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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 防衛生産・技術基盤をめぐる動向

近年、特に欧米諸国においては、国防費の大幅な増額が困難な状況が続いている。一方で、軍事科学技術の高度化や装備品の複雑化にともない、開発・生産コストが高騰して装備品の調達単価が上昇傾向にある。このような中で、諸外国は、自国の防衛生産・技術基盤を維持・強化するため、各種の取組を進めている。

欧米諸国は、前述の国防費をめぐる状況を踏まえ、防衛産業の再編による競争力の強化を指向してきた。米国では、主に国内企業間の合併・統合が繰り返されたのに対し、欧州では、ドイツ、フランス、英国、イタリアを中心に、国境を越えた防衛産業の合併・統合がみられた。

また、欧米諸国は、開発・生産コストの高騰に対応するため、同盟国・友好国間での装備品の共同開発・生産や技術協力を推進し、①開発・生産費用の分担、②共同開発・生産の参加国全体への需要拡大、③技術の相互補完、④最先端技術の獲得による国内技術の底上げなどを目指している。

例えば、米国主導のF-35戦闘機の共同開発・生産は最大の共同開発・生産事業であり、現時点で約3,200機の需要が見込まれ14、同機の運用・維持・整備段階も含め関係国の防衛生産・技術基盤に影響を及ぼすことになる。

また、民間の国防研究開発にファンディングなどの形で各国政府が資金提供を行う例も増加している。米国では、安全保障に資するブレイクスルー技術への投資を任務とするDARPA15に対し、18米会計年度において約31億7,000万ドルの研究開発予算が要求されているように、長年、国防当局により、企業や大学などによる研究に対してファンディングなどによる大規模な資金提供が行われている。加えて、EUにおいても、加盟国による国防技術研究に対する支出が過去10年間一貫して削減されてきたことを背景に、国防技術研究に対するファンディング枠組みに関する漸進的プロセスを進展させている。17(平成29)年に、12以上の国防研究事業に対して3年間で9,000万ユーロを出資する共通安全保障・防衛政策CSDP(Common Security and Defence Policy)関連研究に係る「準備行動(Preparatory Action)」が、欧州防衛庁(European Defence Agency)を実施機関として開始された16

諸外国による装備品の海外輸出は冷戦期から行われてきたが、現在も多くの国々が輸出促進策をとっている。

近年、アジア太平洋地域への装備品の輸出が増加しているが、その背景には、域内の経済成長のほか、中国の影響力拡大や領有権をめぐる争いの存在、近隣諸国の軍事力発展への対応などがあると指摘されている。中国や韓国などは、これまでの装備品の輸入や科学技術力の向上にともない、装備品の製造基盤が整ったことで、安価な装備品の輸出を拡大している。

また、装備品の輸入国においては、国外からの装備品及び役務の調達の条件として、部品の製造などへの国内企業の参画を求めるなど、輸入による防衛力整備と国内の防衛生産・技術基盤の育成の両立を可能とするためのオフセット政策17を採用している。

参照図表I-3-6-1(主要通常兵器の輸出上位国(2013~2017年))
図表I-3-6-2(アジア太平洋地域における主要通常兵器の輸入額推移状況(2013~2017年))

図表I-3-6-1 主要通常兵器の輸出上位国(2013~2017年)

図表I-3-6-2 アジア太平洋地域における主要通常兵器の輸入額推移状況(2013~2017年)

14 共同開発・生産国はオーストラリア、カナダ、デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、トルコ、英国及び米国の9か国、その他の取得国はイスラエル、韓国及び日本であり、これら各国の防衛生産・技術基盤が製造・整備に関与する。

15 DARPAは自前の研究所や開発研究施設を保有せず、3~5年の任期で雇用されるプログラム・マネージャー約100名が研究・開発プログラム約250件を監督する国防省の機関である。

16 EUは、14(平成26)年から20(平成32)年の7年間で800億ユーロを拠出する研究・イノベーション向けファンディング・プログラム「ホライズン2020」を立ち上げているが、出資対象が民生またはデュアル・ユース技術研究に限定されていた。また、英国では、国防科学技術研究所(DSTL:Defence Science and Technology Laboratory)が、英国の国防・安全保障能力開発のために必要な斬新かつハイリスクかつ潜在的収益率が高い研究に出資するため、平成29(2017)年度に600万ポンドの予算を有し、概念実証研究の課題を恒常的に公募している。

17 オフセットの定義について、米国商務省作成議会報告「国防関係取引に関するオフセット(第21版)」によれば、国防関係取引におけるオフセットには、共同生産、ライセンス生産、下請け契約、技術移転、購入及び支払上の支援といった産業上・商業上の見返りが含まれる。