世界における行進曲「軍艦」
練習艦隊訪問国の軍楽隊が、「軍艦」を演奏して迎えてくれることがよくあります。しかし、その楽譜のほとんどは、海上自衛隊が贈呈したもので、海軍軍楽隊は外国の軍楽隊に楽譜を贈呈していなかったようです。
昭和58年5月30日の朝刊各紙は、アメリカのウイリアムズバーグで開催された第九回先進国首脳会議(サミット)で、中曾根康弘総理大臣(元海軍主計少佐)に対し、アメリカ陸軍軍楽隊が「軍艦」を演奏したことを、さも一大事件ででもあるかのように報道しました。〝外国人記者団にどよめきが起きた!〟と報じた新聞もありましたが、日本人記者が大騒ぎしただけのことで、外国人記者団は〝なにごとか?〟と訝しがったようです。
この時の楽譜は、昭和50年度の練習艦隊音楽隊がワシントンの海軍軍楽隊を訪問した際に寄贈したものを、陸軍が借りてきて演奏したものでした。日本で問題になったことから陸軍軍楽隊にも非難が行ったようです。
この騒動は、海上自衛隊幹部学校に留学したことのあるジェームス・アワー海軍中佐が〝「軍艦」は米国でいえば「錨を上げて」と同じで、この曲の演奏が海軍に奉職した首相に対して非礼でも無神経でもないはずである〟とワシントン・ポストに投稿し沈静しました。
練習艦隊がタイ国の首都バンコクに入港する際、同国海軍軍楽隊は「軍艦」を演奏して歓迎します。その使用楽譜は、東京音楽隊にもない戦前のものです。これは、昭和18年に宣撫工作の一環として出版された「南方向吹奏楽譜」81曲のうち、同軍楽隊に保存されていた23曲の中の一曲です。
平成25年9月、練習艦隊がミャンマー連邦共和国のヤンゴンを初訪問した際、同国海軍軍楽隊が「軍艦」とソックリの曲を演奏して、海上自衛隊員がビックリしたことがありました。