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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第6節 大量破壊兵器の移転・拡散

核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器などの大量破壊兵器やその運搬手段である弾道ミサイルの移転・拡散は、冷戦後の大きな脅威の一つとして認識され続けてきた。また近年は、国家間の競争や対立が先鋭化し、国際的な安全保障環境が複雑で厳しいものとなる中で、軍備管理・軍縮・不拡散といった共通課題への対応において、国際社会の団結が困難になっていくことが懸念される。

1 核兵器

キューバ危機(1962年)など米ソ間の全面核戦争の危険性が認識される中で、1970年に核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)が発効した。同条約のもと、1966年以前に核爆発を行った国(米ソ英仏中(当時)。仏中のNPT加入は1992年)以外の国の核兵器保有が禁じられ、相互交渉による核戦力の軍備管理・軍縮が行われることとなった。

2023年1月現在、NPTは191の国と地域が締結しているが、例えばインド、イスラエル及びパキスタンは依然として非核兵器国としての加入を拒んでいるほか、これまで核実験を繰り返し、核兵器の開発・保有を宣言してきた北朝鮮は、2022年9月に核兵器の使用条件などを規定する法令を採択し、絶対に核を放棄しない旨表明した。

米露間の核戦力については、2021年1月、両国が新戦略兵器削減条約(新START(Strategic Arms Reduction Treaty))の5年間延長に合意したが、ロシアが核兵器による威嚇ともとれる言動を繰り返しながらウクライナ侵略を継続している中、2022年11月には同条約の枠組みにおける両国間の協議が延期され、翌2023年2月にはロシア側が履行の停止を発表した。

また、米国は、中国も含む形での軍備管理枠組みを追求する意向を示しているが、中国は米露間の枠組みに参加する意思はない旨を繰り返し主張している。同時に中国は核戦力の拡大を継続しているとされ、2035年までに1,500発の核弾頭を保有する可能性も指摘されている1

パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、冷戦後の国際秩序が重大な挑戦に晒されている中で、今後核戦力に関する実効的な軍備管理・軍縮枠組みが構築されていくのか、関連動向を注視していく必要がある。

参照図表I-4-6-1(各国の核弾頭保有数とその主要な運搬手段)

図表I-4-6-1 各国の核弾頭保有数とその主要な運搬手段

1 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(2022年)による。