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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 パキスタン

1 全般

パキスタンは、南アジア地域の大国であるインドと、情勢が不安定なアフガニスタンに挟まれ、中国及びイランとも国境を接するという地政学的に重要かつ複雑な環境に位置している。特に、アフガニスタンとの国境地域ではイスラム過激派が国境を超えて活動を行っており、テロとの闘いにおけるパキスタンの動向には国際的な関心が高い。

パキスタン政府は、アフガニスタンにおける米国の活動に協力しているが、これに対する国内の反米感情の高まりやイスラム過激派による報復テロの発生により、国内治安情勢が悪化するなど、困難な政権運営を余儀なくされている。パキスタン軍などが武装勢力に対する掃討作戦を強化したことで、テロによる被害は大きく減少したとされるものの、引き続きテロが散発的に発生している。

こうした中、17(平成29)年以降、対テロ作戦「ラード・ウル・ファサード」を継続しているほか、過激派勢力のアフガニスタンからの越境を防ぐため、国境沿いにフェンス及び警備拠点の整備を進めている。また、カーン首相は18(平成30)年12月、パキスタンが米国とタリバンの協議を支援していることを明らかにしつつ、アフガニスタンの和平プロセスのため、力の及ぶ限りあらゆることを行っていくことを表明している。

2 軍事

パキスタンは、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとの立場をとっている。また、過去にはいわゆるカーン・ネットワークが核関連物資や技術の拡散に関与していた9

パキスタンは、核弾頭を搭載可能な弾道ミサイル及び巡航ミサイルの開発も進めており、近年、試験発射を行っている。15(平成27)年には、弾道ミサイル「シャヒーン3」の発射試験を3月と12月の2回にわたり実施したほか、16(平成28)年1月には巡航ミサイル「ラード」の航空機からの発射試験を行った。また、17(平成29)年1月には、MIRV(Multiple Independently-Targetable Re-entry Vehicle)化されたとする弾道ミサイル「アバビール」の発射試験を行うとともに、前年に続き、18(平成30)年3月にも、潜水艦発射型の巡航ミサイル「バーブル」の発射試験を行っており、ミサイルの戦力化を着実に進めているとみられる10

パキスタンは世界第9位の兵器輸入国であり、その7割が中国からの輸入であると指摘されている11。中国からは、スウォード級フリゲート4隻を導入したほか、JF-17戦闘機の共同開発を行い、自国生産により85機導入している。また、新たにフリゲート4隻を調達することで合意しているほか、潜水艦8隻を調達する予定とし、4隻は中国で、残りの4隻はパキスタンで建造されると報道されている。米国からは、11(平成23)年までにF-16C/D戦闘機計18機を導入しているものの、近年の関係悪化により、兵器の輸入は減少傾向にあると指摘12されている。

3 対外関係
(1)インドとの関係

参照2章7節1項3(1)(パキスタンとの関係)

(2)米国との関係

パキスタンは、アフガニスタンにおける米軍の活動を支援するほか、アフガニスタンとの国境地域においてイスラム過激派の掃討作戦を行うなど、テロとの闘いに協力している。これを評価し、04(平成16)年、米国はパキスタンを「主要な非NATO同盟国」に指定した。

10(平成22)年以降、両国が行っていた戦略対話や米国による対パキスタン軍事支援は、11(平成23)年5月の米軍によるパキスタン領内におけるウサマ・ビン・ラーディン掃討作戦をめぐる米パ関係の悪化により中断していたが、13(平成25)年10月、オバマ米大統領(当時)とシャリフ首相(当時)による首脳会談などにおいてそれらの再開が確認され、14(平成26)年1月には3年ぶりの戦略対話も実施された。

一方で、パキスタンは米国に対し、国内でのイスラム過激派に対する無人機攻撃の即時停止などを求めて、たびたび抗議を行っている。

これに対し米国は、パキスタンがアフガニスタンで活動するイスラム過激派の安全地帯を容認していることが、米国への脅威となっているとして、パキスタンを非難してきた。17(平成29)年8月、トランプ米大統領は、米国を標的にするテロリストをかくまうような国とのパートナーシップは成立し得ないとの立場を示し、同月、パキスタンに対する援助のうち、国務省が管轄する対外軍事融資2億500万ドルの停止を発表した。これに続き、18(平成30)年1月には、国防省が管轄する安全保障関連の援助を停止する方針が発表され、同年9月には国防省が管轄する連合支援基金3億ドルの支援を停止することが報じられた。この停止は、パキスタンがアフガニスタンのタリバンなどのテロ組織に対し、断固とした措置を講ずるまで継続されるとしており、両国の今後の対応が注目される。

(3)中国との関係

参照2章2節3項5(3)(南アジア諸国との関係)

9 パキスタンは、1970年代から核開発を開始したとみられており、1998(平成10)年、バルチスタン州チャガイ近郊において同国初の核実験を行った。また、パキスタンの核開発を主導していたカーン博士らにより、北朝鮮、イラン、リビアに主にウラン濃縮技術を中心とするパキスタンの核関連技術が移転されていたことが、04(平成16)年に明らかになった。

10 「シャヒーン3」(ハトフ6)は、射程約2,750km、移動型で2段式固体燃料推進方式の弾道ミサイル、「アバビール」は、射程約2,200km、新型の弾道ミサイル、「ラード」(ハトフ8)は、射程約350kmの巡航ミサイル、「バーブル」(ハトフ7)は、射程約750kmの超音速巡航ミサイルと指摘されている。

11 SIPRI YEARBOOK 2018が実施した13(平成25)年から17(平成29)年までの統計による。

12 SIPRI YEARBOOK 2018による。