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 米海大ナウ!

 賢い兵士に必要なもの:欺瞞作戦

(030 2015/12/02)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」のブロック2においては、ブロック1において習得したオペレーショナル・アートを踏まえたオペレーショナル・デザイン(作戦構想)と作戦計画の立て方を学びます。具体的には、作戦計画を立てるときの主要素である指揮・統制や情報、後方等をそれぞれ議論した後に、「統合作戦計画策定要領(Joint Operation Planning Process: JOPP)」を使って具体的な作戦計画の立て方を学んでいきます。
   ここで興味深いことは、昨年からJMOのシラバスに「欺瞞作戦」が追加されたことです。なぜ追加されたかと言えば、古来から戦争とは基本的には騙し合いであるからです。そこでは、陸上における作戦的欺瞞と海上における作戦的欺瞞、そして戦略的欺瞞について議論し、それぞれのケース・スタディとして、「バグラチオン作戦」「パステル作戦」及び現代中国の戦略を採り上げています。

【筆者作成】

   バグラチオン作戦」は、第2次世界大戦中の1944年6月22日に開始されたソ連のドイツに対する最大の反撃作戦で、ドイツの死傷者がわずか2か月で40万にも達した壮絶な戦いです。ソ連はパルチザン部隊の偵察によってドイツの配備を把握し、敵の強力な拠点を迂回しつつ敵が予想もしていなかったベラルーシの大森林と大湿地帯に新たな道を作り、機甲部隊をもってドイツ中央軍集団の正面を突破、壊滅させました。「バグラチオン作戦」は、奇しくも1941年6月22日のドイツによるソ連奇襲の「バルバロッサ作戦」からちょうど3年後に当たり、1944年6月6日には北フランスのノルマンンディー上陸作戦が開始されたため、ドイツは東部戦線と西部戦線に挟まれることになりました。このわずか3年の間に、急速に戦力を整備したソ連は、太平洋戦争における1943年頃の米国を想起させ、国力の大きな国への対応の難しさを改めて教えてくれます。

【筆者作成】

   次に、「パステル作戦」とは、太平洋戦争末期、連合国軍による日本本土侵攻作戦「ダウンフォール作戦」の一環として実施される予定であった南九州上陸の「オリンピック作戦」を欺瞞するための作戦です。「オリンピック作戦」は、1946年3月1日に予定されていた関東上陸作戦である「コロネット作戦」のための飛行場を確保するための作戦であり、1945年11月1日に予定されていたものです。この意図を欺瞞するために、1945年10月に連合国軍が中国本土の上海及び高知県に上陸するかのように見せかけるものでした。日本は総力を挙げた「決号作戦」を掲げるも、もはや本土防衛のための基地化や特別攻撃隊の再編成といった限られた作戦しかすべはありませんでした。

   現代中国の戦略については、孫子や毛沢東戦略の考え方とともに、「超限戦(Unrestricted Warfare,)」の今日的意義について議論を重ねます。現在、マイケル・ピルズベリー(Michael Pillsbury)の『100年のマラソン(The Hundred-Year Marathon)』が話題となっています。彼は、ニクソン政権から現在のオバマ政権に至るまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた人物であり、現在は米ハドソン研究所中国戦略研究センター長を務めています。著書のなかで、中国は建国100周年の2049年を目標に国力を強め、米国に代わって中国主導の国際秩序を築く長期戦略を進めていると警鐘を鳴らしています。中国の真の姿は、やはり、 孫子の教えにあるようです。 ところで、米海大で孫子を教えているウィルソン(Andrew R. Wilson) 教授の講義においては、まず次の孫子の言葉から始まります。
   「故に、善く戦う者は人を致して人に致されず。」(虚実編Ⅵ.2)
   Therefore the clever combatant imposes his will on the enemy, but does not allow the enemy's will to be imposed on him.
   賢い兵士は、自己の意図を敵に押しつけるが,敵の意図に押しつけられることはない。ウィルソン教授は、戦いとは敵との相互作用であり、どのように敵と作戦環境をコントロールするかが重要であるため、「孫子」を教える冒頭でこの言葉を強調しているそうです。現在のアジア太平洋地域の地域秩序をめぐる安全保障上の問題においても、平素からの知的競争に勝てるように賢くならなくてはいけません。

【欺瞞作戦のケース・スタディ】
1 Richard N. Armstrong,Soviet Operational Deception: The Red Cloak, Fort Leavenworth, KS: Combat Studies institute, 1988.
http://usacac.army.mil/organizations/cace/csi/pubs#ww2
2 Thomas M. Huber,Pastel: Deception in the Invasion of Japan. Fort Leavenworth, KS: Combat Studies institute, 1988.
http://usacac.army.mil/cac2/cgsc/carl/download/csipubs/pastel.pdf
3 Zhang Xingye, and Zhang Zhanli, eds.,Campaign Strategems, Beijing: National Defense University Publications, 2002.
   Qiao Liang and Wang Xiangsui, Unrestricted Warfare, Beijing: PLA Literature and Arts Publishing House, February 1999.
www.c4i.org/unrestricted.pdf