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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第2章 ロシアによるウクライナ侵略

1 全般

2022年2月21日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの一部である東部の「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」を独立した主権国家として承認する大統領令に署名した上で、これら分離派勢力との間の「友好協力相互支援条約」に基づく支援「要請」があったとの名目で、同月24日、ドンバスの住民保護などを目的とした「特別軍事作戦」の実施を決定した旨を表明し、ウクライナに対する侵略を開始した。ロシア軍は、侵略当初から、各種のミサイルや航空攻撃を行うとともに、北部、東部及び南部の複数の正面から地上軍を同時に侵攻させ、首都キーウ付近まで到達したものの、ウクライナ軍の強固な抵抗や、作戦・戦術面において指摘されている様々な失敗などもあり、侵攻兵力は大きな損害を被ったとされ、ウクライナ北部などから後退した。しかしながら、その後、兵力の再編成が指摘され、ウクライナ東部及び南部における攻撃を強化するなど、引き続き、戦況は予断を許さない状況となっている。

今般のロシアによるウクライナへの侵略は、ウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法と国連憲章の深刻な違反であり、このような力による一方的な現状変更は、欧州のみならず、アジアを含む国際秩序全体の根幹を揺るがすものである。また、ウクライナ各地においてロシアによる残虐で非人道的な行為が明らかになっているが、多数の無辜(むこ)の民間人の殺害は重大な国際人道法違反、戦争犯罪であり断じて許されない。

第二次世界大戦後の国際秩序においては、力による一方的な現状変更を認めないとの規範が形成されてきたが、そのような中で、国際の平和及び安全の維持に主要な責任を負うこととされている国連安保理常任理事国の一つであるロシアが、国際法や国際秩序と相容れない軍事行動を公然と行い、罪のない人命を奪っているという事態は前代未聞と言えるものである。このようなロシアの侵略を容認すれば、アジアを含む他の地域においても一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、わが国を含む国際社会として、決して許すべきではない。

国際社会は、このようなロシアによる侵略に対して結束して対応しており、各種の制裁措置などに取り組むとともに、ロシア軍の侵略を防ぎ、排除するためのウクライナによる努力を支援するため、防衛装備品等の供与を続けている。ウクライナ侵略にかかる今後の展開については、引き続き予断を許さない状況にあるが、わが国としては、重大な懸念を持って関連動向を注視していく必要がある。

ウクライナ情勢を巡り開催されたG7首脳会合(2022年3月24日)

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(2022年3月24日)