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第IV部 防衛力を構成する中心的な要素など

3 人的資源の効果的な活用に向けた施策など

1 人材の有効活用など

自衛隊の人的構成は、これまで全体の定数が削減されてきた一方、装備品の高度化、任務の多様化・国際化などへの対応のため、より一層熟練した者、専門性を有する者が必要となっている。

このような状況を踏まえ、防衛大綱などでは、自衛隊の精強性にも配意しつつ、知識・技能・経験などを豊富に備えた高齢人材の一層の活用を図るため、自衛官の若年定年年齢を現中期防期間中に1歳、次期中期防期間中に1歳、階級ごとに段階的に引き上げることとしており、2020年に1尉から1曹、2021年に1佐から3佐までの引上げを実施した。また、定年退職後の再任用(定年から65歳まで可)を引き続き拡大するほか、部隊などにおける自衛隊の専門性の高い分野において退職自衛官の技能の活用を促進することとしている。

さらに、AIなどの技術革新の成果を活用した無人化・省人化などを推進するため、AIの活用促進などにかかるアドバイザー業務の外部委託やAI・データ分析官の採用に向けた取組により、AI活用に関する支援態勢を構築するとともに、部外委託講習により部内人材の育成を図るなど、AI活用にかかる環境整備を行っている。

加えて、限られた人員で稼働率を確保していく観点から、海自の一部艦艇では、複数クルーで交替勤務し稼働日数の増加を図るクルー制を導入しており、新型護衛艦(FFM)についてもクルー制の導入を検討している。

参照図表IV-1-1-4(自衛官の階級と定年年齢)

図表IV-1-1-4 自衛官の階級と定年年齢

2 生活・勤務環境の改善及び処遇の向上

防衛大綱及び中期防は、全ての自衛隊員が高い士気を維持し、自らの能力を十分に発揮し続けられるよう、生活・勤務環境の改善を図ることとしている。具体的には、即応性確保などのために必要な隊舎・宿舎の確保及び建替えを加速し、同時に、施設の老朽化対策及び耐震化対策を推進するほか、老朽化した生活・勤務用備品の確実な更新、日用品などの所要数の確実な確保などを実施することとしている。

生活・勤務環境の改善

生活・勤務環境の改善

また、自衛官は厳しい環境下において任務を遂行するため、任務や勤務環境の特殊性などを踏まえ、処遇を改善することとしている。自衛官の任務の危険性などの特殊性、官署が所在する地域の特性に応じた適切な処遇を確保するため、特殊勤務手当10などの改善を図るとともに、災害対処能力などの向上のため簡易ベッドの整備や非常用糧食の改善を実施しているほか、隊員が士気高く、誇りを持って任務を遂行できるよう、功績を適切に顕彰するため、防衛功労章の拡充をはじめとした栄典・礼遇に関する施策を推進することとしている。

さらに、2019年には厳しい募集環境を踏まえ、防衛省職員給与法を改正し、特に初任給に重点を置いた給与の引上げを行った。

3 隊員の退職と再就職のための取組など

自衛隊の精強性を保つため、多くの自衛官は、50代半ば(若年定年制自衛官)又は20代~30代半ば(任期制自衛官)で退職することから、その多くは、退職後の生活基盤の確保のために再就職が必要である。

再就職の支援は、雇用主たる国(防衛省)の責務であり、自衛官の将来への不安の解消や優秀な人材確保のためにも極めて重要であることから、再就職に有効な職業訓練などの支援施策を行っている。

また、防衛省は自ら職業紹介を行う権限を有していないため、一般財団法人自衛隊援護協会が、厚生労働大臣と国土交通大臣の許可を得て、退職自衛官のための無料職業紹介事業を行っている。

退職自衛官は、職務遂行と教育訓練によって培われた、優れた企画力・指導力・実行力・協調性・責任感などのほか、職務や職業訓練などにより取得した各種の資格・免許も保有している。このため、地方公共団体の防災や危機管理の分野をはじめ、金融・保険・不動産業や建設業のほか、製造業、サービス業など幅広い分野で活躍している。

退職自衛官の再就職支援については、防衛大綱及び中期防に基づき、引き続き職業訓練課目の拡充や、退職前の段階的な資格取得などの支援を行うとともに、退職自衛官の知識・技能・経験を活用するとの観点から、地方公共団体や関係機関との連携を強化しつつ、退職自衛官のさらなる活用を進めるなど、一層の充実を図ることとしている。

特に、地方公共団体の防災部局には、2021年3月末時点で、46都道府県に104名、431市区町村に508名の計612名の退職自衛官が危機管理監などとして在職しており、地方公共団体との連携を強化するとともに、防災をはじめとする危機管理への対処能力への向上につながることから、これらの取組を一層強化し、地方公共団体の防災部局での退職自衛官の活用を積極的に支援していくこととしている。

なお、防衛省では、地方公共団体の防災部門などへの採用を希望する退職予定自衛官向けに「防災・危機管理教育」を実施しており、本教育を受講した者は申請により内閣府から「地域防災マネージャー」の資格が付与されている。従来、資格を付与されるための条件は、自衛官は、「3佐以上ないし1尉であって3佐の実質的な職務経験があること」であったが、防衛省・自衛隊として、災害派遣における自衛官の任務の実態などを踏まえ、地域防災マネージャーの要件の拡充について関係省庁と調整を行った結果、2021年4月から「1尉以上ないし2尉であって1尉の実質的な職務経験があること」に拡大された。

また、令和3(2021)年度には、任期制自衛官の充足の維持・向上に加え、予備自衛官及び即応予備自衛官の充足向上を図るため、任期制自衛官の任期満了後に国内の大学に進学した者が、その在学期間中、予備自衛官又は即応予備自衛官に任官した場合、任期制自衛官退職時進学支援給付金を支給することとした。

参照図表IV-1-1-5(再就職支援施策として行っている主な職業訓練)
図表IV-1-1-6(令和2(2020)年度再就職支援実績)

図表IV-1-1-5 再就職支援施策として行っている主な職業訓練

図表IV-1-1-6 令和2(2020)年度再就職支援実績

一方、自衛隊員の再就職については、従来の事前承認制に替わって、2015年10月から新たな再就職等の規制が導入され、一般職の国家公務員と同様に、公務の公正性に対する国民からの信頼を確保するため、3つの規制(①他の隊員・OBの再就職依頼・情報提供等の規制、②在職中の利害関係企業等への求職の規制、③再就職者による依頼等(働きかけ)の規制)11が設けられた。これらの規制の遵守状況については、隊員としての前歴を有しない学識経験者から構成される監視機関(防衛人事審議会再就職等監視分科会、内閣府再就職等監視委員会)において監視するとともに、不正な行為には罰則を科すことで厳格に対応することとしている。

あわせて、内閣による再就職情報の届出・公表について制度化し、再就職情報の一元管理・情報公開を的確に実施するため、自衛隊員のうち管理職隊員(本省企画官相当職以上)であった者の再就職状況について毎年度内閣が公表することとしている。直近では、令和元(2019)年度に提出された再就職情報の届出のうち管理職隊員であった者の届出を取りまとめ、2020年10月、計203件を公表した。

参照資料53(再就職等支援のための主な施策)
資料54(退職自衛官の地方公共団体防災関係部局における在職状況)

4 家族支援への取組

平素からの取組として、部隊と隊員家族の交流や隊員家族同士の交流などのほか、大規模災害など発生時の取組として、隊員家族の安否確認について協力を受けるなど、関係部外団体などと連携した家族支援態勢の整備についても推進している。

また、中期防においても、対処態勢を長期にわたり持続可能とする観点から、隊員家族に配慮した各種の家族支援施策を推進するとしており、海外に派遣される隊員に対しては、メールやテレビ電話など家族が直接連絡できる手段の確保や、家族からの慰問品の追送支援などを行っている。さらに、家族説明会を開催して様々な情報を提供するとともに、留守家族専用の相談窓口(家族支援センター)や隊員家族向けホームページなどを設置して各種相談に応じる態勢をとっている。

海外派遣隊員の家族に対する説明会(2019年5月)

海外派遣隊員の家族に対する説明会(2019年5月)

5 厳正な服務規律の保持のための取組

近年、防衛省・自衛隊に対して国民から多くの期待が寄せられており、自衛隊がその実力を最大限に発揮して任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが必要不可欠であり、そのためには常に規律正しい存在であることが何より求められている。

防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、従来から「防衛省薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理月間」、「防衛省職員ハラスメント防止週間」の期間を設けて、遵法意識の啓発に努めるとともに、服務指導の徹底などの諸施策を実施している。

また、防衛力の中核は隊員であり、自衛隊が組織力を発揮し、さまざまな事態にしっかりと対応していくためには、隊員が士気高く安心して働ける環境を構築する必要がある。

パワー・ハラスメントやいじめは、隊員の人格・人権を損ない、自殺事故にもつながる行為であり、周囲の勤務環境にも影響を及ぼす大きな問題である。パワー・ハラスメント対策の一環として、平成28(2016)年度に人事教育局服務管理官付に「防衛省パワハラホットライン」を常設し、隊員からの相談に対応しているが、その相談件数は、平成29(2017)年度が140件、平成30(2018)年度が252件、令和元(2019)年度が519件、令和2(2020)年度が1,010件と、年々倍増している。

参照図表IV-1-1-7(防衛省パワハラホットライン相談件数の推移)

図表IV-1-1-7 防衛省パワハラホットライン相談件数の推移

パワー・ハラスメントは、隊員の認識不足や上司と部下との間のコミュニケーション・ギャップなどの問題に起因しており、それらの問題を解消していくため、①隊員の啓発・意識の向上のための集合教育・e-ラーニング、②隊員(特に管理職)の理解促進・指導能力向上のための教育、③相談体制の改善・強化などの施策を行っている。

また、暴行、傷害及びパワー・ハラスメント等の規律違反の根絶を図るため、2020年3月から懲戒処分の基準を厳罰化した。

さらに、令和2(2020)年度から第三者である弁護士によるハラスメント相談窓口を設置した。

ハラスメント防止教育を受講する隊員の様子

ハラスメント防止教育を受講する隊員の様子

6 自衛隊員の自殺防止への取組

自衛隊員の自殺者数は、平成16(2004)年度から平成18(2006)年度は100人以上であったが、平成19(2007)年度以降は、緩やかな減少傾向となり、令和2(2020)年度は66人となっている。しかしながら、依然として、60人以上の貴重な隊員の命が自殺により失われていることは、組織にとって多大な損失であるとともに、御家族にとっても大変痛ましいことである。

参照図表IV-1-1-8(自衛隊員の自殺者数の推移)

図表IV-1-1-8 自衛隊員の自殺者数の推移

令和元(2019)年度の自殺事故の状況について調査したところ、10代・20代の若い隊員及び50代の中高年の隊員の自殺者数が人員比よりも多いことや、勤務環境や生活環境に変化のあった隊員の自殺事故が多いことが確認された。

このような状況を踏まえ、令和2(2020)年度は、きめ細やかな隊員の心情把握を行うとともに、メンタルヘルス不調の兆候のある者に対しては、部外カウンセラーの利用や医療機関での受診を行うように積極的に指導するなどの対策を行っている。

また、自殺者が多い傾向にある7~9月に備え、令和3(2021)年度からメンタルヘルス施策強化期間を6~7月に設定するなどの施策を進めている。

7 殉職隊員への追悼など

1950年に警察予備隊が創設され、保安隊・警備隊を経て今日の自衛隊に至るまで、自衛隊員は、国民の期待と信頼に応えるべく日夜精励し、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は2,000人を超えている。

防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を行うとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚(しんじん)なる敬意と哀悼の意を捧げるため、内閣総理大臣参列のもと行われる自衛隊殉職隊員追悼式など様々な形で追悼を行っており、令和2年度自衛隊殉職隊員追悼式では、25柱(陸自14柱、海自8柱、空自2柱、機関等1柱)を顕彰している12

菅内閣総理大臣参列のもと行われた令和2年度自衛隊殉職隊員追悼式

菅内閣総理大臣参列のもと行われた令和2年度自衛隊殉職隊員追悼式

10 2020年以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための災害派遣活動等に従事した職員に対し、災害派遣等手当の特例を措置している。

11 自衛隊法第65条の2、第65条の3及び第65条の4に規定

12 自衛隊殉職者慰霊碑は、1962年に市ヶ谷に建てられ、1998年、同地区に点在していた記念碑などを移設し、「メモリアルゾーン」として整理された。防衛省では毎年、殉職隊員の御遺族をはじめ、内閣総理大臣と防衛大臣以下の防衛省・自衛隊高級幹部のほか、歴代の防衛大臣などの参列のもと、自衛隊殉職隊員追悼式を行っている。また、メモリアルゾーンにある自衛隊殉職者慰霊碑には、殉職した隊員の氏名などを記した銘版が納められており、国防大臣などの外国要人が防衛省を訪問した際、献花が行われ、殉職隊員に対して敬意と哀悼の意が表されている。このほか、自衛隊の各駐屯地及び基地において、それぞれ追悼式などを行っている。