるが、自衛隊員の一人ひとりが、わが国の平和と独立を守るという不変の使命の担い手であって、結果を求められるプロフェッショナルであり、それぞれの分野で重責を果たしている。
- 自衛官には部隊を指揮する幹部と部隊の中核となる曹士がいる。任務を完遂するためには部隊を構成する一人ひとりの意思と能力の結集が不可欠である。幹部は各自衛隊の任務、部隊の行動方針を理解したうえで、部隊が何をすべきかを考え、的確に判断でき、かつ、部下を率いて行動できることが求められている。曹士は部隊の中核を担い活躍する現場のスペシャリストである。自衛隊の職種は多岐にわたり、どの分野においてもプロフェッショナルである曹士の存在がなくてはならない。
- 事務官は、本省、防衛装備庁の内部部局などで防衛行政や自衛隊の運用をはじめ安全保障政策全般に関する様々な政策の企画・立案を担うほか、情報本部における国際情勢の収集・分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などでの行政実務を担っている。
- 技官は、本省、防衛装備庁の内部部局などで防衛施設(司令部庁舎、滑走路、火薬庫など)や防衛装備品等の物的基盤に関する各種政策の企画・立案を担うほか、情報本部における先端技術情報の収集・分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などでの行政実務、防衛施設の建設工事、自衛隊の運用に欠かせない装備品の研究開発・効率的な調達・維持・整備、隊員のメンタルヘルスケアなどに従事している。
- 教官は、防衛大学校、防衛医科大学校や防衛研究所などで、安全保障に関する幅広い分野の高度な研究や、隊員に対する質の高い教育を行っている。

入隊式(陸)
自衛隊員のキャリアアップ
- 防衛省・自衛隊に採用された時点では、誰もがプロフェッショナルな自衛隊員というわけではない。自衛隊員としてふさわしい技能や能力を備えた隊員を育成するため、部隊での教育や研修、実習など、部内外の様々な機会を通じて隊員を育成する場を設けている。自衛官や事務官などの区別、階級、勤務年数に関係なくこれらの機会を通じて誰もがプロフェッショナルな自衛隊員になれるのである。
- こうしたことから、防衛省・自衛隊の使命であるわが国の防衛に携わる隊員が、志を持って業務に向き合い、能力を最大限発揮できるよう、「人」を中心に据えた組織づくりを進める必要がある。その一環として、「更なるワークライフバランス推進のための働き方改革」及び「女性職員をはじめとする多様な職員の活躍推進」に取り組まなければならない。

定年退官の様子
第2章 自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立など
自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議
- 2024年12月、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」において、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」(以下、「基本方針」という。)が取りまとめられた。
- この基本方針に基づき、2025年度から給与面の処遇改善が実現した。具体的には、過去に例のない30を超える手当などの新設・金額の引上げなどが実現し、任務や勤務環境の特殊性を踏まえた給与面の処遇改善、士をはじめとした幅広い層の人材確保のための処遇改善、予備自衛官等の処遇改善、功績に相応しい叙勲などの施策を講じた。
- また、2025年の人事院勧告を踏まえた給与改定により、新隊員のみならず、部隊の中核を担う30代や40代の隊員の給与も年収で20万円以上増加し、全自衛官の給与が過去最高の額となっている。
- 2025年度は約1万5,000人の採用計画に対し、約1万1,000人が採用され、中途退職者は前年度に比べて約1,000人減の約4,600人となった。しかし、自衛官の定員割れは続き、充足率は約9割となっていることから、引き続き自衛官の人材確保は至上命題である。

人的基盤強化の取組
- 採用段階の取組強化としては、士と曹で約5年間の勤務を経て将来幹部として活躍する者を採用する「幹部候補曹」を新設し、2025年から募集を開始した。また、陸自においてはサイバーなどの専門分野に特化した幹部の採用区分(一般幹部候補生(専門))を新設し、2025年度から採用を開始した。さらに、基本方針に基づき、2年または3年の任期で任用される任期制自衛官について、自衛官候補生制度を廃止し、当初から自衛官として採用する新たな任期制士を設け、2026年度から募集を開始した。
- 民間の人材を活用するという点では、専門的な知識・経験を有する者を採用する任期付隊員制度において、2025年度から自衛官の募集を開始した。
- 2026年3月、防衛省として初めて、事務官・技官などを対象とした「人財戦略」を策定した。防衛省では、この「人財戦略」において職員一人ひとりを人財と位置づけ、「働きがい」の向上と、個人の可能性を最大限に引き出すような施策を進めている。
- 防衛省では、予備自衛官などを安定的に確保するため、年齢要件の緩和など制度の見直しを進めてきた。2025年度には、予備自衛官や即応予備自衛官に対する手当額の引上げ、勤続報奨金の支給、被服・装具の更新の促進、個人事業者などの自ら事業を営む予備自衛官または即応予備自衛官を対象とした予備自衛官事業継続給付金の新設などの大幅な処遇改善を図っている。また、予備自衛官などの兼業を行う国家公務員および地方公務員が招集に応ずるための環境を整備するべく、「予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律案」を国会に提出した。
- 自衛官の任務や勤務環境の特殊性、課された制約や負担に見合った給与とするため、総理大臣の指示に基づき、自衛隊創設以来、約70年間で初めてとなる自衛官の給与体系の独自の見直しを2027年度中に実現すべく、防衛人事審議会に設置された新たな部会「処遇・給与部会」での審議をはじめ、着実に検討を進めている。
- 全ての自衛隊員が高い士気と誇りを持ちながら個々の能力を発揮できるよう、自衛隊としても社会の変化をしっかりと直視し、若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境を構築する。
- 人材育成としては、陸自高等工科学校において、2028年度からの陸・海・空自の共同化や男女共学化に取り組むとともに、各自衛隊などにおける統合教育の強化や、各自衛隊・防衛大学校におけるサイバー領域などを含む教育・研究の強化、教育課程の共通化、先端技術の活用などを進めることとしている。さらに、防衛大学校では、米国士官学校などに4年間留学する課程を新設し、2025年度から学生を米国士官学校へ留学させている。
- 退職、再就職などへの取組として、基本方針に基づき、定年年齢の引上げ、再任用の推進、若年定年退職者給付金の給付水準の引上げなどの制度の見直し、再就職支援の充実・強化を行っている。さらに、任期満了退職、育児・介護等のやむを得ない事情や民間企業等への就職等により中途退職した元自衛官の再任用制度を活用し、2025年度は元自衛官を(陸上自衛隊は約100名)170名採用した。
サイバー人材の確保
- 防衛省・自衛隊では、①人材確保・育成などにかかる方針の一貫性を確保し、人材にかかる施策検討や組織横断的な協力を促進させつつ、②サイバー人材に関する考え方を明確にし、防衛省・自衛隊を志望する人材や外部サイバー人材へアプローチするとともに、部外との協力関係を構築・深化させ、サイバー人材を確保していく。
更なるワークライフバランス・女性職員を始めとする多様な職員の活躍推進
- 更なるワークライフバランス推進のための働き方改革として、職員一人ひとりが「働きがい」向上のために取り組むとともに、幹部職員などによる職員の働きがいの向上に向けた取組、長時間労働の是正、働く時間と場所の柔軟性の確保、育児・介護をしながら活躍できる環境整備などの「働きやすさ」の確保を推進し、職員が心身ともに健全な状態で、高い士気と誇りを持ちながら、その能力を十分に発揮しうるような環境を整える。
- 女性職員を始めとする多様な職員の活躍のため、女性の採用・登用の拡大や教育基盤の整備などとともに、多様な人材の能力や専門性などを最大限活かすよう、中途採用職員、シニア職員などの活躍を推進する。女性の活躍推進として、2025年7月には特殊武器(化学)防護隊の一部の部隊の配置制限解除をしたことにより、陸・海・空自における女性自衛官の配置制限が完全撤廃された。

陸自特殊武器(化学)防護隊で活躍する女性隊員

訓練で活躍する予備自衛官
ハラスメントを一切許容しない環境の構築
- 防衛省・自衛隊では、防衛大臣などによるトップメッセージの発信、管理者(指揮官)などを対象とした弁護士などの部外有識者によるハラスメント防止講演会やロールプレイング形式を用いた集合教育の実施、休日や勤務時間外に対応するLINEを活用した相談窓口の設置、懲戒処分の透明性・公平性の確保の観点による統一的な懲戒処分の基準の制定、隊員の意識改革を目的としたハラスメント防止月間の実施などの取組を継続的に行っている。
隊員や隊員ご家族への支援
- 大規模災害発生時などにおいて、隊員ご家族の安否確認、生活支援について協力を受けるなど、関係部外団体などと連携した隊員ご家族のための支援を推進していく。
- 職員の自殺事故防止の観点から、メンタルヘルスに関する各種施策を推進し、精神疾患の1つであるギャンブル等依存症に対する対策についても適切に対処するための取組を推進している。

庁内託児施設に子供を預けて出勤する自衛官
その他の取組
- 自衛隊衛生は、持続性・強靱性の観点から、任務を遂行する隊員の生命・身体を救う組織への変革が必要である。
- このため、戦傷医療対処能力の向上のため、①第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢の強化、②衛生にかかる統合運用態勢の強化、③防衛医科大学校の抜本的改革を3本柱とし、衛生機能の強化を推進する。特に、戦傷医療における輸血の実施体制を確立し、血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢を構築していく。
- 厳しさ、複雑さ、スピード感を増す戦略環境に対応するためには、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案が必要である。そのため、関係省庁や民間の研究機関、防衛産業を中核とした企業との連携強化に加え、防衛研究所をはじめとする防衛省・自衛隊の研究体制の見直し・強化など、知的基盤の強化を推進していく。