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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 軍事分野における先端技術動向

(1)極超音速兵器

米国、中国及びロシアなどは、弾道ミサイルから発射され、大気圏内を極超音速(マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し、目標へ到達するとされる極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)や、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic Cruise Missile)といった極超音速兵器の開発を行っている。極超音速兵器については、通常の弾道ミサイルとは異なる低い軌道を、マッハ5を超える極超音速で長時間飛翔すること、高い機動性を有することなどから、探知や迎撃がより困難になると指摘されている。

米国は、2021年2月、米国防省高官が、極超音速兵器の開発構想に言及しており、2020年代初頭から半ばにかけて極超音速兵器を配備し、同年代半ばから後半にかけて防衛能力を構築すると公表した1。同年10月には、米陸軍に長距離極超音速兵器(LRHW:Long Range Hypersonic Weapon)のプロトタイプが納入され、2023年度の配備完了に向け訓練を実施しているほか、2022年12月には、米空軍が空中発射型即応兵器(ARRW:Air-Launched Rapid Response Weapon)の発射試験の成功を発表している。

中国は、2019年10月、中国建国70周年閲兵式においてHGVを搭載可能な弾道ミサイルとされる「DF-17」を初めて登場させており、米国防省は中国が「DF-17」の運用を2020年には開始したと指摘している。また、2021年7月、ICBMを発射し、搭載していたHGVが距離4万km弱を100分超飛行し、標的に命中しなかったが近接していたと指摘している2

ロシアは、2019年にHGV「アヴァンガルド」を配備している。2022年12月、国防省幹部会議拡大会合において、ショイグ国防相は、「アヴァンガルド」を搭載可能とされる新型ICBM「サルマト」を2023年に配備する予定であると発言している。また、2021年10月、ロシア国防省はHCM「ツィルコン」の潜水艦発射試験に成功しており、2023年1月、「ツィルコン」を搭載したフリゲートが戦闘哨戒任務を開始した旨を明らかにした。

また、北朝鮮も「極超音速滑空飛行弾頭」の実現を優先課題の一つに掲げ、研究開発を進めているとみられ、2021年9月以降、「極超音速ミサイル」と称するミサイルを発射している。

なお、米国は極超音速ミサイルの迎撃ミサイルの開発などに取り組んでおり、2021年11月、滑空段階で極超音速ミサイルを迎撃するミサイルの開発に関する契約を締結している。

(2)高出力エネルギー技術

レールガンや高出力レーザー兵器、高出力マイクロ波兵器などの高出力エネルギー兵器は、多様な経空脅威に対処するための手段として開発が進められている。

レールガンは、電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を打ち出す兵器であり、使用する弾丸はミサイルとは異なり推進装置を有していない。このため、小型・低コストかつ省スペースで備蓄でき、多数のミサイルによる攻撃にも効率的に対処可能とされている。

また、米国、中国及びロシアなどは、レーザーのエネルギーにより対象を破壊する高出力レーザー兵器を開発している。レーザー兵器は、多数の小型無人機や小型船舶などに対する低コストで有効な迎撃手段であり、ミサイル迎撃が可能な程度まで高出力化できれば、新たなミサイル防衛システムとなり得ると期待されている。

米国は複数のレーザー兵器の開発を進めており、2022年8月には、既存艦艇に初めて搭載される戦術レーザー兵器システム「HELIOS」が米海軍に納入された。

中国は、小型無人機に対処可能な出力数30-100kW級のレーザー兵器「Silent Hunter」を国際防衛装備展示会(IDEX2017)で公開した。また、低軌道周回衛星の光学センサーを妨害または損傷させることを企図していると思われる対衛星レーザー兵器を配備しているとの指摘があるほか、さらに高出力のレーザー兵器も開発中との指摘がある。

ロシアは、出力数10kW級のレーザー兵器「ペレスヴェト」を既に配備しており、対衛星兵器として出力数MW級の化学レーザー兵器も開発中との指摘がある。

イスラエルは、2021年6月、航空機搭載型レーザー兵器により複数の無人機を空中で迎撃する一連の試験に成功している。また、2022年4月、車載型防空用レーザー兵器による無人機や迫撃砲などの迎撃試験に成功している。

高出力マイクロ波兵器は、無人機、ミサイルなどに搭載された電子機器を破損や誤作動させる兵器である。米空軍は、高出力マイクロ波兵器「Phaser」のプロトタイプを2019年に試作しており、米陸軍の演習において一度に2~3機、合計33機の小型無人航空機に対処した実績があるとされる。また、2021年7月には、米空軍研究所が、マイクロ波による敵小型無人機のスウォーム攻撃などへの対処を実証した技術実証システム「THOR」の成果に基づき、新たな高出力マイクロ波兵器「Mjolnir」の開発契約締結を発表している。

高出力マイクロ波兵器「THOR」【米空軍】

高出力マイクロ波兵器「THOR」【米空軍】

1 2021年2月27日付の米国防省HPによる。

2 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(2022年)による。