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<視点>情報通信技術(ICT)時代の新たな戦い方

防衛研究所 グローバル安全保障研究室 主任研究官 1等陸佐 川村 幸城(かわむら こうき)

スマートフォンがあれば、いつでも、どこでも世界中の人々とメッセージや映像を交換できます。そのためには近くに電波が届く通信施設が存在しなければなりません。そうしたスマートデバイスの情報インフラを活用した作戦の代表的な事例が、広大なロシア領の奥地にある軍事基地を攻撃したウクライナによる「蜘蛛の巣」と呼ばれる作戦(2025年6月)でした。

この作戦では、ウクライナ国内にいるドローンのオペレータが117機の「オサ」(スズメバチの意)と呼ばれる小型ドローンを使って1,000km~5,000kmも離れた複数のロシア軍基地を同時攻撃し、多数の大型爆撃機などを破壊しました(日本円にして1兆300億円規模の損害)。わずか10数キロの航続距離しかもたない小型ドローンが、なぜ数千キロも離れたロシア軍基地を攻撃できたのでしょうか。

まず大型トレーラのコンテナ天井部にドローンを数十機単位で隠し、地元のロシア人運転手を雇って標的から10km圏内までトレーラを移動させました。そこから携帯電話と同じSIMカードを内蔵したドローンが敵国のモバイル通信網(私たちが日ごろ利用している4G/LTE回線)を介して制御信号を受信することで、数千キロも離れたウクライナ国内から遠隔操縦できたと言われています(図参照)。またオペレータがドローンの自己位置情報をリアルタイムに把握するためGNSS信号の受信機も必要でした。

ドローン運用のシステム構成

ドローン運用のシステム構成

通常のモバイル回線を使用した遠隔操縦では、トラフィック信号の遅延や電波干渉も起こり得ます。そのためドローンには誰でもフリーで入手できる飛行制御のソフトウェア(ArduPilot)が搭載されていました。これによりドローンはあらかじめ設定した飛行ルートをたどり、安定した自動操縦を維持することができました。この飛行安定化機能に加え、トラフィック信号が遅延したり、通信が途絶した場合に作動する「フェイルセーフ」機能も備えていました。

敵地での飛行ですから、当然、相手からの電波妨害を受けることも予想されていました。そのためドローンには学習済みAIモジュールが搭載されていました。これによりドローンがオペレータによる制御の手を離れてしまった場合でも、物体認識アルゴリズムにより自律的な終末誘導が可能となり、あらかじめ学習したターゲット脆弱点を捉えることができたのです。AIモジュールを動作させるためにはコンピュータが必要ですが、オサ・ドローンに積まれていたのはRaspberry Pi-5(日本では「ラズパイ」の愛称で知られています)という名刺サイズの小型PCでした。

コードネーム「蜘蛛の巣」と呼ばれたこの作戦は、それまでウクライナの攻撃力が及ばないと考えられていたロシアの最深部までをカバーしていたことから名付けられました。それを可能にしたのは、ロシア国内のモバイル通信網を利用できたからです。SIMカードをUSBメモリ(いわゆるドングル)でコンピュータにつなげば誰でもできる仕掛けです。実際、ロシア軍も連日のように繰り返されるウクライナへの空襲で、現地のモバイル通信網を活用していると言われています。

私たちはスマートフォンさえあれば、世界中のどこからでも通信できる利便性を享受しています。それと同じように、小型コンピュータとSIMカードを内蔵した小型ドローンは、それが隠密裏に運び込まれさえすれば、どこからでも、どこへでも破壊工作に利用できる。最近の紛争事例は、そうした新しい現実を私たちに突き付けているように感じられます。

(注)本コラムは、研究者個人の立場から学術的な分析を述べたものであり、その内容は政府としての公式見解を示すものではありません。