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ダイジェスト 第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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概観

わが国を取り巻く安全保障環境は、様々な課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきており、一層厳しさを増していると認識

アジア太平洋地域の安全保障環境

  1. ➊わが国周辺では、大規模な軍事力を有する国家などが集中する一方、安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されておらず、依然として領土問題や統一問題をはじめとする不透明・不確実な要素が存在
  2. ➋また、領土や主権、経済権益などをめぐる、純然たる平時でも有事でもない、いわゆるグレーゾーンの事態が増加・長期化する傾向
  3. ➌周辺国による軍事力の近代化・強化や軍事活動などの活発化の傾向がより顕著にみられるなど、アジア太平洋地域における安全保障上の課題や不安定要因は、より深刻化
    • 北朝鮮による核・ミサイル開発などの軍事的な動きは、わが国の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威
    • 中国による軍事活動の一方的なエスカレートなどは、わが国を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念
    • ロシアはわが国周辺を含め軍事活動を活発化させる傾向がみられ、その動向を注視していく必要
  4. ➍わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在

最近のわが国周辺の安全保障関連事象

グローバルな安全保障環境

  1. ●グローバルな安全保障上の課題として、複雑化する地域紛争、深刻化する国際テロ、大量破壊兵器等の拡散、海洋並びにサイバー空間及び宇宙空間などの新たな領域の安定的利用の確保などが顕在化

米国

トランプ政権の安全保障政策

  1. ➊トランプ政権は、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「核態勢見直し」をそれぞれ公表し、安全保障・国防戦略の方針を明らかに
  2. ➋この中で、米国に競争をしかける主要な挑戦者として、以下の3分類を挙げるとともに、米国の安全保障上の主要な懸念は、テロではなく、中国・ロシアとの長期にわたる戦略的競争であるとの認識を表明
    • 中国・ロシア :「修正主義勢力」
    • イラン・北朝鮮:「ならず者国家」
    • ジハード主義テロリストなど:「国境を越えて脅威をもたらす組織体」
  3. ➌こうした認識の下、軍事的優位性の維持、インド太平洋地域へのコミットメント、同盟国との関係強化などを重視

核戦略・ミサイル防衛政策

  1. ➊核態勢については、一部の潜水艦発射型弾道ミサイルの弾頭を改修して低出力化するとともに、核搭載海洋発射型巡航ミサイルの可能性を追求
  2. ➋ミサイル防衛態勢については、弾道ミサイルのみならず、巡航ミサイルなどの脅威にも対処するため、本土防衛及び地域防衛の双方を強化するほか、先端技術の開発にも取り組んでいく方針

インド太平洋戦略

  1. ➊インド太平洋地域においては、自由で開かれたインド太平洋を促進するというビジョンを標榜
  2. ➋このビジョンの下、以下の方針を明確化
    • 北朝鮮の核・ミサイル開発については、非核化に向け北朝鮮と交渉を行いつつも、非核化が具体化するまで制裁は維持するほか、在韓米軍のプレゼンスは引き続き維持
    • 中国の海洋進出については、一方的な現状変更は許容できないとしつつ、「航行の自由作戦」などを通じ、海洋の自由や合法的使用に関与

18(平成30)年2月6日、米下院軍事委員会で国家防衛戦略及び核態勢の見直しについて証言するマティス米国防長官【米国防省提供】

18(平成30)年2月6日、米下院軍事委員会で国家防衛戦略及び
核態勢の見直しについて証言するマティス米国防長官【米国防省提供】

17(平成29)年11月12日、西太平洋で海自護衛艦と共同訓練を行う米空母「ロナルド・レーガン」、「セオドア・ルーズベルト」及び「ニミッツ」【米海軍提供】

17(平成29)年11月12日、西太平洋で海自護衛艦と共同訓練を行う米空母「ロナルド・レーガン」、「セオドア・ルーズベルト」及び「ニミッツ」【米海軍提供】

北朝鮮

  1. ➊北朝鮮は、16(平成28)年以来、3回の核実験を強行したほか、40発もの弾道ミサイルの発射を繰り返し実施しており、北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうもの
  2. ➋他方、18(平成30)年6月の史上初となる米朝首脳会談の共同声明において、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことにコミットすることなどを表明した上で、引き続き米朝間で交渉を行っていくことを確認。金正恩委員長が、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を、改めて文書の形で、明確に約束した意義は大きい
  3. ➌今後、北朝鮮が核・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていく必要
  4. ➍その上で、北朝鮮が、わが国のほぼ全域を射程に収めるノドン・ミサイルを数百発保有し、それらを実戦配備しているとみられることや、これまでの累次の核実験及び弾道ミサイル発射を通じた核・ミサイル開発の進展及び運用能力の向上などを踏まえれば、米朝首脳会談後の現在においても、北朝鮮の核・ミサイルの脅威についての基本的な認識に変化なし

大量破壊兵器・弾道ミサイルの開発

  1. ➊北朝鮮は17(平成29)年9月に6回目となる核実験を強行し、その出力は過去最大規模の約160ktと推定され、水爆実験であった可能性も否定できず
  2. ➋過去6回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、既に核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化の実現に至っている可能性
  3. ➌弾頭の再突入技術を実証したか否かについては慎重な分析が必要だが、発射を繰り返すことにより、関連技術は蓄積
  4. ➍北朝鮮は、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有し、生物兵器についても一定の生産基盤を保有。また、弾道ミサイルに生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できず
  5. ➎弾道ミサイルについては、以下の4つを企図
    • ①長射程化
    • ②飽和攻撃のために必要な正確性及び運用能力の向上
    • ③奇襲的な攻撃能力の向上
    • ④発射形態の多様化
  6. ➏仮に北朝鮮が弾道ミサイルの開発をさらに進展させるなどし、米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となる可能性

北朝鮮の弾道ミサイルの射程

中国

急速な近代化

  1. ➊国防費の高い水準での増加を背景に、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心とした軍事力を広範かつ急速に強化しており、その一環として、いわゆる「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を強化
  2. ➋このような、従来からの軍事力強化に加え、特に過去数年間にかけて、電子戦・サイバー分野など、新たな形での実戦的な運用能力の進展を企図
  3. ➌中央軍事委員会主席としての習近平氏の権限のより一層の掌握を背景に、実戦的な運用能力強化を目的とした軍近代化の動きは今後とも更に加速する可能性
  4. ➍中国としては、2035年までに軍近代化を基本的に実現し、21世紀中葉までに中国軍を世界一流の軍隊にするという目標。国力の向上に伴い軍事力も迅速に発展させていく考え

尖閣諸島の接続水域を航行したシャン級潜水艦(公海で中国国旗を掲揚 18(平成30)年1月)

尖閣諸島の接続水域を航行したシャン級潜水艦
(公海で中国国旗を掲揚 18(平成30)年1月)

中国の公表国防費の推移

わが国周辺での活動の一方的なエスカレーション

  1. ➊尖閣諸島に関する独自の主張に基づくとみられる活動の推進をはじめ、中国海空戦力は、尖閣諸島周辺を含めてその活動範囲を一層拡大
  2. ➋中国海軍艦艇によるわが国近海の航行や、太平洋への進出を伴う海空戦力の訓練とみられる活動は、定例化を企図していると考えられる一方、活動内容は引き続き質的な向上をみせており、中には実戦的な統合運用能力の構築に向けた動きも
  3. ➌海洋プラットフォームに係る中国の今後の動向にも注目

力を背景とした現状変更の試み

  1. ➊海洋における利害が対立する問題をめぐって、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続
  2. ➋南沙諸島にある7つの地形において、急速かつ大規模な埋め立て活動を強行し、砲台といった軍事施設などの整備を推進し、同地形の軍事拠点化を進展。また、西沙諸島においても爆撃機の離発着訓練の実施が指摘されるなど軍事拠点化を推進。南シナ海における軍の活動も拡大。力を背景とした現状変更及びその既成事実化を一層進展させる行為
  3. ➌米国は、中国などによる行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、南シナ海などにおいても「航行の自由作戦」を実施
  4. ➍一方、中国は、海空域における不測の事態を回避・防止するための取組にも関心を示しており、例えば、18(平成30)年5月には、「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」の運用開始に正式合意
  5. ➎その上で、急速な軍事力近代化や運用能力の向上、わが国周辺での活動の一方的なエスカレーションなどは、透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念
  6. ➏中国軍が、シーレーン防衛などを通じ、「一帯一路」構想の後ろ盾としての役割を担っている可能性
    同構想によるインフラ建設が中国軍のインド洋、太平洋などでの活動をさらに促進する可能性

わが国周辺海空域における最近の中国軍の活動のイメージ図

ロシア

  1. ➊「強い国家」や「影響力のある大国」を掲げてきたプーチン大統領は、18(平成30)年3月に再選し、ロシアの今後について、さらなる防衛力強化を訴える一方、軍拡競争を始める意図はなく、各国と建設的な関係を追求する意向を表明
  2. ➋欧州については、NATO拡大に否定的であり、ウクライナなどとの国境付近に3個師団を配置しているほか、17(平成29)年9月には大規模演習「ザーパド2017」を実施
  3. ➌シリアについて、同国内における海軍及び空軍の拠点を今後も恒常的に運用していく旨発表するなど、引き続き、中東への影響力拡大に向けた動きに注目
  4. ➍極東については、新型のフリゲート(ステレグシチー級)や戦闘機(Su-35・Su-34)などの配備が進められ、18(平成30)年は大規模演習「ヴォストーク2018」も実施予定
  5. ➎また、北方領土(択捉島、国後島)への地対艦ミサイル配備を公表したほか、択捉島の民間空港の軍民共用化や同島への戦闘機の展開を行うなどその活動を活発化
  6. ➏ロシアはわが国周辺を含め軍事活動を活発化させる傾向がみられ、その動向を注視していく必要

地域紛争・国際テロなどの動向

  1. ➊米国を中心とする有志連合などによる軍事作戦を受け、ISILはシリア・イラクにおいて支配地域をほぼ喪失した一方、ISIL関連組織が中東、アフリカ、アジアにおいて引き続き活発なテロ活動を実施
  2. ➋過激思想に感化された個人や集団による「ホーム・グロウン型」テロや、ISILに参加した後に本国に帰還した外国人戦闘員によるテロの脅威が欧米諸国をはじめグローバルに拡散
  3. ➌ISILが日本人も攻撃対象として繰り返し挙げていることや、16(平成28)年のバングラデシュ・ダッカにおける襲撃事件を踏まえれば、国際テロの脅威については、改めてわが国自身の問題として正面から捉えなければならない状況
  4. ➍シリア情勢については、米英仏が18(平成30)年4月、アサド政権が化学兵器を使用したと判断し、シリアの化学兵器関連施設に対する攻撃を実施。これに対して、アサド政権を支持するロシアは強く反発するなど、関係国や各勢力の対立が継続しており、シリアにおける軍事衝突終結に向けためどは立たず

アフリカ・中東地域の主なテロ組織

宇宙空間

  1. ➊主要国は、C4ISR機能の強化などを目的として、各種衛星の能力向上や打上げを実施
    (※C4ISR:Command(指揮),Control(統制),Communication(通信),Computer(コンピュータ),Intelligence(情報),Surveillance(監視) and Reconnaissance(偵察)の略)
  2. ➋各国は、宇宙空間において、自国の軍事的優位性を確保するための能力を急速に開発。中国、ロシアはキラー衛星の打ち上げ・試験を実施との指摘
  3. ➌中国は、米国の宇宙における情報優位を脅かすおそれがあるとの指摘

サイバー

  1. ➊軍隊にとって情報通信ネットワークへの依存度が一層増大する中、多くの外国軍隊はサイバー攻撃を敵の弱点を突く非対称的な戦略として位置づけ、サイバー空間における攻撃能力を開発しているとの指摘
  2. ➋中国やロシアは、他国のネットワーク化された部隊の妨害やインフラの破壊のため、軍としてサイバー攻撃能力を強化しているとの指摘
  3. ➌諸外国の政府機関や軍隊などの情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃が多発。中には、ロシア、中国、北朝鮮などの政府機関の関与が指摘されている事案も