出題論文課題一覧表

年度 課題
2024

♢ 現代のわれわれを取り巻く環境をVUCA(ブーカ)な世界ということがある。VUCA とは、変動性(volatility)、不確実性(uncertainty)、複雑性(complexity)と曖昧性(ambiguity)という英語の頭文字をとった言葉である。冷戦の終結を受けて米国の陸軍大学校が東西両陣営の二極対峙構造とは異なる世界の特徴を示す用語として使いはじめ、その後、米軍内で普及し、世界の政財界のリーダーが集うダボス会議で取り上げられたことを契機に実業界に広まったとされる。

VUCA の変動性とは変化の幅が大きいことを、不確実性とは変化の予測が難しいことを、複雑性とは変化をもたらす要因が絡み合っていることを、曖昧性とは変化の因果関係が不明瞭であることを指すと解される。VUCA な世界での課題解決では、過去の安定した世界で確立された定型解(前例)は通用しない。

VUCA な世界の課題解決のヒントとしては、英語の頭文字が同じくVUCA となる用語が提唱されている。論者によって幅があるが、ビジョン(vision)、理解(understanding)、明瞭性又は勇気(clarity/courage)、敏捷性又は順応性(agility/adaptability)というキーワードが挙げられている。

以上の説明を踏まえて、まず、VUCA な世界を象徴する安全保障に関わる課題を取り上げ、その特徴を変動性、不確実性、複雑性と曖昧性という観点から説明しなさい。次に、その課題を解決するための取り組みの特徴をビジョン、理解、明瞭性又は勇気、敏捷性又は順応性という観点から論じなさい。その上で、こうした課題の解決に取り組む組織の在り方とそこで働く人材に求められる思考や行動の特性についてのあなたの考えを論じなさい。

♢ GPS、画像認識技術や通信技術の進歩により、自動車の自動運転技術は日々急速に進歩している。表1には、国土交通省の自動運転分類表を示す。

既に海外ではレベル4 の無人自動運転タクシーがサービスを展開している。国内でも2023年4 月には改正道路交通法が施行され、レベル4 を社会実装することが可能になっている。こうした動きを受けて、国内でも自動運転を利用した公共サービスについて複数の実証実験が実施されている。また、自動車が1つの情報端末としての役割を期待されるようになり、Mobility as a service(MaaS)と呼ばれる公共交通サービス全体をインターネットで連携させ利用者の利便性を高める仕組みなど、社会の交通利用のあり方は急速に変化しようとしている。現在の日本が抱える様々な社会問題に対してこれらの新しい技術をどの様に活用するかは、今後、官公庁が取り組むべき喫緊の課題の一つであろう。

国内での自動車運転の普及によって、特定の社会問題の解決のために有効となる公共サービスを以下の4つの項目を踏まえて提案しなさい。それぞれの項目について可能な限り具体的に記述すること。ただし、提案する公共サービスについては、あまり詳細な技術論に終始しないように気をつけて書くこと。また、4つの項目について箇条書きにする必要はない。

  1. 首都圏のような都会、あるいは過疎化の進む地方のどちらかを選び書くこと。また、どのような場所や地域を走ることを想定するかも具体的に書くこと。
  2. 目的(どのような社会問題を解決できるか)や、サービスがターゲットとする人のグループも明らかにすること。
  3. 必要とされる自動運転技術のレベル(表1)と自動運転車が有効である理由を明確にすること。また、それに付随する他の技術についても書き加えても良い。
  4. 提案する公共サービス導入に際して予想される社会的障壁とその対応策(あるいは、実施するべき実証実験)についても述べること。自動運転は技術的には未完成であることも踏まえて必要な安全策も考えること。表1
2023

◇2022年2月にロシアは「特別軍事作戦」の実施を表明した。ウクライナに対するロシアの全面的な侵略の背景については、ウクライナがロシアとは別個の自立した国民国家として存在することを否定するプーチン大統領の独自の主張、NATO の東方拡大が「強い国家」や「影響力ある大国」を掲げるロシアに脅威を及ぼすという認識、ロシア軍の能力向上に対する自信とクリミア「併合」の成功体験からウクライナの抵抗意思と能力を楽観視した可能性、選挙や政権交代で欧州諸国の対外関心がそれることを好機とみなす判断などが指摘されている。

令和4年12月に策定された我が国の『国家安全保障戦略』では「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた。同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」との認識が示されている。

ロシアによるウクライナ侵略が東アジアで同様の深刻な事態の惹起を懸念させる理由を、この侵略が国際関係の在り方全般に及ぼす影響や東アジアが抱える課題と欧州・ロシア地域との共通性に着目しつつ説明しなさい。また、これらの分析を踏まえて、東アジアで同様の深刻な事態を防ぐために、どのような教訓をひきだせるのかを論じなさい。

◇国の電子政府化方針の進捗と防衛費の増大によって、防衛省はさらに国民への説明の必要性が増すであろう状況を鑑みるに、当然の帰結として、近い将来、防衛省が国民に対してSNSをさらに活用するよう、多方面から求められるのではないかと思われる。すでに多くの地方自治体等がSNS活用を目指し、成功・失敗の先行事例を残しているが、実のところ日本における関連法規はSNSができる以前の成立であるために、行政側から発信する際における実務上の法的妥当性は未整理のままという様相である。行政機関内での手続きを十全に踏んだ状態で省庁がSNSを活用できるようにする場合に必須だと思われる点について論じなさい。

2022

◇冷戦後の自衛隊の任務は大きく拡大した。湾岸戦争の終結後には、ペルシャ湾への掃海艇派遣が行われ、国際緊急援助隊や国連平和維持活動への参加が可能となった。北朝鮮の核危機や台湾海峡危機の後には、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態への対応が可能となった。米国における同時多発テロの後には、国際テロリズムや海賊など国際社会の脅威に対する共同対処への協力も可能となった。その後は、日本に対するさまざまな侵害活動への対応に関心が及び、有事法制をはじめ弾道ミサイル等の破壊や在外邦人等の輸送手段の拡充が可能となった。平和安全法制の整備では、憲法の解釈が変更され、存立危機事態への対処や米艦等の防護、在外邦人等の保護措置や国連平和維持活動での安全確保業務と駆付警護等が可能となった。

2035年に向けて、自衛隊の任務の範囲やその比重を左右し得る国内外の環境がどのように変化し得るかを、以下の手順を踏まえた複数の未来シナリオ(経路、世界像)の策定を通じて論考し、防衛省・自衛隊が取り組むべき課題を明らかにしなさい。

  1. 自衛隊の任務の多様化をもたらした原動力を4点挙げて、これらの要因が任務の多様化をどのように促進してきたかを説明しなさい。原動力の候補としては、例えば、以下の切口が考えられるが、これ以外の要素を考えても差し支えない。
    1. 国際環境要因
    2. 国内環境要因(社会、技術、経済、防衛、政治、法制、環境、治安等)
    3. 日本国民に共有された国際社会観
  2. 前項のモデルの各原動力について、これまでと同じように作用し続ける場合と作用が変化する場合を考える。
    1. (1)の4点の原動力がこれまでと同じように作用し続けると想定した場合のベース・シナリオの世界像を説明しなさい。
    2. この4点のいずれかの原動力の作用が変化した場合に出現し得るシナリオから(3)での考察にとり意義深いものを3種類挙げて、それぞれのシナリオに名称を付した上で、どの原動力の作用がどう変化し、どのような世界像が出現し、自衛隊の任務の在り方にどのような影響を及ぼすことになるのかを説明しなさい。
  3. 4つのシナリオから、あなたが考える最善と最悪のシナリオをその理由とともに指摘し、今後、防衛省・自衛隊が取り組むべき課題を明らかにしなさい。

◇読書は言語活動の中でも、より知的で創造的な営みであり、文化継承の面においてその果たした役割は計り知れない。しかし、現代人の読書事情を統計から眺めてみると、その読書観が伝統的なそれと大いに変わってきている印象を抱く。

まず、別紙の表より、現代人の読書に対する意識の傾向について論及しなさい。その際、提示された表全てを読み解き、そこから見いだせることを指摘し、さらにそのような状況になっている原因について考察しなさい。

また、あなたはどのような読書観を持っているか。自身の読書体験を例として掲げながら、あなたの抱いている読書観、さらに読書とはこれからどのようなものになっていくべきなのかを論述しなさい。別紙

2021

◇尖閣諸島周辺海域では、平成24年9月以降、中国公船が我が国領海に侵入する事案が頻発するなど、緊迫した情勢にあり、昨今では、中国公船の大型化・武装化・増強が確認されているところですが、これに関連し、以下について述べてください。

  1. 我が国は、尖閣諸島について領土問題は存在しない、との立場に立っていますが、領土問題とは何かについて説明した上で、我が国の領土問題について述べてください。
  2. 例えば、我が国が、上記の尖閣諸島をめぐる中国との間の懸案を話し合いで解決することを目的として、尖閣諸島について中国との間で「領土問題は存在している」と認めることとしたとします。この日本の対応に対するあなたの考えを述べてください。
  3. 上記の尖閣諸島をめぐる中国との間の懸案について、自衛隊の対応のあり方も含めた今後の我が国の取組みのあり方に関し、あなたの考えを述べてください。

◇2019年末に中国の武漢で最初に報告された新型コロナウイルス感染症は瞬く間に世界に拡大し、以来我が国もこの新興感染症への対策に追われてきた。新型コロナウイルス感染症は人獣共通感染症であり、コウモリが自然界での宿主だと考えられている。農地開拓などにより野生動物の生息環境が破壊され、野生動物とヒトとの接触機会が増大したことが新興感染症の増加の原因である。よって今後も新興感染症の頻発は避けられないとする科学者は多い。この様な情勢において、国や地方自治体にはデータに基づく的確な状況判断と対策の実施が求められる。

別紙には2020年2月から2021年2月にかけての東京都の新型コロナウイルス感染症の動向に関するグラフが2つ示されている。以下の2つの点についてできる限り具体的な根拠を加えながら論ぜよ。

  1. 新型コロナウイルス感染症の感染状況の推移について、2つのグラフからそれぞれ読み取れることを記述し、その上で新型コロナウイルス感染症や医療に関わる知識と、国や東京都の行った対策の効果についても交えて解説せよ。(但し、高度な専門知識は要求しない。)
  2. ②あなたは公的機関の職員として新型コロナウイルス感染症対策の情報発信を担う立場になったとする。2021年7月以降に医療面、あるいは社会生活面において国民をサポートするためにはどのような情報発信が必要になると考えるか、その理由とともに具体的に論述せよ。別紙
2020

◇ 日米同盟について、巷間、「非対称」的な関係と言われますが、この「非対称性」について、説明して下さい。
また、かかる日米同盟に関しては、これまでも米国から「安保ただ乗り」などといった指摘がなされることがありましたが、あなたは、将来、日米同盟はどのような方向に進むべきであると考えますか、あなたの考えを述べなさい。

◇日本政府は、パリ協定(2016年11月4日発効)に基づく温室効果ガスの低排出型の発展のための長期的戦略として、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2019年6月に閣議決定した。以下の3項目について論じなさい。
1)このパリ協定がどのような点において画期的であったと考えられるか、その概略
2)どのようにしたらわが国が温室効果ガスの排出を削減することができるか、その方策
3)2)において提示した削減方策に伴う困難性