国家防衛戦略
Ⅷ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化

1 人的基盤の強化

 防衛力の中核は自衛隊員である。防衛力の抜本的強化を実現するに当たっては、自衛官の定員は増やさずに必要な人員を確保するとともに、自衛隊員には、これまで以上の知識・技能・経験が求められているほか、偽情報等に惑わされない素養を身に着ける必要が生じていることも踏まえつつ、全ての隊員が高い士気と誇りを持ちながら、個々の能力を発揮できる環境を整備する必要がある。生活・勤務環境の改善、処遇の向上、栄典・礼遇に関する施策の推進、自衛隊員の家族や関係団体等との連携を含めた家族支援の拡充、人事管理の柔軟化等を通じた女性隊員が更に活躍できる環境醸成、ワークライフバランスの推進、若年で退職する自衛官の再就職支援の充実等に引き続き取り組む。特に、高い即応性、長期の任務、社会と隔絶された厳しい環境での勤務を求められる隊員には一定の配慮が必要である。また、ハラスメントは人の組織である自衛隊の根幹を揺るがすものであることを各自衛隊員が改めて認識し、ハラスメントを一切許容しない組織環境を構築する。これらの取組は、中途退職による戦力低下を防止するだけでなく、有為な人材を確保するためにも重要である。

 採用については、質の高い人材を必要数確保するため、募集能力の一層の強化を図る。あわせて、精強性の維持に配慮しつつ、定年年齢を更に引き上げるとともに、退職する自衛官の再任用を拡大することにより、熟練した技能の有効活用を図る。さらに、柔軟な人材活用を進め、サイバー領域等の専門的な知識・技能を有する民間人材を含めた幅広い層からの人材確保を推進する。特に、充足率の低い艦艇乗組員や、レーダーサイトの警戒監視要員等の人材確保に資する施策を総合的に講じていく。なお、常備自衛官の補完等に当たる予備自衛官等については、サイバー領域を含め、採用を大幅に増やすべく、その制度の見直しや体制強化に取り組む。また、退職した自衛隊員等との連携を強化する。

 採用した人材の育成については、自衛隊員へのリスキリングや防衛大学校、各自衛隊の学校等の教育基盤の強化を図る。この際、サイバー領域等の専門性が高い分野や、統合教育・研究を特に強化するとともに、希少な専門人材を有効に活用するための施策を講じる。また、防衛省における事務官等は、防衛力の一要素として自衛隊の活動を支えるとともに、防衛力の抜本的強化やそれに伴う政策の企画立案、部隊における運用支援等のために重要な役割を果たすものである。そのために必要となる事務官・技官等を確保し、さらに必要な制度の検討を行うなど、人的基盤の強化に取り組む。

 このように、自衛隊員が育児、出産、介護といった各種のライフイベントを迎える中にあっても、遺憾なくその能力を発揮できる組織環境づくりにも配慮し、自衛隊員としてのライフサイクル全般に着目した大胆な施策を講じる。

2 衛生機能の変革

 自衛隊衛生については、これまで自衛隊員の壮健性の維持を重視してきたが、持続性・強靱性の観点から、有事において危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救う組織に変革する。

 このため、各種事態への対処や国内外における多様な任務に対応し得るよう、各自衛隊で共通する衛生機能等を一元化して統合的な運用を推進するとともに、防衛医科大学校も含めた自衛隊衛生の総力を結集できる態勢を構築し、戦傷医療能力向上のための抜本的改革を推進する。

 この際、南西地域の第一線から本州等の後送先病院までの役割の明確化を図った上で、第一線から後送先病院までのシームレスな医療・後送態勢を確立し、後送に係る衛生資器材の共通化を図るとともに、医療・後送に際して必要となる医療情報を第一線を含む全国の医療拠点・施設で共有するシステムを整備する。また、部隊の救護能力の強化、外傷医療に不可欠な血液・酸素を含む衛生資器材の確保、南西地域の医療拠点の整備も行う。

 さらに、防衛医科大学校での戦傷医療についての教育研究の強化を進めるとともに、医官及び看護官の臨床経験をより充実させるために必要な運営改善を進める。また、積極的な部外研修によって医官及び看護官の臨床経験を補完する。その上で、戦傷医療についての統合教育・訓練を通じ各自衛隊共通の知識・技能の向上を図る。