第1章 概観
戦後最大の試練の時を迎える国際社会
- 普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大。力による一方的な現状変更やその試みは、既存の国際秩序に対する深刻な挑戦。国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入。グローバルなパワーバランスが大きく変化し、国家間の競争が顕在化し、特に米中の国家間競争が今後一層激しさを増す可能性がある。
- 科学技術の急速な進展により、安全保障のあり方が根本的に変化。各国は、いわゆるゲーム・チェンジャーとなりうる先端技術の開発を推進。従来の軍隊の構造や戦い方に根本的な変化が生起している。
- サイバー領域などにおけるリスクの深刻化や、情報戦の展開、気候変動など、グローバルな安全保障上の課題も存在している。
- 領域をめぐるグレーゾーン事態が恒常的に生起。軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせるハイブリッド戦がさらに洗練された形で実施される可能性がある。
厳しさを増すインド太平洋地域の安全保障
- このようなグローバルな安全保障環境と課題は、わが国が位置するインド太平洋地域で特に際立っており、将来、さらに深刻さを増す可能性が存在する。
- ウクライナ侵略と同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない。

わが国周辺の安全保障環
第2章 ロシアによる侵略とウクライナによる防衛
- ロシアによるウクライナへの侵略は、ウクライナの主権と領土一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国連憲章を含む国際法の深刻な違反。このような力による一方的な現状変更は、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがすものである。
- 国際の平和と安全の維持に主要な責任を負うこととされている国連安保理常任理事国が、国際法や国際秩序と相容れない軍事行動を公然と行い、罪のない人命を奪うとともに核兵器による威嚇ともとれる言動を繰り返すという事態は前代未聞。このような侵略を容認すれば、他の地域でも力による一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、わが国を含む国際社会として、決して許すべきではない。
- ウクライナ自身の強固な抵抗に加え、国際社会が結束して強力な制裁措置などを実施。NATO加盟国である米国の同盟国であり、欧州とはユーラシア大陸を挟んで対極に位置するわが国として、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識のもと、その戦略的な影響を含め、今後の欧州情勢の変化に注目していく必要がある。

ウクライナ・ハルキウの被害状況(2025年2月)
【NurPhoto=AFP】
第3章 諸外国の防衛政策など
米国 ~第2期トランプ政権の安全保障政策と活動~
- 2025年1月、第2期トランプ政権が成立し、同年12月には「国家安全保障戦略」、2026年1月には「国家防衛戦略」が発表され、改めて第2期トランプ政権が描く安全保障戦略が明らかになった。
- 「アメリカ・ファースト」を掲げ、戦争省は「力による平和」を回復するとし、本土防衛を最優先としつつもわが国の所在するインド太平洋地域にも重点を置くこととしている。また、同盟国との関係などについても詳しく記述されている。

入隊宣誓を執り行うヘグセス戦争長官【米戦争省】
中国 ~力または威圧による一方的な現状変更の試みや活動の活発化~
- 中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、わが国と国際社会の深刻な懸念事項であるとともに、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の総合的な国力と同盟国・同志国などとの協力・連携により対応すべきものである。
- 過去30年以上、透明性を欠いたまま、継続的に高い水準で国防費を増加。核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している。
- 尖閣諸島周辺をはじめとする東シナ海、日本海、さらには西太平洋など、いわゆる第一列島線を越え、第二列島線に及ぶわが国周辺全体での活動を活発化させている。
- 2025年には、6月の空母1隻の硫黄島より東側の海域での活動および空母2隻の太平洋上での活動、同月の中国軍戦闘機による自衛隊機への特異な接近、7月の中国軍戦闘爆撃機による自衛隊機への特異な接近、12月の空母による沖縄本島東方から奄美大島東方の太平洋上にかけての活動および中国軍戦闘機による自衛隊機への約30分にわたる断続的なレーダー照射などが相次いで発生した。
- 中国軍機の特異な接近は、偶発的な衝突を誘発する可能性があり、また、中国軍機によるレーダー照射は、航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為であり、このような事案が発生したことは極めて遺憾である。
- 台湾周辺での軍事活動を活発化させ、台湾周辺海空域で軍事演習をたびたび実施している。中国は、台湾周辺での一連の活動を通じ、中国軍が常態的に活動している状況の既成事実化を図るとともに、実戦能力の向上を企図しているとみられる。
- 南シナ海において、不法な海洋権益の主張に基づき活動を活発化させ、軍事化を推進している。力または威圧による一方的な現状変更の試みを一層推し進める行為であり、わが国として深刻に懸念している。南シナ海をめぐる問題はインド太平洋地域の平和と安定に直結するものであり、南シナ海に主要なシーレーンを抱えるわが国のみならず、国際社会全体の正当な関心事項である。
- 軍事活動を含め、ロシアとの連携を一層強化。2025年9月の「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」においては、習近平国家主席、プーチン大統領、金正恩国務委員長の3人が並び立つ姿を示した。わが国周辺では、中露による爆撃機の共同飛行や艦艇の共同航行を実施。こうした度重なる共同での活動は、わが国に対する示威活動を明確に意図したものであり、わが国の安全保障上、重大な懸念がある。

総書記として3期目に入った習近平氏【EPA=時事】

2025年9月の軍事パレードにおいて並び立つ習国家主席、プーチン大統領、金正恩国務委員長【EPA=時事】
米中の戦略的競争、緊張感が高まる台湾情勢
- 中国の国力伸長によるパワーバランスの変化や種々の懸案などにより、近年、米中の政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化している。
- 中台の軍事バランスは、全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している。
- 台湾について、中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は内政問題であるとの原則を堅持。武力行使を放棄していない旨たびたび表明。中国は、台湾周辺での軍事活動をさらに活発化している。
- 中国のグレーゾーンでの軍事活動を通じた統一の追求にも警戒感の高まり。海警船を前面に展開させグレーゾーンでの台湾封鎖を行う可能性もある。

中国軍が公表した台湾周辺での演習区域
(2025年12月)【時事】
北朝鮮 ~核・ミサイル開発の進展~
- 北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全保障にとって従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威であり、地域と国際社会の平和と安全を著しく損なうもの。大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。
- 北朝鮮は、過去6回の核実験を実施し、技術的には、わが国を射程に収める弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を保有しているとみられる。
- 近年、極めて速いスピードで継続的にミサイル開発を推進し、変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルや「極超音速ミサイル」と称するものなどを発射。核兵器の搭載を念頭に置いた長距離巡航ミサイルの実用化も追求している。
- ロシアによるウクライナ侵略が継続するなか、ロシアとの協力関係を急速に進展。ロシアとの軍事協力を通じ、北朝鮮の軍事力が中長期的に増強されるおそれがあり、わが国を取り巻く地域の安全保障の観点から深刻に憂慮すべき。
- 2026年2月の朝鮮労働党第9回大会においては、今後5年間の軍事的な目標として、核戦力を不断に強化していく姿勢が改めて明確に示された一方、無人アセットや電子戦システムなど、核・ミサイル以外の各種兵器の開発目標にも言及された。北朝鮮は、核・ミサイル開発を継続すると同時に、各国における軍事科学技術の動向を踏まえながら、多様な装備体系の開発を目指していくものとみられる。

2025年10月10日の軍事パレードに登場した「「火星砲20」型」【朝鮮通信=時事】
ロシア ~「強い国家」を掲げるロシアと中国の戦略的連携~
- ロシア軍は、極東方面にも最新の装備を配備する傾向にあるなど、わが国周辺における活発な軍事活動を継続。わが国を含むインド太平洋地域におけるロシアの軍事的動向は、中国との戦略的な連携と相まって安全保障上の強い懸念となっている。
- 「強い国家」を掲げるロシアは、各種の新型兵器の開発・配備を進めてきたが、ウクライナ侵略開始後は、兵員数の増加や部隊編制の拡大改編も指向している。
- わが国固有の領土である北方領土において、不法占拠のもと、軍の活発な活動を継続。所在部隊の施設整備を進めているほか、海軍所属の沿岸(地対艦)ミサイルや航空宇宙軍所属の戦闘機などの新たな装備も配備し、周辺海空域において大規模な演習も実施されている。

「キンジャル」を装備したMiG-31戦闘機
【EPA=時事】
中東 ~不安定な情勢が継続~
- 2025年6月および2026年2月以降、イスラエル・米国とイランによる攻撃の応酬が発生した。また、イランがホルムズ海峡の封鎖を宣言する一方、米国はイラン港湾に出入する船舶に対する海上封鎖を発表した。米国とイランは、同年4月に2週間の停戦で合意し、その後もパキスタンなどを介して停戦期間の延長や交渉が行われ、同年6月には、双方が戦闘終結などに関する覚書に署名した旨を発表するに至った。
- ガザ情勢に関しては、トランプ大統領の「ガザ紛争終結のための包括的計画」の下、当事者間で合意が成立した。停戦と人質解放が実現するなどの進展がみられた。

イランのミサイルがイスラエル北部ハイファ沿岸に着弾する様子(2026年2月)【EPA=時事】
第4章 新しい戦い方をめぐる動向
新しい戦い方や課題
- ウクライナの戦場では、大量・安価・多種多様な無人アセットが投入され、高価な装備品や生活インフラへの攻撃に使用されるとともに、これに従来の砲弾やミサイルを組み合わせた大規模な複合攻撃が展開されている。
- AI・ネットワークによる意思決定の迅速化や、宇宙・サイバー・電磁波領域における戦いに加え、情報戦も高度に組み合わせた戦いが行われている。さらに、従来と比べ、極めて短いサイクルで装備品や戦術が更新される状況もみられる。
- ロシア・ウクライナの双方とも装備品・弾薬の安定的調達を課題と認識しているとみられる。平素からの備蓄、そして持続的な対応能力を確保することの重要性が浮き彫りとなっている。同時に、同盟国・同志国などから効果的な支援を獲得することも重要な要素となっている。

一人称視点タイプのUAV(FPV(First Person View)ドローン)とそれを操作する様子【ウクライナ軍】
新しい戦い方を支える各種領域や先端技術の動向
- 宇宙・サイバー・電磁波領域および先端技術は、新しい戦い方において重要な要素となっている。
- 宇宙領域では、指揮統制、通信、情報収集・警戒監視・偵察などの強化を目的に人工衛星が利用されるなか、対衛星兵器などによる宇宙アセットへの脅威が増大している。サイバー領域では、重要インフラへの侵害を含むサイバー攻撃が安全保障上の脅威となり、電磁波領域では、電子攻撃を含む電子戦や電磁波管理が現代の作戦において重要となっている。
- これらの領域を支えるAI技術、量子技術などの先端技術は技術開発が急速に進んでいる分野であるほか、情報戦においても、ディープフェイクや生成AIで作成される動画、画像などが一層深刻な脅威になっている。
防衛生産・技術基盤をめぐる動向
- 米国では、国防高等研究計画局 (DARPA)や国防イノベーションユニット(DIU)などを通じて先端技術に対して積極的な投資を行っている。
- 中国は、「新時代の中国の国家安全保障」と題した白書において、新興領域(ネットワーク、データ、AIなど)の発展を国家安全保障の新たな領域と位置付け、先端技術の発展が安全保障環境に深刻な影響を与えると指摘している。
- NATOでは、安全保障に高度な新技術を取り入れることを目的として、北大西洋防衛イノベーションアクセラレータ(DIANA)を設立した。2026年チャレンジプログラムでは、DIANAが150社の企業を選定し、防衛・安全保障上の課題(エネルギー、宇宙作戦、無人システムなど)に対処するためのデュアルユース技術を開発することとしている。
- 各国では、AI・量子・半導体などの先進技術の安全保障への適用および管理を積極的に推進している。また、自国の防衛生産・技術基盤を国防に必要な要素ととらえ、国内企業参画支援や輸出の促進など、様々な取組を進めている。特に装備品の輸出は、防衛生産・技術基盤の強化のみならず、輸出先の相手国との間の関係強化にも資するため、各国は戦略的に取り組んでいる。