防衛大学校National Defense Academy

学校長訓話

学校長訓話

令和8年度入校式典

令和8年4月5日

本日、ここ桜花爛漫の小原台において、宮﨑政久防衛副大臣をはじめ、多数のご来賓のご臨席を賜り、令和8年度防衛大学校入校式を挙行できますことは、防衛大学校全職員の最も喜びとするところであります。新入生諸君、そしてご列席のご家族の皆様、入校誠におめでとうございます。この難局の時代に防衛大学校を志した新入生の決意に対し、深甚なる敬意を表します。

本年度は、本科第74期528名、理工学研究科前期課程第65期52名、同後期 課程第26期11名、及び総合安全保障研究科前期課程第30期13名、同後期課程第18期3名の学生諸君を迎えることができました。
また、本年も、本科には、タイ王国、フィリピン共和国、マレーシア連邦、インドネシア共和国、ベトナム社会主義共和国、モンゴル国、カンボジア王国、東ティモール民主共和国、トンガ王国及びフィジー共和国の計10カ国23名、研究科には、インドネシア共和国、ベトナム社会主義共和国、モンゴル国及びカンボジア王国の計4カ 国7名の留学生をお迎えしました。
さらに本日は、防大が実施しているホーム・カミングデイ行事として、60年前に入学された、皆さんの大先輩である防大第14期生の方々にもご参加いただいております。長年の国防へのご献身に対し心から敬意を表します。

さて、昭和28年4月、槇智雄初代防衛大学校長は、第1期生の入校式に際し、敗戦後の悲惨な状況から国民と共に我が国の再興を期する心構えをお話しされました。以来、73年間、諸君の先輩方は、営営と自らが生きる「時代の責任」を果たし 続けてきました。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まった2022年を境に、国際社会は、2つの世界大戦の戦間期であるE.H.カーの「危機の20年」の再来ともいうべき、「パワーポ リティクス」の時代に入りました。マーク・トウェインは、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」と言いましたが、今、我々は、1世紀前の苦難の歴史を繰り返すのか否かの分水嶺に立っています。諸君は、先輩達の志を引き継ぎ、この動乱ともいうべき時代に 生きる者の責任として、幹部自衛官の道を目指す中で、これからの「時代の責任」を果たしていかなければなりません。それに加えて現在は、人工知能(AI)をはじめとする先進技術の融合する「第四次産業革命」の急速な進展の最中にあります。特にAIは、社会の仕組みそのものを変えるインパクトがありますが、人間とAIの協同において、AIによって代替することができない人間の役割には、
一、志を立てること、
二、目標を設定すること、
三、決断して責任を引き受けること、
四、信頼を構築すること、
五、意味づけを行うことがあります。
これら5つは、リーダーシップの要素そのものであり、第四次産業革命によって社会が大きく変革していく中において、将来の我が国の防衛を担うリーダーシップの素地を涵養する防衛大学校の社会的価値は、確実に高まっていくことでしょう。

こうした情勢を踏まえて、新入生に望むことを申し述べます。
まず、本科学生については、今後の4年間で、特に以下の3点を修得してもらいたいと思います。
第一に、「志を立てる」ということです。 リーダーシップの素地を涵養する上で、出発点となるのが「志の確立」であり、将来、「幹部自衛官」の道に進むことが期待される諸君は、「果たして、自分は幹部自衛官となり、何を成すのか」ということを、時には仲間と「対話」し、時には自分自身で「内省」することで、4年間かけて考え抜いても らいたいと思います。
第二に、「信頼を構築する」ということです。国の防衛は、自衛隊のみでは成し遂げられません。自衛隊の中での陸・海・空三自衛隊の統合運用は無論のこと、警察・ 消防・海上保安庁、外務省、経産省等他省庁や地方自治体との協同、同盟国・同志国との連携、国民との協力など、国内外の組織との連携を深める上で基盤となる 最も重要なことは「信頼(Trust)」です。諸君は、まず校内で、同期生、上・下級生との信頼関係を構築するとともに、それを徐々に校外へも広げて欲しいと思います。この際、留学生との信頼関係は、将来諸君が主体となる防衛協力・交流の出発点となります。
第三に、「自主自律を体現する」ということです。防衛の務めを果たす自衛官は、他の社会よりも一層厳しい規律の維持が求められます。一方、幹部自衛官がリーダ ーとして成長するにつれて指導してくれる人は減り、自ら律して高い規律を維持することが必要となります。諸君も1学年のうちは、上級生の指導や指導教官の補導等の「他律」による規律の維持が求められますが、4学年に向けて、年々自律の割合を増やしていかなければなりません。諸君が将来、難局に立ち向かう際、最大の武器となるのが「主体性」と「自律性」の発揮であり、それゆえ、学生時代に自主自律を体現することが将来のリーダーとしての重要な素地になります。

次に、修士や博士を目指し、日夜研究に励む研究科学生には、次の2点を要望します。
第一に、「研究の目的に立ち返る」ということです。 今後研究を進めるにつれ、 様々な壁にぶつかることもありましょう。その際には、常に、「そもそもこの研究を進める目的は何か?」、「この研究により、いかなる課題を解決したいのか?」 に立ち返ってもらいたいと思います。ともすれば、我が国の研究開発は、技術(SEEDs)主導になるきらいがありますが、諸君には、是非、運用(NEEDs)主導の研究を心がけて欲しいと思います。
第二に、「他の専門領域との融合を図る」ということです。研究科学生には、卒業後、理系・文系にかかわらず、難局の時代を切り拓くイノベーションを牽引することを期待しています。イノベーションは、フュージョンのあるところに起きます。どうか、自身の専門領域を越えた他の領域とのコンバージェンスを図ってもらいたいと思います。

最後に、私も、本年4月1日付で、第11代防衛大学校長に着任しました。防衛大学校長に、初級幹部から定年まで全うした生粋の幹部自衛官が任用されるのは初めてであり、私には、幹部自衛官としての諸君のロール・モデルとなることが期待されていると理解しています。さらに自衛官退官後の生き様においても諸君のロール・モデルとなるべく、私自身も諸君と共に研鑽を積んでいく所存です。
新入生諸君、本日、ここ小原台において、深い教養を涵養し、人間味溢れる人格を陶冶する日々が始まりました。幹部自衛官にとって、リーダーシップとは、その職にある限り、追求すべき「道」そのものです。ここで修得したリーダーシップの素地は、諸君の今後の幹部自衛官としての基盤になるだけでなく、難局の時代に直面する我が国の羅針盤にもなっていくことでしょう。
改めて、新入生諸君の前途を心より祝して、式辞と致します。

令和8年4月5日

防衛大学校長 吉田圭秀

着任行事

令和8年4月2日

着任の辞

4月1日付をもって、小泉進次郎防衛大臣より、防衛大学校長を拝命した 吉田圭秀です。どうぞよろしくお願いします。

私自身、自衛官退官後には教育者の道に進みたいという、かねてからの念願が叶い感無量の思いです。 その一方で、この「動乱の時代」ともいえる世界史的な難局に、この国の行く末を託す若者達を送り出して行く責任の重さも痛感しています。私が自衛官として過ごしてきた40年間よりも、学生諸君がこれから迎える40年間の方が間違いなく遙かに厳しい時代となることでしょう。

着任に当たり、今後、我々の追求すべき目標として、「自主自律に基づく、自由で開かれた防衛大学校」を掲げます。お気づきの人も多いと思いますが、この目標は、「法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序」という国際政治上の理念を防衛大学校の目標に置き換えたものです。

第一に、「 自主自律」については、将来自衛隊のリーダーとなる諸君には、 自ら律することにより、他の社会よりも一層厳しい規律の維持が求められます。諸君が将来、難局に立ち向かう際、最大の武器となるのが「主体性」と「自律性」の発揮です。それ故、学生時代に「自主自律」を体現することが将来のリーダーとしての重要な素地になります。
第二に、「自由」については、歴代の学校長が仰っている通り、決して「放縦」を意味するものではなく、規律なくして真の自由はありません。私が強調する「自由」とは、槇智雄初代学校長が追求した「リベラル・アーツ」としての学問の自由です。皆さんは、就学間、将来のリーダーとしての判断力の基礎となる深い「教養」を身につけなければなりません。
第三に、「開かれた」については、小原台が、単に居心地のよい同質的で共同体的な「閉鎖空間」であっては、将来のリーダーシップの素地は十分に育ちません。これからの難局の時代に我が国の防衛を担うリーダーには、多様性と他の組織との関係性を構築する力が求められます。それ故、日本社会や国際社会の同世代の若者達との「他流試合」の機会を積極的に求めていきましょう。 この「自主自律に基づく、自由で開かれた防衛大学校」の目標を体現するにあたり、私のリーダーシップ・スタイルとして、防衛大学校の教職員及び学生一人一人との「対話」を重視していきます。どうか私に相対する時は、本音ベースで自分の考えや思いを伝えてください。私自身も真剣に皆さん一 人一人と向き合っていきます。
今後、国際社会の荒波に立ち向かい、新たな時代を切り拓いていくリーダーシップの素地を涵養する防衛大学校の価値は、我が国においても、国際社会においても、著しく高まっていくと確信しています。正に輝く「防大ブランド」です。
諸先輩の築き上げた七十有余年の防衛大学校の輝かしい伝統の上に、今、ここに集った我々の世代が、「チーム小原台」として一丸となり、将来の我が国発展の礎となる新たな防衛大学校の歴史の一ページを共に作って参りましょう。

令和8年4月2日


第11代防衛大学校長 吉田圭秀