国家防衛戦略
Ⅶ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤

 防衛生産・技術基盤は、自国での装備品の研究開発・生産・調達を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を防衛装備品に取り込むために不可欠な基盤であることから、いわば防衛力そのものと位置付けられるものであり、その強化は必要不可欠である。そのため、新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築、様々なリスクへの対処、販路の拡大等に取り組んでいく。汎用品のサプライチェーン保護、民生先端技術の機微技術管理・情報保全等の政府全体の取組に関しては、防衛省が防衛目的上必要な措置を実施していくことと併せて、関係省庁間の取組と連携していく。

1 防衛生産基盤の強化

 我が国の防衛産業は、自衛隊の任務遂行に当たっての装備品の確保の面から、防衛省・自衛隊と共に国防を担うパートナーというべき重要な存在であり、高度な装備品を生産し、高い可動率を確保できる能力を維持・強化していく必要がある。そのためには、防衛産業において、防衛技術基盤の強化を通じた高度な技術力及び品質管理能力を確保することに加え、装備品の生産・維持・整備、改修・能力向上等を確保していく。

 防衛産業が、このような大きな役割を果たすために、サプライチェーン全体を含む基盤強化を図っていく。その際、防衛産業のコスト管理や品質管理に関する取組を適正に評価し、適正な利益を確保するための新たな利益率の算定方式を導入することで、事業の魅力化を図るとともに、既存のサプライチェーンの維持・強化と新規参入促進を推進する。

 また、装備品の取得に際して、企業の予見可能性を図りつつ、国内基盤を維持・強化する観点を一層重視し、技術的、質的、時間的な向上を図るとともに、こうした措置を講じてもなお、他に手段がない場合、国自身が製造施設等を保有する形態を検討していく。

 さらに、防衛産業のサプライチェーンリスクに対応するとともに、国際水準を踏まえたサイバーセキュリティを含む産業保全を強化し、併せて機微技術管理の強化に取り組む。こうした観点から、同盟国・同志国等の防衛当局と、防衛産業に関するサプライチェーン保護、機微技術管理等を実施していく。

2 防衛技術基盤の強化

 新しい戦い方に必要な装備品を取得するためには、我が国が有する技術を如何に活用していくかが極めて重要である。そのために、防衛省・自衛隊においては、防衛関連企業等から提案を受け、新しい戦い方に適用し得るかを踏まえた上で、当該企業が有する装備品特有の技術や社内研究成果、さらには、非防衛産業から取り込んで装備品に活用できる技術を早期装備化に繋げていくための取組を積極的に推進していくこととする。特に、政策的に緊急性・重要性が高い事業の実施に当たっては、研究開発リスクを許容しつつ、想定される成果を考慮した上で、一層早期の研究開発や実装化を実現する。

 また、試作品を部隊で運用しながら仕様を改善し、必要な装備品を部隊配備する取組を強化する。

 さらに、我が国の防衛に資する装備品を取得する手段として、我が国主導の国際共同開発を推進するなど、同盟国・同志国等との協力・連携を進めていく。

 加えて、スタートアップ企業や国内の研究機関・学術界等の民生先端技術を積極活用するための枠組みを構築するほか、総合的な防衛体制強化のための府省横断的な仕組みを活用する。

 防衛装備庁の研究開発関連組織のスクラップ・アンド・ビルドにより、装備化に資するマルチユース先端技術を見出し、防衛イノベーションにつながる装備品を生み出すための新たな研究機関を創設するとともに、政策・運用・技術の面から総合的に先端技術の活用を検討・推進する体制を拡充する。こうした体制の下、予見可能性を高める観点から、新しい戦い方を踏まえて、重視する技術分野や研究開発の見通しについて戦略的に発信する。

3 防衛装備移転の推進

 防衛装備品の海外への移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる。こうした観点から、安全保障上意義が高い防衛装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に行うため、防衛装備移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直しについて検討する。その際、三つの原則そのものは維持しつつ、防衛装備移転の必要性、要件、関連手続の透明性の確保等について十分に検討する。また、防衛装備移転を円滑に進めるため、基金を創設し、必要に応じた企業支援を行うこと等により、官民一体となって防衛装備移転を進める。